シンデレラは、眠れない

月詠嗣苑

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二十一話

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「おはよう」

「おはようございまーす」

 今朝は、朝一番で行く取引先があったから、そこに寄っての出社。

「どーかしたの?」

「なんか、田所さんが、まだこないんですよー」

「へぇ、珍しいわね? あの人これまでに無遅刻無欠勤だったのにね」

 彼もここにきて、長い。奥さんは、去年亡くなったとは聞いたけど。

「それに……」

「あー、あの人達、ね」

 部所の隅で固まっていたのは、田所さんと仲の良い飲み友達みたいな人。

「なんだろーね? あ、莉子ちゃん、これから外でしょ? お腹冷やさないようにね!」

「はーい、じゃ、いってきまーす!」と莉子ちゃんは、轟さんと一緒に外回りの挨拶回り。

「はぁっ、莉子ちゃんもそろそろかぁ」

 まだまだぺたんこなお腹だけど、なんとなく身体全体がふっくらしてきたと思う。式は、六月でお腹が目立たない内にやると聞いた。

 トゥルルルル……と電話が鳴り、出たのだけれど……。

 一旦、電話を保留にして、課長の元へ……。

「あの、田所さんの事で話があると、冨山金融って所から電話入ったんですけど……」

 で、その電話を受けた課長は、電話が終わってから、どこかへ出かけた。

「あの花井さん。ちょっと相談したい事があるんだけど……」と庶務の林さん、経理の三木さん、営業の長谷川さんが、私がランチに行こうとしたら声をかけて来た。


「連絡が取れないって、今日休んでるだけじゃ?」

「だと思ってさ、さっきうちの家内に言って、家まで行って貰ったんだけど……」

「いなかった?」

「だけじゃなくって、玄関とか窓に金返せ!とか書かれた張り紙してあったって……」

「ふぅん。でも、それでどうして私に?」

 私と田所さんは、仕事以外での付き合いは全くない。

「なんでも、相談に乗ってくれるって、前に、莉子ちゃんが……」

 莉子ーーーーっ!!私が相談になってるのは、極少数よ!!

 だから、会社に金融会社から?

 田所さんの自宅に掛けても、携帯に掛けても、コール音が鳴るだけで出ない。

「そう言われても……」

「けど、俺達、田所さんとこの連休に旅行行く予定立ててて……」

「積立金として、毎月一万円預けてたんだよ。なぁ」

「あぁ。今日は、もしかしたら急病かなんかで休んだのかも知れんけど……」

「連絡がないと不安になる訳で……」

 なるほどねー。といっても……。

「よく行く所とかないの?」

「知らないんだ。たまに、みんなで飲みには行くけど…」

「うん」

 八方塞がり?

 夕方近くになって、課長が疲れた顔で帰って来た。

「はい、珈琲。少し濃いめです」

「ありがとう。癒された」

 珈琲で?

「どうだった?」

「帰ったら話す」と課長は、珈琲を飲みながら、パソコンを開いた。


「エリー、ただいまー。パパのおかえりだよー」と課長帰宅早々エリーを捕まえて!頬ずり。

 これが、仕事の鬼と呼ばれてる人。

「瑠奈ーっ。脱がしてー」

 あー、ほんと疲れてるんだな、と行動でわかって来た。

「田所、飛びやがった」

 やっぱ、そうか。

 マサキさんの話だと、金融会社には二〇〇万の借金、旅行の積立金二五万、か。

「実家にも亡くなった奥さんの所、息子の所にも電話してきいても、知らなかったらしい。で、今日付けで退職依頼の届けが速達で届いた」

「あらー、大変。退職依頼ってあるのね」

「飯は?」

「うん、出来てる」とエリーをテーブルの下に連れて、食べる。

「あ、じゃあ、借金は退職金で?」

「だろーな。まぁ、乗り込んで来られるのを考えれば、未然に防げて良かった。表だったら……」

「そうねぇ。評判おちるものね。おかわりいる?」

「うん」

 夕飯を食べ終えて、エリーはマサキさんの膝へ。私は、食器を片付けてしまう。

「まー、退職金の残りで、あいつらの積み立て費用も返せるだろーし」

「そうね。肩でも揉みましょうか?」

「じゃ、俺は胸でも……」

「遠慮しまーす」

 こうやってのんびり話すのも、あと少しなのかなぁ。いくら、告白されて、付き合ってはいるけど、長くここにいるのも……。

「いい気持ち……。お前がいて良かった」

「はい」

「ところで、瑠奈?」

「まだ、無理ですよ?」

「はい。また今度誘います。温泉、混浴あったから……」

 だから、今朝慌ててパソコン閉めたの?起きてるのは、わかってたけど。

「なんか、課長って、可愛く思える時ありますね」

 そう言って笑ったら、うるさいと返された。
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