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第19話
しおりを挟む「みぃーーー。みぃーーー。」
「シャーーーーッ!フーーーーッ!!」
猫の赤ちゃんは私の腕の中でお腹が空いたと鳴き出す。
ミーア様は、私の腕の中の猫の赤ちゃんと私に向かって威嚇をする。
よほど怒らせてしまったようだ。
このまま私がここに居てもミーア様が猫の赤ちゃんにお乳を分け与えてくれないかもしれない。ここは、ミーア様が一番信頼しているルードヴィッヒ様に任せて私はドアの外で待っていた方が良さそうだ。
「ルードヴィッヒ様、この子をよろしくお願いいたします。私がいては、ミーア様が落ち着かないみたいですし。きっと猫の赤ちゃんだけだったらそれほど威嚇しないと思うんです。だから、ルードヴィッヒ様にこの子を託します。」
「ああ。わかった。やはりミーアも乳児を抱えているから、警戒心が強いようだね。すまない。」
「いいえ。ミーア様は子供を守ろうとする母親ですもの。」
私は部屋の外に出て、ミーア様の視界から姿を隠す。でも、猫の赤ちゃんが心配なのでドアの傍で聞き耳をたてて中の様子を伺う。
「ミーア。ほら、猫の赤ちゃんだよ。この子はお母さんとはぐれてしまったみたいなんだ。母親が恋しいと泣いているんだ。ミーア。この子にもお乳を分け与えてくれないかい?」
「シャーーーーッ。ヴーーーーーッ。」
ルードヴィッヒ様が優しい声でミーア様に話しかけている。ミーア様はまだ警戒しているようでうなり声を上げていた。でも、先ほどよりも落ち着いて来ているような気がする。
私は、音を立てないようにそぉーっとドアを開ける。僅かに開いた隙間から中の様子を伺う。
ミーア様は猫の赤ちゃんのことを威嚇しながらも気になるようで、自らの鼻を猫の赤ちゃんの顔に近づける。何度かクンクンと匂いを嗅いだ後、ミーア様はうなり声を上げなくなった。
まだ少し警戒はしているようだが、ルードヴィッヒ様の手の上の猫の赤ちゃんにミーア様は顔を近づけて、大きく口を開く。
そして、
パクッ
と、猫の赤ちゃんの首根っこを噛んだ。
「!!!!!?」
まさか、相手は赤ちゃんなのに噛みつくなんて!と、私は思わず悲鳴を上げそうになる。でも、ルードヴィッヒ様は何も言わずにこにこしながら、ミーア様と赤ちゃんの様子を見つめていた。
猫の赤ちゃんはピタリと鳴き止んだ。
あ、あれ?もしかして、気に入らないから噛みついたんじゃないの……?
ミーア様は口にくわえた赤ちゃんをトテトテと自分の寝床にしているカゴの中に連れて行く。そして、その場で口を放した。それから、猫の赤ちゃんの頭をミーア様がざらざらとした舌で舐める。
猫の赤ちゃんは、ミーア様の赤ちゃんと一緒になって、ミーア様のお乳を探し出すと咥えて、前足でふみふみとミーア様のお腹を触り出す。
そこまで見届けて、ルードヴィッヒ様がこちらにやってきた。
「なんとか、ミーアは赤ちゃんを受け入れてくれたようだよ。よかった。」
「ええ。本当によかったわ。」
「そうだね。でも、まだ安心はできないからね。二時間起きには様子を見なければ。」
「二時間おき?」
「そうだよ。猫の赤ちゃんは、一度にいっぱいお乳を飲めないんだ。だから、2~3時間置きにお乳を飲ませなければならないんだよ。その間、ミーアが毎回お乳を分け与えてくれるかはわからないから様子を見ないとね。それに、お乳を飲んだあとは、赤ちゃんの排泄を手伝ってあげないといけないんだ。猫の赤ちゃんはお乳を飲んでいるうちは自分で排泄できないからね。お尻を優しくさすって排泄を促す必要があるんだよ。」
私の問いにルードヴィッヒ様は事細かく教えてくれる。
ルードヴィッヒ様の言葉を聞くと寝る暇がないように聞こえるんだけれども。というか、実際に寝る暇もないのだろう。
「まさか、ルードヴィッヒ様がミーア様につきっきりで離れで寝泊まりしていたのは……。」
「ああ。気になってしまってね。自分の子だから大丈夫だとは思うんだけどね、ちゃんとにお乳あげてるかなぁとか、ちゃんとに排泄できているかなぁって気になってしまって。ずっとミーアとその子供たちに付き添っていたんだよ。」
どうやらルードヴィッヒ様は心配性なようだった。
「あの……。私もご一緒させてください。……ミーア様が許してくれたら、ですが。」
「そうだね。ミーアが許してくれるといいんだけど……。」
そうして、ミーア様が猫の赤ちゃんにお乳をあげ終わった頃合いでもう一度部屋の中に入った私は無事にミーア様に部屋の外へと追い返されるのだった。
うぅ。私もミーア様と赤ちゃんたちのお世話をしたいのに……。
前途は多難である。
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