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番外 2人の旅①
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「♪~~♪~~~」
鼻歌と共にトントントン……という小気味いいリズムの音が聞こえている。
ジュウッという音と共に漂ってくるのは、食欲を刺激する卵が焼ける匂い。
その匂いに誘われるように、ギシリギシリと階段が軋む音がする。
「ふぁ………おはよ」
階段から降りてきたのは、まだ眠そうに目を擦りながら欠伸をしているオズワルドだ。
「おはよー、オズ」
ユリアンナは料理をする手を休めることなく、挨拶を返す。
「ん………うまそ」
いつの間にかユリアンナの背後に近づいたオズワルドは、今しがた切ったばかりの卵焼きを一切れちょいと持ち上げて口に放り込む。
「うまっ。あまっ」
「あ!ちょっと!」
ユリアンナがつまみ食いを咎めるように睨みつけると、オズワルドは肩を竦めて卵焼きを摘んだ指をペロッと舐める。
もう一切れ食べたい衝動を抑えつつ、オズワルドはキッチン横のダイニングテーブルに座る。
目の前に、盛り付けられた料理が次々に並んでいく。
今日の朝食メニューは、卵焼きと小魚の塩焼き、海藻と根菜の味噌汁、炊いた白米ときゅうりの糠漬けだ。
オズワルドは、ユリアンナが準備を終える前にきゅうりの糠漬けを一つ摘んで口に放り込む。
シャキシャキとした歯応えが小気味よく、口の中に丁度いい塩梅の塩味と旨みが広がる。
「オズは糠漬けが好きだよね」
そう言って笑いながら、準備を終えたユリアンナがダイニングテーブルに座る。
向かい合った2人は手を合わせると「いただきます」と言って箸を持ち、料理を食べ始める。
ここは2人が生まれたイビアータ王国の東の端にある『ハンミョウ王国』。
2人は母国を出国してからしばらくは近隣国を転々としながら冒険者をしてお金を稼いでいた。
しかし初めから、ある程度お金を貯めたらこの『ハンミョウ王国』に来ると決めていた。
そう決めたのは、出国前に『アイゼン商会』に立ち寄った時のこと。
◇
「ユリアンナ様!よくお越しくださいました!」
アイゼン商会に立ち寄ったユリアンナを出迎えたのは、ヘンリクスだった。
「ていうか、なぜオズワルド様がいらっしゃるんです?」
「俺も一緒に行くから」
「へっ?」
「俺もユリと一緒に行くんだよ」
そう聞いたヘンリクスは顎が外れそうなほど口を開けている。
「ヘンリー。顎が外れてるわよ」
「は、はずれてないでしゅ………」
ユリアンナに顎を支えられて、ヘンリクスは頰を染める。
「おい、早くブツを持って来い」
オズワルドが不機嫌そうにそう言うと、我に返ったヘンリクスが準備していたものを店の奥から持ってくる。
「これ、旅の道具です。……ほとんどが調理道具なんですけど」
ヘンリクスが運んできた大きな木箱いっぱいに、調理道具が詰まっている。
「わぁ!こっちにあるかどうか分からなかった道具まで用意してくれてる!ありがとう、ヘンリー!!」
ユリアンナに感謝され、ヘンリクスは照れながら後頭部を掻いている。
「珍しい道具ばっかだな………これは何に使うんだ?」
「ああ、これは『おろし金』って言って、食材をすり下ろす道具よ」
「食材をすり下ろす?何のために?」
「それは色々よ。野菜をすり下ろして薬味にしたり、乾いたパンをすり下ろせばパン粉が作れるわ」
「〝ヤクミ〟?〝パンコ〟?どっちも聞いたことないな………」
ユリアンナとオズワルドの会話を興味深そうに聞いていたヘンリクスが、きらりと目を輝かせる。
「ユリアンナ様!ぜひ、その〝ヤクミ〟と〝パンコ〟の活用方法を伺いたいです!もし調理法が広まれば、その『おろし金』をウチで独占販売できますので」
「ふふっ、さすが商売人ね。もちろん良いわよ!」
「君ら、『おろし金』もいいけど一番の目的はそれじゃないだろ?」
盛り上がる会話にオズワルドが水を差すと、ヘンリクスは「そうだった」と言って再び店の奥に下がり、麻袋のような袋を持って戻ってきた。
「以前話した、変わった品種の麦がこちらです」
ヘンリクスは麻袋をユリアンナに差し出す。
「これはここより東にある『ハンミョウ王国』というところに自生している麦なのですが、普通の麦よりも硬くて、粉にするのが難しいんです。現地の人はこれをこのまま茹でてふやかして食べているようでして」
ユリアンナは麻袋を受け取り、中を覗く。
「…………」
「その調理法を実際に試してみたんですが、なーんにも味がしないんですよ。温かいオートミールみたいな感じです」
「…………」
「塩を振ればまだ食べられないこともなかったのですが、まるで病人の食べ物のようなので、なかなか普及させるのは難しいかと」
「ヘンリー………これ………〝お米〟だわ!」
「へっ?」
「これよ、これ!!これを探し求めていたの!!」
ユリアンナは感激のあまりヘンリクスに抱きつこうとするが、オズワルドが腕を引っ張ってそれを止める。
「ヘンリー!これのベストな食べ方はね、『茹でる』じゃなくて『炊く』なの!……ねえ、これ、今から調理してみてもいい?」
ユリアンナの勢いに押されて首振り人形のように頷いたヘンリクスは、その後ユリアンナが指示した食材を得るために王都の繁華街を走り回る羽目になる。
鼻歌と共にトントントン……という小気味いいリズムの音が聞こえている。
ジュウッという音と共に漂ってくるのは、食欲を刺激する卵が焼ける匂い。
その匂いに誘われるように、ギシリギシリと階段が軋む音がする。
「ふぁ………おはよ」
階段から降りてきたのは、まだ眠そうに目を擦りながら欠伸をしているオズワルドだ。
「おはよー、オズ」
ユリアンナは料理をする手を休めることなく、挨拶を返す。
「ん………うまそ」
いつの間にかユリアンナの背後に近づいたオズワルドは、今しがた切ったばかりの卵焼きを一切れちょいと持ち上げて口に放り込む。
「うまっ。あまっ」
「あ!ちょっと!」
ユリアンナがつまみ食いを咎めるように睨みつけると、オズワルドは肩を竦めて卵焼きを摘んだ指をペロッと舐める。
もう一切れ食べたい衝動を抑えつつ、オズワルドはキッチン横のダイニングテーブルに座る。
目の前に、盛り付けられた料理が次々に並んでいく。
今日の朝食メニューは、卵焼きと小魚の塩焼き、海藻と根菜の味噌汁、炊いた白米ときゅうりの糠漬けだ。
オズワルドは、ユリアンナが準備を終える前にきゅうりの糠漬けを一つ摘んで口に放り込む。
シャキシャキとした歯応えが小気味よく、口の中に丁度いい塩梅の塩味と旨みが広がる。
「オズは糠漬けが好きだよね」
そう言って笑いながら、準備を終えたユリアンナがダイニングテーブルに座る。
向かい合った2人は手を合わせると「いただきます」と言って箸を持ち、料理を食べ始める。
ここは2人が生まれたイビアータ王国の東の端にある『ハンミョウ王国』。
2人は母国を出国してからしばらくは近隣国を転々としながら冒険者をしてお金を稼いでいた。
しかし初めから、ある程度お金を貯めたらこの『ハンミョウ王国』に来ると決めていた。
そう決めたのは、出国前に『アイゼン商会』に立ち寄った時のこと。
◇
「ユリアンナ様!よくお越しくださいました!」
アイゼン商会に立ち寄ったユリアンナを出迎えたのは、ヘンリクスだった。
「ていうか、なぜオズワルド様がいらっしゃるんです?」
「俺も一緒に行くから」
「へっ?」
「俺もユリと一緒に行くんだよ」
そう聞いたヘンリクスは顎が外れそうなほど口を開けている。
「ヘンリー。顎が外れてるわよ」
「は、はずれてないでしゅ………」
ユリアンナに顎を支えられて、ヘンリクスは頰を染める。
「おい、早くブツを持って来い」
オズワルドが不機嫌そうにそう言うと、我に返ったヘンリクスが準備していたものを店の奥から持ってくる。
「これ、旅の道具です。……ほとんどが調理道具なんですけど」
ヘンリクスが運んできた大きな木箱いっぱいに、調理道具が詰まっている。
「わぁ!こっちにあるかどうか分からなかった道具まで用意してくれてる!ありがとう、ヘンリー!!」
ユリアンナに感謝され、ヘンリクスは照れながら後頭部を掻いている。
「珍しい道具ばっかだな………これは何に使うんだ?」
「ああ、これは『おろし金』って言って、食材をすり下ろす道具よ」
「食材をすり下ろす?何のために?」
「それは色々よ。野菜をすり下ろして薬味にしたり、乾いたパンをすり下ろせばパン粉が作れるわ」
「〝ヤクミ〟?〝パンコ〟?どっちも聞いたことないな………」
ユリアンナとオズワルドの会話を興味深そうに聞いていたヘンリクスが、きらりと目を輝かせる。
「ユリアンナ様!ぜひ、その〝ヤクミ〟と〝パンコ〟の活用方法を伺いたいです!もし調理法が広まれば、その『おろし金』をウチで独占販売できますので」
「ふふっ、さすが商売人ね。もちろん良いわよ!」
「君ら、『おろし金』もいいけど一番の目的はそれじゃないだろ?」
盛り上がる会話にオズワルドが水を差すと、ヘンリクスは「そうだった」と言って再び店の奥に下がり、麻袋のような袋を持って戻ってきた。
「以前話した、変わった品種の麦がこちらです」
ヘンリクスは麻袋をユリアンナに差し出す。
「これはここより東にある『ハンミョウ王国』というところに自生している麦なのですが、普通の麦よりも硬くて、粉にするのが難しいんです。現地の人はこれをこのまま茹でてふやかして食べているようでして」
ユリアンナは麻袋を受け取り、中を覗く。
「…………」
「その調理法を実際に試してみたんですが、なーんにも味がしないんですよ。温かいオートミールみたいな感じです」
「…………」
「塩を振ればまだ食べられないこともなかったのですが、まるで病人の食べ物のようなので、なかなか普及させるのは難しいかと」
「ヘンリー………これ………〝お米〟だわ!」
「へっ?」
「これよ、これ!!これを探し求めていたの!!」
ユリアンナは感激のあまりヘンリクスに抱きつこうとするが、オズワルドが腕を引っ張ってそれを止める。
「ヘンリー!これのベストな食べ方はね、『茹でる』じゃなくて『炊く』なの!……ねえ、これ、今から調理してみてもいい?」
ユリアンナの勢いに押されて首振り人形のように頷いたヘンリクスは、その後ユリアンナが指示した食材を得るために王都の繁華街を走り回る羽目になる。
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