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9. 意外な才能
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「うん、上手くできてるな。アンタ意外と魔法の才能あるんじゃないか?」
いつものように古屋敷に尋ねてきたユリアンナを見て、オズワルドが褒める。
ユリアンナがオズワルドから初めて習った魔法が〝認識阻害〟の魔法であった。
これはその名の通り、術者を他者が認識しづらくなる魔法だ。
ユリアンナの魔法を習得する目的は『身を守ること』なので、手っ取り早く危険を回避できる術としてオズワルドが選んだ魔法だ。
ユリアンナはオズワルドに習った魔法を繰り返し家で練習して、今日古屋敷に訪問する道中で認識阻害の魔法をかけてきたのだ。
「あら。折角かけてきたのに、オズワルド様にはすぐバレてしまうのですね」
「修練を積んだ魔術師を欺くほどの認識阻害は高度だからな。アンタに教えたのは道ゆく人を欺ける程度の魔法だ」
(それでも、教えてすぐに実践できる奴は多くはないけどな)
オズワルドは内心、ユリアンナを見直していた。
王家の計らいで宮廷魔術師長直々に魔法の指導を受けている関係で、数多くの魔術師を目にしているオズワルドだが、ユリアンナはその中でも特に魔法習得のスピードが速いように思われた。
それに、ユリアンナは努力できる人間のようだ。
貴族界では『シルベスカ家のユリアンナ嬢は無能で愚かな悪女』との認識だが、噂は当てにならないものだと改めて思う。
「確かに、市井で生きていくにはその程度で十分ですわね。それで、今日は一体どんな魔法を教えていただけるのかしら?」
ユリアンナは認識阻害の程度に文句を言うこともなく、ワクワクしたような輝く瞳でオズワルドを見上げる。
今までオズワルドの瞳をこんなにも真っ直ぐ見つめる者などいなかったため、オズワルドは戸惑ってつい視線を泳がせてしまう。
「っ…………今日は防御術を教えようと……思う」
消え入りそうな声でそう言うと、オズワルドは照れくさそうにポリポリ頰を掻いた。
◇
オズワルドが言ったようにユリアンナは魔法の才があったらしく、どんどん新しい魔法を覚えた。
前世を思い出す前のユリアンナも同様に魔法の才があったのだろうが、優秀な兄と比べられ蔑まれた経験がユリアンナを学ぶことから遠ざけてしまった。
今のユリアンナはたまたま前世の記憶がきっかけで再び魔法を学ぶ気になったが、ゲームのユリアンナはそのきっかけもないままに学園に行き、〝無能で愚かな悪役令嬢〟になってしまったのだろう。
訓練を始めて半年を過ぎる頃には一通りの身を守る魔法の習得を終え、実戦形式の訓練を始めた。
「はっ……!そんな攻撃は食らわないわよっ!」
ユリアンナはオズワルドの右手から発された炎の球を両手を翳して作った魔法盾で防ぐ。
同時に踏ん張った右足で地面を蹴って体勢を立て直すと、すぐに詠唱をしてオズワルドに向けて雷撃を放つ。
オズワルドが跳躍して避けると雷撃は地面に直撃し、大きく土埃を上げユリアンナの視界を遮る。
(……!オズがいないわ……!)
土埃の隙間からオズワルドの姿を探すが、オズワルドは忽然と姿を消してしまう。
ユリアンナがオズワルドの姿を探しているうちに、首元に冷んやりした金属が触れる。
「チェックメイト。俺の勝ちだ」
姿を消したオズワルドは音もなくユリアンナの背後に回り、その首元に模造刀を突きつけていた。
「………参りました」
ユリアンナは両手を上げて膝をつくと、フーッと肩で大きく息をした。
この半年欠かさず続けてきたトレーニングのおかげで、体力もだいぶついてきた。
しかし相対するオズワルドは息一つ乱さず、汗一つかいていない。
ユリアンナと比べると大人と赤ん坊ほどの実力差に感じる。
「反応速度も速くなって来たんじゃないか?魔術師としてはまだまだだけど、悪漢から身を守るぐらいはできそうだ」
オズワルドが満足そうに口角を上げると、ユリアンナも息を切らしながらその勝気に見える眦を下げる。
「……オズの呼吸ひとつ乱せないなんて全然ダメね」
「俺は師匠の下で10年訓練してるんだ。ユリはまだ半年だろ?大したもんだよ」
魔法を通して打ち解けてきた2人はお互いを「オズ」「ユリ」と呼び合う仲になった。
「最年少魔剣士様に褒められたら調子に乗ってしまうわ」
ユリアンナの軽口にオズワルドは声を上げて笑う。
魔剣士とは、高い魔法と剣術の腕を持つ者に対して王家から与えられる称号で、特別な試験を通過した者のみに与えられる。
魔法のみ、剣術のみを極めようとする者は多くいるが、どちらも高いレベルで習得できる者は稀である。
ゲームでのオズワルドに『魔剣士』という設定はなかった気がするが、ユリアンナが関わったことで設定が変わってしまったのかもしれない。
とにかく、オズワルドはユリアンナと出会ってから剣の訓練を本格的に始め、たったの半年で史上最年少の魔剣士となったのである。
いつものように古屋敷に尋ねてきたユリアンナを見て、オズワルドが褒める。
ユリアンナがオズワルドから初めて習った魔法が〝認識阻害〟の魔法であった。
これはその名の通り、術者を他者が認識しづらくなる魔法だ。
ユリアンナの魔法を習得する目的は『身を守ること』なので、手っ取り早く危険を回避できる術としてオズワルドが選んだ魔法だ。
ユリアンナはオズワルドに習った魔法を繰り返し家で練習して、今日古屋敷に訪問する道中で認識阻害の魔法をかけてきたのだ。
「あら。折角かけてきたのに、オズワルド様にはすぐバレてしまうのですね」
「修練を積んだ魔術師を欺くほどの認識阻害は高度だからな。アンタに教えたのは道ゆく人を欺ける程度の魔法だ」
(それでも、教えてすぐに実践できる奴は多くはないけどな)
オズワルドは内心、ユリアンナを見直していた。
王家の計らいで宮廷魔術師長直々に魔法の指導を受けている関係で、数多くの魔術師を目にしているオズワルドだが、ユリアンナはその中でも特に魔法習得のスピードが速いように思われた。
それに、ユリアンナは努力できる人間のようだ。
貴族界では『シルベスカ家のユリアンナ嬢は無能で愚かな悪女』との認識だが、噂は当てにならないものだと改めて思う。
「確かに、市井で生きていくにはその程度で十分ですわね。それで、今日は一体どんな魔法を教えていただけるのかしら?」
ユリアンナは認識阻害の程度に文句を言うこともなく、ワクワクしたような輝く瞳でオズワルドを見上げる。
今までオズワルドの瞳をこんなにも真っ直ぐ見つめる者などいなかったため、オズワルドは戸惑ってつい視線を泳がせてしまう。
「っ…………今日は防御術を教えようと……思う」
消え入りそうな声でそう言うと、オズワルドは照れくさそうにポリポリ頰を掻いた。
◇
オズワルドが言ったようにユリアンナは魔法の才があったらしく、どんどん新しい魔法を覚えた。
前世を思い出す前のユリアンナも同様に魔法の才があったのだろうが、優秀な兄と比べられ蔑まれた経験がユリアンナを学ぶことから遠ざけてしまった。
今のユリアンナはたまたま前世の記憶がきっかけで再び魔法を学ぶ気になったが、ゲームのユリアンナはそのきっかけもないままに学園に行き、〝無能で愚かな悪役令嬢〟になってしまったのだろう。
訓練を始めて半年を過ぎる頃には一通りの身を守る魔法の習得を終え、実戦形式の訓練を始めた。
「はっ……!そんな攻撃は食らわないわよっ!」
ユリアンナはオズワルドの右手から発された炎の球を両手を翳して作った魔法盾で防ぐ。
同時に踏ん張った右足で地面を蹴って体勢を立て直すと、すぐに詠唱をしてオズワルドに向けて雷撃を放つ。
オズワルドが跳躍して避けると雷撃は地面に直撃し、大きく土埃を上げユリアンナの視界を遮る。
(……!オズがいないわ……!)
土埃の隙間からオズワルドの姿を探すが、オズワルドは忽然と姿を消してしまう。
ユリアンナがオズワルドの姿を探しているうちに、首元に冷んやりした金属が触れる。
「チェックメイト。俺の勝ちだ」
姿を消したオズワルドは音もなくユリアンナの背後に回り、その首元に模造刀を突きつけていた。
「………参りました」
ユリアンナは両手を上げて膝をつくと、フーッと肩で大きく息をした。
この半年欠かさず続けてきたトレーニングのおかげで、体力もだいぶついてきた。
しかし相対するオズワルドは息一つ乱さず、汗一つかいていない。
ユリアンナと比べると大人と赤ん坊ほどの実力差に感じる。
「反応速度も速くなって来たんじゃないか?魔術師としてはまだまだだけど、悪漢から身を守るぐらいはできそうだ」
オズワルドが満足そうに口角を上げると、ユリアンナも息を切らしながらその勝気に見える眦を下げる。
「……オズの呼吸ひとつ乱せないなんて全然ダメね」
「俺は師匠の下で10年訓練してるんだ。ユリはまだ半年だろ?大したもんだよ」
魔法を通して打ち解けてきた2人はお互いを「オズ」「ユリ」と呼び合う仲になった。
「最年少魔剣士様に褒められたら調子に乗ってしまうわ」
ユリアンナの軽口にオズワルドは声を上げて笑う。
魔剣士とは、高い魔法と剣術の腕を持つ者に対して王家から与えられる称号で、特別な試験を通過した者のみに与えられる。
魔法のみ、剣術のみを極めようとする者は多くいるが、どちらも高いレベルで習得できる者は稀である。
ゲームでのオズワルドに『魔剣士』という設定はなかった気がするが、ユリアンナが関わったことで設定が変わってしまったのかもしれない。
とにかく、オズワルドはユリアンナと出会ってから剣の訓練を本格的に始め、たったの半年で史上最年少の魔剣士となったのである。
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