7 / 65
第一章
6
しおりを挟む捨て台詞を吐いて去っていってしまったアンナを呆然と見送る。
とても、令嬢のするような挙動ではない。
あんなヒロインのために公爵家から追放されるのが、なんだか憂鬱になってきた。
もっとこう、人前では猫被ってよねーとか思ってしまう。
「アルメディア嬢、大丈夫でしたか?」
「ええ。何故私の名を?」
ゲームの悪役令嬢みたいに目立つような行動はとっていなかったのだから、名前まで知られていないと思ったのに。
「この学園で、知らない者はいないよ。アルメディア嬢は有名だからね」
だから、何故有名なんだ。
解せぬ。
「ははっ、眉間に皺がよっているよ」
アレキサンドライト様は相違って、白く長い人差し指で私の眉間の皺をぐりぐりと伸ばしにかかる。
「勝手にさわらないでくださいませ!」
「ごめんね?」
にっこり笑いながら言われても、全然謝られている気がしない。というか、ゲームと全然違う。
ゲームでは、アレキサンドライト様はアルメディアに対しては始終不機嫌そうな顔を隠しもしなかった。
触れるなんてもっての他だ。
「君は可愛いね。僕の王子という身分にすり寄ることがない。そんな令嬢は少ないんだよ。だから、君の名はこの学園にいるほとんどが知っていると思うよ」
それか!?
裏目に出たかぁ。
アレキサンドライト様に近づかなければ気にも止められない存在になるかと思っていたのに、真逆だったのか。。。
計画が・・・。
「君の媚びない態度は好意に値するね」
にっこり。
満面の笑みのアレキサンドライト様。
嫌な予感しかしないんですけど。
というか「こうい」って・・・。
行為?
更衣?
なんかしっくり来ないぞ・・・。
こういうときの「こうい」ってどんな意味が・・・。
「好きってことだよ」
その「こうい」か!?
なかなか、好意なんて使わないかと!!
というか、なぜ、アレキサンドライト様の顔が目の前にあるのです?
なぜ、私の顔に吐息がかかるのです!
なぜ、私の唇に暖かいものが触れているのです!!?
「ひやぁあ!!」
「おっと危ない」
慌ててよろけそうになった私を役得とばかりの満面の笑みで、抱き締めるアレキサンドライト様。
というか、キスされました。
王子様に。
なにゆえ。
なにゆえですかーー!
混乱して頭がついていかない。
でも、なんとなく。
なんとなくだけど、詰んでるような気がする。
私のスローライフ計画。なんだか詰んでるような気がする。
アレキサンドライト様の目にとまらぬよう学園を卒業して、ひっそり田舎で猫様たちに囲まれてスローライフを送るつもりだったのに。
王子に囲まれるの嫌。
というか、このまま王子の側にいたら強制力とかで、私やってもいない罪を擦り付けられるのかしら。
まあ、別にいいけど、それならそれで、断罪されて田舎でスローライフ送るから。
「なごり惜しいけど、そろそろ時間だ。またね、愛しいディア」
アレキサンドライト様はそう言って、思考の海に沈む私の唇をもう一度奪ってから去っていった。
2
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる