シンデレラは、眠れない

月詠嗣苑

文字の大きさ
上 下
6 / 28

六話

しおりを挟む
「おはよう」

「あ、先輩。おはようございます」

 課長の家に居候して、もうすぐ一ヶ月。あれから課長とは、まともに言葉を交わしてない。


「課長、おはようございます」

 チラッと私を見て、

「あぁ」

「課長、この書類にサインを」

 チラッと私を見て、サインして無言さで差し出す。

 それでいて、私とよく目が合う。

 なんだろう?おかしな感じ。


「そういや、最近先輩。痩せました?」

「は? まさか!」

 課長が、色んなとこに拉致ってくれるから、太ったわよっ!なんてことは、言えない。

「そうかなぁ? ねぇ、荒木くん! 最近、瑠奈先輩前より変わったよね?」と莉子ちゃんと同期の荒木くんが、私の顔をジッと見て……。

「なんも変わってないと思うけど?」と私を落とす。

「絶対、前よりいいと思ったのになぁ?」

 そうなんだろうか?

「け、化粧品変えたからかな? ハハッ」

 って、また見てるし……。

 言いたいことあるなら、言ってよぉ!!謝るからぁ!!


「ってなんで……」

 何故、何も言わず莉子ちゃんとランチに来たのに、偶然そこにも課長が!!

「あ、お待たせしました!」と慌てて駆け込んできた男性と課長が、互いに挨拶し合う。

 なんだ、商談か……。

「せーんぱいっ! 何にします? 早くしないとお昼休み無くなっちゃいますよ?」

 莉子ちゃんは、女の私からみても、可愛い部類に入る。私も莉子ちゃんみたいに可愛かったら、また違ってたのかな?

「んー、そうね? 今日は、Bにしとくわ」

 互いに違うランチを頼み、味比べをしたり、ついてたデザートを堪能した。

 課長は、まだ、か。って、なに気にしてんのよ!

 午後は、打ち合わせもなく、比較的に穏やかに?仕事が出来た。

 のに!!

 就業間際になって、明日行われるプレゼンのミスがわかり、私は、課長と一緒に取引き先へ……。

「本当に申し訳ございませんっ!!」

「すみませんでした!」

「あー、いや、いいのよ? こっちは、ちゃんと評価さえ上げれれば……。でもね?」

 私のせいだ。私が、あの時、最終確認を怠ったから……。これで、不可になったらどうしよう?!

 怖くて、足が……。

「花井、お前はここにいろ」

 課長は、そう言って担当の由良田さんと一緒に場所を出て行った。

 どうしよう……。

「お茶、どうぞ」

「あ……。どうしよう……。私、私……」

「大丈夫ですから。ね? なんとか、なりますよ。きっと……」

 そうだろうか?

 課長のあの顔を見たら……。

 課長は、部署を出て一時間位で戻ってきた。

「あの……」

「言うな。お前は、何も悪くないから」

 どうしよう……。

 ここに入って、幾つかミスは犯した事はあるけれど、ここまで大きいのはなかった。

「怖い……」

「大丈夫だから……。お前は、このまま家に帰れ。荷物は後で持ってくから」

「……。」

 課長に部屋まで送って貰ったけれど、私はソファに座ったまま動けずにいた。

 時間だけが、刻々と過ぎ、夕方になっても課長は戻って来なかった。


「ただいま。瑠……花井?」

 おかしい。部屋が暗い。

 廊下の灯りをつけても、花井の声もエリーの声も聞こえない。

「花井?」

 花井は、いた。ソファの上で、小さくなって座っていた。

「ごめんな……さい。ごめんなさい。私、どうして……どう……」


 課長?なんで……私……。

「もう何も言うな。言わなくていい。謝らなくていいから。自分をそう責めるな……」

 課長の大きな手が、私の身体を……。

「ごめんなさい……。わぁぁぁぁっ!!」

 泣いた。課長の胸に思いっきり顔を埋めた。

 あのクズ男に別れを告げられても泣かなかったのに……。

 課長……。

 泣き疲れたのか、私はそのまま寝てしまったらしい。

 課長が着ていたシャツの袖を硬く握りしめたまま……。


「あー、腰痛い」

「すみません」

「花井、珈琲」

「はい」

 朝のリビングで、まだ目の腫れた私と腰を押さえる課長。

 ニャウッ!!

「あー、はいはい。ご飯、あげるから待ってて! エリー」

 ニャッ!!

 時間差で、出社した。周りの視線が、ちょっと気になったけど、プレゼン頑張った結果……。

「獲れた! これで、五億が俺の物だーーーっ!!」

 いや、会社のものですよ?

 課長と由良田さんが、どんな話し合いをしたのか知らないけれど、うちの会社が勝ち獲れた。

「良かったなー、花井!」

 ???

 私、怖くて、震えて、泣いて、何もしてませんよ?


 そのプレゼンが終わって、一週間後のクリスマスイブ。

「あ、あの課長?」

「なんだ?」

「こ、これは、一体?」

「見てわからんか? お前へのクリスマスプレゼントだが?」

 いやいやいや。

 明らかに違う人数の量ですよね?これ!!

「近藤さま、こちらで全部になります」

 は?様?!とは?

「どうした? これじゃ、足らんか? 足らんなら、買いに行くが?」

「だ、大丈夫です……。か、課長」

 やっぱ課長の金銭感覚おかしいって!!

 何をどうしたら、こうなるの?!

 お店でも開けと?

 私の部屋が……、いや、エリー嬢の部屋が荷物で溢れていく!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

処理中です...