23 / 81
22. ヒロインって最高! 〜ミリカside
しおりを挟む
午後の授業が終わり、生徒が閑散としだした放課後。
ミリカは学園の図書室に足を踏み入れ、注意深く周囲を見回した。
(あ………いた!)
窓際の席に腰掛けて本を読むミルクティのような柔らかなライトブラウンの髪の青年。
窓から差し込む光が眼鏡に反射して、その表情は窺い知れない。
お目当ての人物を発見したミリカはニィッと口角を上げ、すぐに本棚から適当に10冊ばかりの本を取って積み重ねるようにして両手で抱える。
そしてわざとフラフラと体を揺らしながら青年が座っている方へ歩みを進める。
青年のすぐ側まで来た時、ミリカは足を躓かせる。
ドサッと音を立てて持っていた本が崩れ落ちる。
「きゃあっ!」
躓いた衝撃で抱えていた本を落としてしまったミリカは、慌ててしゃがみ込んで本を拾おうとする。
目の前に人がしゃがんだ気配がしてミリカが顔を上げると、本を拾っているサイラスと目が合う。
「あっ……サイラス様。お騒がせして申し訳ありません……!」
「いいや、ミリカ嬢は怪我はない?」
サイラスはそう言って手際良く全ての本を拾うと、それを持って自分が先ほどまで座っていた席の対面に置く。
「随分たくさんの本を読むんだね?さすが、勤勉家のミリカ嬢だ」
去年1年間、好成績を取り続けたミリカに対し、サイラスはだいぶ好印象を抱いているようだ。
「そんな……。いくら勉強しても学年1位のサイラス様には全く追いつけません。もっと頑張らなきゃ」
サイラスは向上心のある女性が好みなので、ミリカのこのセリフでサイラスの好感ポイントが更に上がったはずだ。
「ミリカ嬢は十分頑張っているよ。……あれ、『魔法薬学理論』?」
サイラスはふとミリカが持って来た本の中から一冊の本に目を留める。
「この内容なら、教科書のほうが分かりやすいよ?」
その指摘に、不意にミリカの表情が曇る。
ミリカの表情の変化に気づいたサイラスは、不快そうに眉根を寄せる。
「……もしかして、またなのか?」
「……はい。お恥ずかしながら」
ミリカはそう言って恥ずかしそうに俯く。
たったそれだけで、聡いサイラスには「ミリカが教科書を使えない状況である」ことが伝わるのだ。
「ハァ。本当にくだらないことをするな。そんなことをしても、ミリカ嬢の足を引っ張ることはできないというのに」
サイラスはそう言うと、自分の鞄から『魔法薬学理論』の教科書を取り出す。
「はい、これあげるよ。僕のメモ書き付きだ」
そう言ってサイラスはいつもは怜悧な榛の瞳を優しく細める。
(はぁぁ♡イケメン眼福♡)
「ありがたいのですが……サイラス様は大丈夫なのですか?」
「もう僕には必要ないんだ。全部頭に入ってるから」
そう言って、サイラスは自分の顳顬あたりを人差し指でトントンと叩く。
「ふふっ、さすがです!それでは遠慮なくお借りしますね!」
ミリカは頬を染めて微笑むと、その後は小一時間ほどサイラスと一緒に楽しく会話をしながら勉強をして、図書館を出た。
(《イケパー》だとここで課金すればサイラスとのラッキースケベエピソードが読めるのよね~。この世界で課金ってどうやるのかしら?)
そんなことを考えながら歩いていると、前方からジャックが笑顔で歩いてくるのが見える。
「あら、ジャック様!まだ学園に残っていらっしゃったのですか?」
「ああ、ミリカを探してたんだ」
「私を?」
ジャックは大きな体躯を丸めて紺色の短い髪を掻いている。
何かを言いにくそうに口籠った後、ジャックの紺色の瞳がミリカを真っ直ぐに見据える。
「……明日から『光の祝祭』が開かれるだろ?その……誰とも予定がないなら、俺と一緒に街を見て回らないか?」
(つまり、デートのお誘いってことね)
「『光の祝祭』……行ってみたいです!でも、私なんかがご一緒しても良いんですか……?」
ミリカは少し不安げに眉尻を下げて、上目遣いにジャックを見上げる。
ジャックの好きなタイプは庇護欲を唆る可愛らしい女性なので、ミリカの小柄な体型を最大限活かす。
「ああ!俺が……ミリカと一緒に過ごしたいんだ」
照れたように頬を染める様子は、どこからどう見てもミリカに好意を持っているようにしか見えない。
(あーん♡大型犬みたいで可愛い♡)
「そ、それじゃあ……よろしくお願いします……」
同じく頬を染めて俯けば、ジャックの好感ポイントは確実に上がっただろう。
(やっぱ逆ハーよね!ヒロインって最高!)
ミリカはニヤニヤと下品に上がりそうな口角を必死に抑えながら、ジャックにとびっきりの笑顔を向けた。
ミリカは学園の図書室に足を踏み入れ、注意深く周囲を見回した。
(あ………いた!)
窓際の席に腰掛けて本を読むミルクティのような柔らかなライトブラウンの髪の青年。
窓から差し込む光が眼鏡に反射して、その表情は窺い知れない。
お目当ての人物を発見したミリカはニィッと口角を上げ、すぐに本棚から適当に10冊ばかりの本を取って積み重ねるようにして両手で抱える。
そしてわざとフラフラと体を揺らしながら青年が座っている方へ歩みを進める。
青年のすぐ側まで来た時、ミリカは足を躓かせる。
ドサッと音を立てて持っていた本が崩れ落ちる。
「きゃあっ!」
躓いた衝撃で抱えていた本を落としてしまったミリカは、慌ててしゃがみ込んで本を拾おうとする。
目の前に人がしゃがんだ気配がしてミリカが顔を上げると、本を拾っているサイラスと目が合う。
「あっ……サイラス様。お騒がせして申し訳ありません……!」
「いいや、ミリカ嬢は怪我はない?」
サイラスはそう言って手際良く全ての本を拾うと、それを持って自分が先ほどまで座っていた席の対面に置く。
「随分たくさんの本を読むんだね?さすが、勤勉家のミリカ嬢だ」
去年1年間、好成績を取り続けたミリカに対し、サイラスはだいぶ好印象を抱いているようだ。
「そんな……。いくら勉強しても学年1位のサイラス様には全く追いつけません。もっと頑張らなきゃ」
サイラスは向上心のある女性が好みなので、ミリカのこのセリフでサイラスの好感ポイントが更に上がったはずだ。
「ミリカ嬢は十分頑張っているよ。……あれ、『魔法薬学理論』?」
サイラスはふとミリカが持って来た本の中から一冊の本に目を留める。
「この内容なら、教科書のほうが分かりやすいよ?」
その指摘に、不意にミリカの表情が曇る。
ミリカの表情の変化に気づいたサイラスは、不快そうに眉根を寄せる。
「……もしかして、またなのか?」
「……はい。お恥ずかしながら」
ミリカはそう言って恥ずかしそうに俯く。
たったそれだけで、聡いサイラスには「ミリカが教科書を使えない状況である」ことが伝わるのだ。
「ハァ。本当にくだらないことをするな。そんなことをしても、ミリカ嬢の足を引っ張ることはできないというのに」
サイラスはそう言うと、自分の鞄から『魔法薬学理論』の教科書を取り出す。
「はい、これあげるよ。僕のメモ書き付きだ」
そう言ってサイラスはいつもは怜悧な榛の瞳を優しく細める。
(はぁぁ♡イケメン眼福♡)
「ありがたいのですが……サイラス様は大丈夫なのですか?」
「もう僕には必要ないんだ。全部頭に入ってるから」
そう言って、サイラスは自分の顳顬あたりを人差し指でトントンと叩く。
「ふふっ、さすがです!それでは遠慮なくお借りしますね!」
ミリカは頬を染めて微笑むと、その後は小一時間ほどサイラスと一緒に楽しく会話をしながら勉強をして、図書館を出た。
(《イケパー》だとここで課金すればサイラスとのラッキースケベエピソードが読めるのよね~。この世界で課金ってどうやるのかしら?)
そんなことを考えながら歩いていると、前方からジャックが笑顔で歩いてくるのが見える。
「あら、ジャック様!まだ学園に残っていらっしゃったのですか?」
「ああ、ミリカを探してたんだ」
「私を?」
ジャックは大きな体躯を丸めて紺色の短い髪を掻いている。
何かを言いにくそうに口籠った後、ジャックの紺色の瞳がミリカを真っ直ぐに見据える。
「……明日から『光の祝祭』が開かれるだろ?その……誰とも予定がないなら、俺と一緒に街を見て回らないか?」
(つまり、デートのお誘いってことね)
「『光の祝祭』……行ってみたいです!でも、私なんかがご一緒しても良いんですか……?」
ミリカは少し不安げに眉尻を下げて、上目遣いにジャックを見上げる。
ジャックの好きなタイプは庇護欲を唆る可愛らしい女性なので、ミリカの小柄な体型を最大限活かす。
「ああ!俺が……ミリカと一緒に過ごしたいんだ」
照れたように頬を染める様子は、どこからどう見てもミリカに好意を持っているようにしか見えない。
(あーん♡大型犬みたいで可愛い♡)
「そ、それじゃあ……よろしくお願いします……」
同じく頬を染めて俯けば、ジャックの好感ポイントは確実に上がっただろう。
(やっぱ逆ハーよね!ヒロインって最高!)
ミリカはニヤニヤと下品に上がりそうな口角を必死に抑えながら、ジャックにとびっきりの笑顔を向けた。
10
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!
つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが!
第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。
***
黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。
悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない
亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ
社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。
エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも……
「エマ、可愛い」
いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
妻は従業員に含みません
夏菜しの
恋愛
フリードリヒは貿易から金貸しまで様々な商売を手掛ける名うての商人だ。
ある時、彼はザカリアス子爵に金を貸した。
彼の見込みでは無事に借金を回収するはずだったが、子爵が病に倒れて帰らぬ人となりその目論見は見事に外れた。
だが返せる額を厳しく見極めたため、貸付金の被害は軽微。
取りっぱぐれは気に入らないが、こんなことに気を取られているよりは、他の商売に精を出して負債を補う方が建設的だと、フリードリヒは子爵の資産分配にも行かなかった。
しばらくして彼の元に届いたのは、ほんの少しの財と元子爵令嬢。
鮮やかな緑の瞳以外、まるで凡庸な元令嬢のリューディア。彼女は使用人でも従業員でも何でもするから、ここに置いて欲しいと懇願してきた。
置いているだけでも金を喰うからと一度は突っぱねたフリードリヒだが、昨今流行の厄介な風習を思い出して、彼女に一つの提案をした。
「俺の妻にならないか」
「は?」
金を貸した商人と、借金の形に身を売った元令嬢のお話。
修羅場を観察していたら巻き込まれました。
夢草 蝶
恋愛
異様な空気の社交場。
固まる観衆。
呆然とする第三王子。
そして──、その中央でキャットファイトを繰り広げる二人の少女。
片や、名門貴族のご令嬢。
片や、平民ながらに特別な魔力を持つ少女。
その口からは泥棒猫やら性悪女やらと品に欠ける言葉が飛び出す。
しかし、それに混じってヒロインがどうの、悪役令嬢がどうの、乙女ゲームがどうのと聞こえる。
成程。どうやら二人は転生者らしい。
ゲームのシナリオと流れが違うなーって思ってたからこれで納得。
実は私も転生者。
乙女ゲームの展開を面白半分で観察してたらまさかこんなことになるなんて。
でも、そろそろ誰か止めに入ってくれないかなー?
おお! 悪役令嬢の巴投げが決まった! ヒロインが吹っ飛んで──ん? え? あれ?
なんかヒロインがこっちに飛んできたんですけど!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる