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第16話
しおりを挟む「みぃーーーーーっ。みぃーーーーーーっ。」
「馬車を止めてちょうだいっ!」
保護猫施設からの帰り道、どこからともなく甲高いなにかの鳴き声が聞こえてきた。
その鳴き声が助けを求めているように感じて私は馬車の歩みを止めるように指示する。
まもなくして馬車が止まる。
「奥様、いかがなされましたか。」
「鳴き声が聞こえたの。誰かに助けを求めるような鳴き声が。」
ライラがなぜ馬車を止めたのかと心配そうに問いかけてきた。
私はライラに馬車を止めた理由を告げる。
「……鳴き声、ですか?」
「そうよ。甲高い鳴き声よ。」
ライラには聞こえなかったのだろうか。助けを求めるような鳴き声が。
「みぃーーーーーっ。みぃーーーーーーっ。」
その時、もう一度鳴き声が聞こえた。
「ほら、この鳴き声よ。」
「……奥様、良く聞こえましたね。馬車の音に紛れて普通は聞こえないかと。」
「助けてあげないと……。」
「奥様……。わかりました。私も一緒に参ります。」
ライラは御者のマルフォイにここで待つように告げると私と一緒に馬車を降りた。
私は鳴き声を頼りに辺りを探す。
「あっ……。いた……。」
必死に助けを求めるように鳴く小さな小さな命がそこにあった。
私はちょうど木下にある草影の中に手のひらサイズの小さな生き物がいることに気づいた。
小さな命は生きようと口をパクパク開けて助けを求める鳴き声を上げる。小さな手足をばたつかせて。
まだ目も開いていないし、手足をばたつかせているだけなので、自分で歩くこともできないのだろう。
辺りを見回したがその生き物の親と思わしき動物はいなかった。
親に置いて行かれてしまったのだろうか。それとも、他の動物や心無い人間の手によって親から引き離されてしまったのだろうか。
どちらにしても想像すると心が痛くなる。
私はその小さな命を両手で救い上げた。
「……冷たい。」
手の中の小さな命は体温が低くなっているようだった。
長時間この場所に一匹でいたのかもしれない。
どうしたらいいのかわからないが、とにかく両手で包み込んで温めようとした。
「奥様っ。その子ですね。」
「ええ。でも身体が冷たいわ。ここからならナーガ様のところに戻るのが早いわね。ナーガ様のところに戻るわ。」
「わかりました。」
そうして私たちは今来た道を大急ぎで引き返していった。
「ナーガ様っ。なにかの動物の赤ちゃんを拾ってしまいました。息はしているようなのですが、身体がとても冷たいんですっ!」
馬車から急いで下りると、ナーガ様の元まで小走りで走り寄る。
私に気づいたナーガ様はすぐに私の手から小さな赤ちゃんを受け取った。
「あら。大変。体温が下がっているわね。この子のお母さんは近くにいなかった?」
「近くを探してみましたがこの子の母親と思われる動物はおりませんでした。」
「そう。ちなみに、ユフィリアさん。この子なんの動物だかわかるかしら?」
ナーガ様は私に質問しながらも、手を止めることなくテキパキと赤ちゃんの様子を確認していく。
「いいえ。四つ足の動物ってところまではわかるのですが……。」
「そうね。これはね。猫の赤ちゃんなのよ。まだとっても小さいから見慣れない人には判別は難しいかもしれないわね。目が開いてないところを見ると、生後一週間も経っていないわね。近くに母親がいないということは通常であれば考えられないわ。捨てられたのか、他の動物が猫の赤ちゃんをさらったのか、心無い人間が母親と赤ちゃんを故意に引き離したのか……。まずは、この子を助けなければね。」
ナーガさんはそう言って、人肌よりも少しだけ高く温めた布で猫の赤ちゃんをくるむ。その上で、温めたミルクを小さな哺乳瓶にいれて猫の赤ちゃんの口元に持って行った。その哺乳瓶の吸い口を小さな口でいっぱい頬張り放さない猫の赤ちゃん。
少しずつ哺乳瓶の中からミルクが減っていく。
猫の赤ちゃんからは、生きたいという強い意識が感じられた。
「とりあえずは大丈夫そうね。」
ナーガ様は赤ちゃんがミルクを飲む姿を見て安堵の息をついた。
「この子、ここで面倒を見るのもいいけれど、折角だからユフィリアさんが育ててみる?サポートはさせてもらうし、きっとコンフィチュール辺境伯も力になってくれるはずよ。」
赤ちゃんが無事だとホッとした瞬間にナーガ様からの爆弾発言が投下された。
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