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22. ヒロインって最高! 〜ミリカside

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 午後の授業が終わり、生徒が閑散としだした放課後。
 ミリカは学園の図書室に足を踏み入れ、注意深く周囲を見回した。

(あ………いた!)

 窓際の席に腰掛けて本を読むミルクティのような柔らかなライトブラウンの髪の青年。
 窓から差し込む光が眼鏡に反射して、その表情は窺い知れない。

 お目当ての人物を発見したミリカはニィッと口角を上げ、すぐに本棚から適当に10冊ばかりの本を取って積み重ねるようにして両手で抱える。
 そしてわざとフラフラと体を揺らしながら青年が座っている方へ歩みを進める。

 青年のすぐ側まで来た時、ミリカは足を躓かせる。
 ドサッと音を立てて持っていた本が崩れ落ちる。

「きゃあっ!」

 躓いた衝撃で抱えていた本を落としてしまったミリカは、慌ててしゃがみ込んで本を拾おうとする。
 目の前に人がしゃがんだ気配がしてミリカが顔を上げると、本を拾っているサイラスと目が合う。

「あっ……サイラス様。お騒がせして申し訳ありません……!」

「いいや、ミリカ嬢は怪我はない?」

 サイラスはそう言って手際良く全ての本を拾うと、それを持って自分が先ほどまで座っていた席の対面に置く。

「随分たくさんの本を読むんだね?さすが、勤勉家のミリカ嬢だ」

 去年1年間、好成績を取り続けたミリカに対し、サイラスはだいぶ好印象を抱いているようだ。

「そんな……。いくら勉強しても学年1位のサイラス様には全く追いつけません。もっと頑張らなきゃ」

 サイラスは向上心のある女性が好みなので、ミリカのこのセリフでサイラスの好感ポイントが更に上がったはずだ。

「ミリカ嬢は十分頑張っているよ。……あれ、『魔法薬学理論』?」

 サイラスはふとミリカが持って来た本の中から一冊の本に目を留める。

「この内容なら、教科書のほうが分かりやすいよ?」

 その指摘に、不意にミリカの表情が曇る。
 ミリカの表情の変化に気づいたサイラスは、不快そうに眉根を寄せる。

「……もしかして、なのか?」

「……はい。お恥ずかしながら」

 ミリカはそう言って恥ずかしそうに俯く。
 たったそれだけで、聡いサイラスには「ミリカが教科書を使えない状況である」ことが伝わるのだ。

「ハァ。本当にくだらないことをするな。そんなことをしても、ミリカ嬢の足を引っ張ることはできないというのに」

 サイラスはそう言うと、自分の鞄から『魔法薬学理論』の教科書を取り出す。

「はい、これあげるよ。僕のメモ書き付きだ」

 そう言ってサイラスはいつもは怜悧な榛の瞳を優しく細める。

(はぁぁ♡イケメン眼福♡)

「ありがたいのですが……サイラス様は大丈夫なのですか?」

「もう僕には必要ないんだ。全部ここに入ってるから」

 そう言って、サイラスは自分の顳顬あたりを人差し指でトントンと叩く。

「ふふっ、さすがです!それでは遠慮なくお借りしますね!」

 ミリカは頬を染めて微笑むと、その後は小一時間ほどサイラスと一緒に楽しく会話をしながら勉強をして、図書館を出た。

(《イケパー》だとここで課金すればサイラスとのラッキースケベエピソードが読めるのよね~。この世界で課金ってどうやるのかしら?)

 そんなことを考えながら歩いていると、前方からジャックが笑顔で歩いてくるのが見える。

「あら、ジャック様!まだ学園に残っていらっしゃったのですか?」

「ああ、ミリカを探してたんだ」

「私を?」

 ジャックは大きな体躯を丸めて紺色の短い髪を掻いている。
 何かを言いにくそうに口籠った後、ジャックの紺色の瞳がミリカを真っ直ぐに見据える。

「……明日から『光の祝祭』が開かれるだろ?その……誰とも予定がないなら、俺と一緒に街を見て回らないか?」

(つまり、デートのお誘いってことね)

「『光の祝祭』……行ってみたいです!でも、私なんかがご一緒しても良いんですか……?」

 ミリカは少し不安げに眉尻を下げて、上目遣いにジャックを見上げる。
 ジャックの好きなタイプは庇護欲を唆る可愛らしい女性なので、ミリカの小柄な体型を最大限活かす。

「ああ!俺が……ミリカと一緒に過ごしたいんだ」

 照れたように頬を染める様子は、どこからどう見てもミリカに好意を持っているようにしか見えない。

(あーん♡大型犬みたいで可愛い♡)

「そ、それじゃあ……よろしくお願いします……」

 同じく頬を染めて俯けば、ジャックの好感ポイントは確実に上がっただろう。

(やっぱ逆ハーよね!ヒロインって最高!)

 ミリカはニヤニヤと下品に上がりそうな口角を必死に抑えながら、ジャックにとびっきりの笑顔を向けた。

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