シンデレラは、眠れない

月詠嗣苑

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二十六話

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「なに見てんだ?」

「ん? 不動産屋のアプリ」

「何で?」

「は? 覚えてない? 半年の約束で私ここにいるんだけど?」

「……。」

 そうだ! そんな約束をしてたなー。

「どうしても?」

「え? だって……」

 瑠奈は、そのあと何か言おうとしたが、何も言わず珈琲を飲んでいた。

「思えばこの半年色々あったな」

「うん。ありすぎでしょ?」

 プロポーズをして、受けてくれたのに……。

 また、一人になるのか?俺とエリーは、捨てられるのか?


「あー、そうだ。庶務の高橋さんから、これ届いてた」と渡されたのは、結婚式の招待状。

「私は、もう出したけど。マサキ…さんどうする?」

「行けるには行けるけど。いま、なんで言い直した?」

「え? なんか照れたから」

 照れても可愛い!

 とりあえず、出席の方に丸をつけて、鞄に入れた。

 ニャァァッ……

 エリーが、瑠奈の膝の上に乗っては、器用に毛繕いをしている。避妊手術は終わっても、行動の速さは変わらず、前より元気だ。

「瑠奈、珈琲」

「うん」

 瑠奈が淹れてくれる珈琲も同じ機械を使ってるのに、味が違うように感じる。

「ん? 珍しいね、ココアなんて」

「んー、なんか胃の調子がねぇ。ほら、最近バタバタしてたから」

「ふーん。それより、お袋さん元気になったか?」

「元気ってか、風邪ひいただけだよ? 一応、検査も受けたから大丈夫だった」

「ならいいが……」

「エリー、ちょっとパパんとこ行ってて……。トイレ」

 ニャンッ!と鳴いて、エリーは俺の膝へ。

 暫くして、瑠奈が戻るとエリーは、鳴いて膝の上に戻る。

「でも、高橋さん。急に決まったのか?」

 婚約した話は聞いてはいたが、まだ先だとばかり……。

「デキたんだって。赤ちゃん」

「なるほど、ね。それで急いだってか」

 赤ちゃんか……。もし、瑠奈に子供が出来たら……と要らん事まで想像した。

「高橋さんも、莉子ちゃんも、みんなママになっていく……」

「欲しい?」

「そりゃ、まぁ、ね。あー、美味しかった! ごちそうさま」

「大丈夫か? 顔色悪いぞ」

「大丈夫だって。じゃ、先に寝てる」

 瑠奈は、手を振って寝室へ行き、俺は、瑠奈が座っていた場所をぼんやり眺めながら珈琲を飲んだ。

「じゃ、お前はここだ。朝には開けてやるからな」

 ニャンッ!

 エリーをゲージに戻し、リビングの灯りを落とす。

「っと……」

 どうやら、瑠奈は眠りについたらしい。

「おやすみ」

 いつもみたいに額にキスし、寝室の中は、暗くなった。


「パパ! パパ! 大変! ……くんが歩いたのっ!!」

 これは、誰だ?

 俺?

 声は聞こえるが、顔が見えない。

「パーパッ!」と小さな子が俺の足にしがみついて笑う。

 俺と似てるが、俺じゃないな。

「おー、歩いた歩いた!」と懐かしい声がして、振り向いた。

 親父?でも、なんか違う。

 誰だ?


「……さん? 朝ですよぉ! 起きないと遅刻ですよ?」

 身体を揺さぶられて、目を開ければ、

「瑠奈、だよな?」

「そうだけど。寝ぼけてます?」

「夢、だったのか? あれは……」

 大丈夫だ。手に力は入る。

 ニャッ!

「エリー、おはよう。いま、ママんとこ行くからいっといで」とエリーを走らせ、俺は、身支度を整えた。

「全くどうしたんですか? 髭も剃ってないし……」

「あとで、剃って?」

「してあげますから、ご飯食べてくださいね!」

 なんとなく瑠奈の顔色は、昨日よりはいいみたいだが……。

「お前、いつワクチン打ったっけ?」

「二回目? 二回目は、去年の十一月かな。3回目は今年の八月位かな? テレビで言ってたもの」

 じゃ、気のせいか。

「でも、ちゃんと病院いってきな。まだ調子悪そうな顔色だぞ」

「はいはい。エリー、キミのパパは心配性だねぇ」

 ニャンッ!

 エリーよ、お前まで……。

「俺の方が、エリーとの付き合いが長いのに!」と妙な事で張り合ってしまう。

 今朝は、洋食か。

「お前、卵食わんの?」

「んー、なんか、ね」

 瑠奈は、胃の辺りをさすっていた。

「瑠奈、お前今日休め。んで、病院いけ」

「んー、そうする……」

 それでも、髭は剃ってくれた。ありがたい。


 おかしいなぁ。どうも最近、胃が落ち着かない。

 気持ち悪くはないんだけれど、食欲が落ちてきたし。でも、熱はないから、コロンの疑いはないだろうけど……。

 マサキさんを見送ってから、近くの病院に行ったら……。

「おめでとうございます。妊娠三ヶ月目、かなぁ?」

「え……妊娠、ですか?」

「そうですよ。じゃ、こっちに来てください」と診察台の上に寝て、エコー?だかと言うのをした。

「んー、まだ小さいけど。これが、胎芽ですね」

 白黒の中に、小さな丸があった。

 これが、赤ちゃん?

 プリントされたそれと妊娠証明書と母子手帳発行書を貰った。

「次に来たら、予定日までわかるからね。頑張って!」と言われ、気付いたら、会社の目の前にいて。

 LIMEで、赤ちゃん出来ちゃった、と伝えた。
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