シンデレラは、眠れない

月詠嗣苑

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十五話

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「課長、お疲れ様でーす」

「お先失礼しまーす!」と就業チャイムが鳴ると社員はほぼ帰っていく。

「花井、どうした? 先に帰ってもいいんだぞ?」

「……。」

 花井は、なんとなくボォッとしたような感じで、俯いていた。

「おーい、花井? 瑠奈?」と近くまで行って呼んだのに、まるで聞こえてないかのような?

「花井? って、おまっ!! 熱があるじゃないかっ!!」

 さっきまで元気だったのに……。

 隣の部所に残ってた奴らに花井を車まで運んで、貰って、病院へ直行……。


「んだよー、また風邪かよーっ!!」

「みたいです。でも、さっきはなんともなかったんですけどねぇ」

「おい、後で薬飲ませてやるから、大人しく寝とけ」

「課長? なんか怒ってます?」

「いや、怒ってないが?」

 エリーを寝室から連れ出し、扉を閉めた。

「お預け、か?」

 病み上がりで、旅行に連れ出す程馬鹿ではない。

 お粥を作って、寝室へといくと、瑠奈は起きてはいた。

「課長……」

「お粥作ってきたけど、食えるか? あんま食欲ないなら、プリンもあるぞ?」

「少しなら……」と言うから、身体を起こしてやり、

「ほら、口開けろ」と言ってるのに、自分で食べれると言い張って、甘えてこない。

 そうこうしてる間に、ガチャンとお粥の入った器が倒れ、お粥は瑠奈の着ていた服に……。

「あんな、少しは甘えろ。せっかく俺がいるんだから」

 汚れたものを外すと……。

「き、着替えは出来るから」と胸を手で隠す。

「いいから。お前は、病人なんだから、ジッとしてろ」と半ば強制的に、パジャマを着せようとしたが……。

「なぁ、瑠奈? ひとつ聞いていいか?」

「はい?」

「パジャマの下ってつけるのか?」

「……。」

 無言ってことは、付けないのか……。なるほど……。

 プチンッとブラのホックを外し、パジャマを着せた。

 ブルッ……

「おおっ……」

「ん?」

「おい、次下にいくから、寝ろ」と布団をめくり、履いていたスカートを脱がす。

「ストッキング、新しくなってる」

「だって……」

 はいはい、俺が破いたからね。

「課長?」

 ショーツの上からでもわかるあの膨らみは、流石に……。

「右足曲げろ」となんとかパジャマのズボンを履かせる事は出来た。

「ありがとうございます」

「旅行は、いつでも行けるから……」

「はい」

 冷めてしまったが、残りのお粥を食べさせ、薬を飲ませ、瑠奈は眠りについた。

「暇だな。エリー」

 ニャァ?ニャァ?

「だーめーだ。今、あいつは病気してるからな。お前に移ったりしたら、また心配させるからな」

 ニャァ……

 エリーは、落ち着かないのか、リビングと寝室を行き来していた。

 やがて、諦めたのか大人しくソファに乗って、丸くなった。

「エリーも懐いてるしなぁ……。あと三ヶ月かー」

 あと三ヶ月の間に、俺はなんとしてでも瑠奈を嫁にしたい!

「ハァッ」


 喉が乾いて、目が覚めたら、寝室にいた。

「課長?」

 静かにリビングのドアを開けたら、課長がソファで寝ていて、エリーだけがやってきた。

「しーだよ? わかった?」

 エリーは、声を出さず、一度瞬きをした。

「こうすれば、寒くないかな?」と課長の身体に毛布を掛け、私は、エリーと一緒に寝室へ。ドアは、開けておいた。


「んだよ、ここにいたのか。焦った」

 ウトウトとしてたのか、隣に居たはずのエリーが、どこにも居なくて、寝室を覗いたら……。

 瑠奈と寝ていたらしい。

「少し寝るか」と俺もそこで寝ようとしたら、何故かエリーに威嚇された。

「え? 俺、飼い主だぜ?」と言っても、シャァァァッ!だし。結局、またソファで寝ることにした。

 エリーは、エリーで、寂しかったんだろうが。人間の病気でも、動物に移る事もあるし、その逆もあるから、無闇に近寄せられない。

「とりあえず、早く治って貰わんと、俺が寂しい……」

 毛布を被って、寝ることにした。


 キィッとリビングのドアが、静かに開いた。

「ほっ…」

 まだ課長は寝ていた。エリーは、側にいたが、アクビをしてまた眠りについた。

「珈琲でも飲もうかな?」

 昨日、あんなにあった熱はひいたのか、今は身体が軽く感じる。凄く素敵な夢を見ていたからか、まだ顔がほてってる。

 珈琲をカップに注いで、ソファに座って飲み始めた。

「幸せ……」

 エリーが、起きて私の膝にきた。

「昨日は、ごめんね、エリー」

 優しく身体を撫でると、またエリーはアクビをして、また眠った。

「近藤さん。私、あなたが好きです」

 なんて……。本人、寝てるからいいよね?

「俺もお前が好きだ」

 っ!!!

 寝言?課長は、動いてはいない。

「寝てるのかな?」

 側に行ったら、毛布から課長の顔が……。

「い、いつから?」

「お前が、ここに来た時……」

「聞いてた?」

「だから、好きだと言った」

「……。」

 手を引っ張られた私は、倒れるように課長の上に乗ってしまって……。

「瑠奈? 俺は、お前が好きだ。誰にも渡さないし、俺はお前だけを一生かけて愛してく……」

「はい……」

 唇が重なり、何度も何度もキスをした……。
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