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番外 2人の旅②
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「ほー………」
ヘンリクスは店の奥の調理場で手際よく調理をするユリアンナを見ながら惚けていた。
まるでプロの料理人のように一寸の迷いもなく動かされるユリアンナの手からは、見たことのない料理が作り出されていく。
先ほど〝オコメ〟だと判明したものは、水で数度洗ってからヘンリクスがユリアンナのために準備した陶器の鍋『土鍋』に水と共に入れ、火にかけられている。
〝茹でる〟のとどう違うのかは分からないが、出来上がりを待つのみである。
そして次にヘンリクスが走り回って集めた食材『厚めに切った豚肉』を棒で軽く叩き、塩胡椒を振る。
その豚肉に『小麦粉』『卵』、『硬くなったパン』を先ほどの『おろし金』ですり下ろしてできた『パン粉』を順番につけ、熱した油で揚げていく。
パチパチと音を立てて美味しそうな匂いが広がり、思わずヘンリクスのお腹が鳴る。
ユリアンナが豚肉を油から上げる時には、衣は黄金色になっていた。
その頃には土鍋の中の〝オコメ〟も炊き上がったようで、ユリアンナは蓋を開けて満足そうにしている。
かくして出来上がった料理が机の上に並べられる。
食べやすい大きさにカットされた先ほどの揚げた豚肉と、深さのある椀に盛られた炊き上がった〝オコメ〟。
「こっちは『豚カツ』って言って豚肉に衣をつけて揚げた料理。本当はソースをつけて食べたいところだけど、お塩だけでも美味しいから!それからこっちがお米を炊いたもの。前世では『白ご飯』と呼んでいたわ」
ヘンリクスとオズワルドはこれらの見たこともない料理を前に喉を鳴らすと、フォークで刺して恐る恐る口に運ぶ。
「…………!上手い」
「うわぁ………何だこれ。味付けは塩だけなのに、何故こんなに旨みを感じるんでしょう?」
「こっちの『白ご飯』も上手いな。噛めば噛むほど甘くなるのが不思議だ」
2人が夢中になって料理を頬張っている姿を見て、ユリアンナはニコニコしている。
「これは……!売れますよ!〝オコメ〟も『おろし金』も!」
「本当は『醤油』とか『味噌』があればもっとたくさんご飯に合うおかずが作れるんだけどな」
「〝ショーユ〟……〝ミソ〟?………すみません、聞いたことないですね」
ヘンリクスは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「外国を回る中で似たものを探してみるわ。ありがとう」
「外国といえば……〝オコメ〟が自生していた『ハンミョウ王国』では、食文化が一風変わっているようなんです。もしかしたら、そこに行けば珍しい食材に出会えるかも」
「『ハンミョウ王国』……お米が穫れる国か。行ってみたいな」
ユリアンナは『醤油』や『味噌』に思いを馳せながらそう呟く。
「じゃあ、そこに行こう」
オズワルドが黙々と料理を食べながら同意する。
よほど和食がお気に召したようだ。
「ハンミョウ王国に行くには東に真っ直ぐ行くのが近道ではあるんですが、途中で険しい山脈がありまして、横断が困難なんです。それがハンミョウ王国があまり他の国との交易がない原因のひとつなんですが。ですから、彼の国に行くには北側か南側から山脈を迂回して行かれるのが宜しいかと思います」
「わぁ!冒険って感じがする!何だかワクワクしてきたわ!」
ユリアンナは楽しそうにニコニコと笑っている。
学園にいた時は貴族令嬢らしく、あまり感情を表に出さず常に気を張っている感じだったのが、ここにいるユリアンナは感情表現が豊かで年相応の女の子という雰囲気だ。
(初めて「平民になって国外に出たい」と聞いた時は、一時の気の迷いだろうと思ったものだけど……本当に嬉しそうだな)
ユリアンナの良い変化に、ヘンリクスも思わず目を細める。
「ああ、そうだ。ヘンリー。私、平民になったのよ。だから敬称も敬語も要らないわ。……あら?むしろ、私が敬語を使わなくちゃならないのかしら」
「それなら俺もだな。貴族籍は抜いてきたから」
「えっ……それは無理ですよ。僕の中でお2人は崇め奉りたいぐらい尊敬する人ですから」
「えーっ!じゃあせめて、呼び方だけでも変えない?……『ユリ』って呼んでみて?」
「ユリアンナ様っ!」
「『ユリ』」
「………ユリ……さま」
ユリアンナが無言でヘンリクスを見つめている。
「ユリ……さん。これ以上はご勘弁ください!!」
「ふふっ。いいわ、それで」
「じゃあ、俺は『オズさん』で」
「…………」
オズワルドの有無を言わさぬ圧力を感じたヘンリクスはコクコクと頷いた。
「そういえば隣国に出たら冒険者登録をするけど、そのままの名前で登録する?それとも通称を使う?」
オズワルドの問いかけに、ユリアンナは「うーん」と口元に指を置いて考える。
「一応前科者として国を出る以上、本名そのままっていうのは避けた方が良いのかな?でも突然全く違う名前になるのも違和感があるし………いっそのこと、『ユリ』で登録しようかな」
「呼びやすいし、良いんじゃない?それなら俺は『オズ』で登録しよう」
「冒険者登録は国内で済ませて行かれるのですか?」
冒険者登録とは、冒険者に関する業務依頼や報酬分配を引き受ける『冒険者ギルド』に、冒険者として身元登録することだ。
これをすることで、ギルドを経由して様々な依頼を受けることが可能になる。
「いいえ。冒険者登録は隣国でするわ。登録手続きが完了するのに数日かかるし、今は一刻も早くこの国を出たいもの」
「それもそうですね。そしたら、冒険者登録が完了したらご連絡ください。アイゼン商会からギルドを通してお二人に依頼を出しますので」
そうして、2人はヘンリクスと笑顔で別れた。
ヘンリクスは学園を卒業して、これから再び世界を飛び回るそうなので、また会える機会はあるだろう。
ヘンリクスは店の奥の調理場で手際よく調理をするユリアンナを見ながら惚けていた。
まるでプロの料理人のように一寸の迷いもなく動かされるユリアンナの手からは、見たことのない料理が作り出されていく。
先ほど〝オコメ〟だと判明したものは、水で数度洗ってからヘンリクスがユリアンナのために準備した陶器の鍋『土鍋』に水と共に入れ、火にかけられている。
〝茹でる〟のとどう違うのかは分からないが、出来上がりを待つのみである。
そして次にヘンリクスが走り回って集めた食材『厚めに切った豚肉』を棒で軽く叩き、塩胡椒を振る。
その豚肉に『小麦粉』『卵』、『硬くなったパン』を先ほどの『おろし金』ですり下ろしてできた『パン粉』を順番につけ、熱した油で揚げていく。
パチパチと音を立てて美味しそうな匂いが広がり、思わずヘンリクスのお腹が鳴る。
ユリアンナが豚肉を油から上げる時には、衣は黄金色になっていた。
その頃には土鍋の中の〝オコメ〟も炊き上がったようで、ユリアンナは蓋を開けて満足そうにしている。
かくして出来上がった料理が机の上に並べられる。
食べやすい大きさにカットされた先ほどの揚げた豚肉と、深さのある椀に盛られた炊き上がった〝オコメ〟。
「こっちは『豚カツ』って言って豚肉に衣をつけて揚げた料理。本当はソースをつけて食べたいところだけど、お塩だけでも美味しいから!それからこっちがお米を炊いたもの。前世では『白ご飯』と呼んでいたわ」
ヘンリクスとオズワルドはこれらの見たこともない料理を前に喉を鳴らすと、フォークで刺して恐る恐る口に運ぶ。
「…………!上手い」
「うわぁ………何だこれ。味付けは塩だけなのに、何故こんなに旨みを感じるんでしょう?」
「こっちの『白ご飯』も上手いな。噛めば噛むほど甘くなるのが不思議だ」
2人が夢中になって料理を頬張っている姿を見て、ユリアンナはニコニコしている。
「これは……!売れますよ!〝オコメ〟も『おろし金』も!」
「本当は『醤油』とか『味噌』があればもっとたくさんご飯に合うおかずが作れるんだけどな」
「〝ショーユ〟……〝ミソ〟?………すみません、聞いたことないですね」
ヘンリクスは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「外国を回る中で似たものを探してみるわ。ありがとう」
「外国といえば……〝オコメ〟が自生していた『ハンミョウ王国』では、食文化が一風変わっているようなんです。もしかしたら、そこに行けば珍しい食材に出会えるかも」
「『ハンミョウ王国』……お米が穫れる国か。行ってみたいな」
ユリアンナは『醤油』や『味噌』に思いを馳せながらそう呟く。
「じゃあ、そこに行こう」
オズワルドが黙々と料理を食べながら同意する。
よほど和食がお気に召したようだ。
「ハンミョウ王国に行くには東に真っ直ぐ行くのが近道ではあるんですが、途中で険しい山脈がありまして、横断が困難なんです。それがハンミョウ王国があまり他の国との交易がない原因のひとつなんですが。ですから、彼の国に行くには北側か南側から山脈を迂回して行かれるのが宜しいかと思います」
「わぁ!冒険って感じがする!何だかワクワクしてきたわ!」
ユリアンナは楽しそうにニコニコと笑っている。
学園にいた時は貴族令嬢らしく、あまり感情を表に出さず常に気を張っている感じだったのが、ここにいるユリアンナは感情表現が豊かで年相応の女の子という雰囲気だ。
(初めて「平民になって国外に出たい」と聞いた時は、一時の気の迷いだろうと思ったものだけど……本当に嬉しそうだな)
ユリアンナの良い変化に、ヘンリクスも思わず目を細める。
「ああ、そうだ。ヘンリー。私、平民になったのよ。だから敬称も敬語も要らないわ。……あら?むしろ、私が敬語を使わなくちゃならないのかしら」
「それなら俺もだな。貴族籍は抜いてきたから」
「えっ……それは無理ですよ。僕の中でお2人は崇め奉りたいぐらい尊敬する人ですから」
「えーっ!じゃあせめて、呼び方だけでも変えない?……『ユリ』って呼んでみて?」
「ユリアンナ様っ!」
「『ユリ』」
「………ユリ……さま」
ユリアンナが無言でヘンリクスを見つめている。
「ユリ……さん。これ以上はご勘弁ください!!」
「ふふっ。いいわ、それで」
「じゃあ、俺は『オズさん』で」
「…………」
オズワルドの有無を言わさぬ圧力を感じたヘンリクスはコクコクと頷いた。
「そういえば隣国に出たら冒険者登録をするけど、そのままの名前で登録する?それとも通称を使う?」
オズワルドの問いかけに、ユリアンナは「うーん」と口元に指を置いて考える。
「一応前科者として国を出る以上、本名そのままっていうのは避けた方が良いのかな?でも突然全く違う名前になるのも違和感があるし………いっそのこと、『ユリ』で登録しようかな」
「呼びやすいし、良いんじゃない?それなら俺は『オズ』で登録しよう」
「冒険者登録は国内で済ませて行かれるのですか?」
冒険者登録とは、冒険者に関する業務依頼や報酬分配を引き受ける『冒険者ギルド』に、冒険者として身元登録することだ。
これをすることで、ギルドを経由して様々な依頼を受けることが可能になる。
「いいえ。冒険者登録は隣国でするわ。登録手続きが完了するのに数日かかるし、今は一刻も早くこの国を出たいもの」
「それもそうですね。そしたら、冒険者登録が完了したらご連絡ください。アイゼン商会からギルドを通してお二人に依頼を出しますので」
そうして、2人はヘンリクスと笑顔で別れた。
ヘンリクスは学園を卒業して、これから再び世界を飛び回るそうなので、また会える機会はあるだろう。
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