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三話
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「おはようご……」
ざいますと最後まで言わない内に、聞き覚えのある、
「馬鹿か、おめぇーはっ!! 一体、どこに目を付けたら、こんな評価が貰えんだ? ぁあっ!?」という紺野課長の怒鳴り声が聞こえた。
「ね、どうしたの? アレ」と近くにいた事務の大村さんに声を掛けたら、
「ガンさん、またやっちゃったんです。昨日……」
ガンさん、とは、岩田裕司。今年の新入社員で、最初っからミスの目立つ子だった。最近は、やっと落ち着いてきたとは聞いてはいたけど……。
大村さんの話では、取引先の課長に、本人が気にしてるコトを、社員に聞こえるような声で言った挙句、気安く肩を叩いた、と。
「ハハッ……」
珍しっ!いつもは、外回りからの出社が、主な紺野課長なのに……。
その紺野課長の家の片隅に居候してる私。
部屋の片付けをすれば、
「汚れてる」
洗濯をすれば、
「お前、漂白剤入れないで洗っただろ? 干す時に、ちゃんとシワを叩いたのか?」
エリー嬢の部屋の掃除をすれば、
「トイレの砂が、落ちてるじゃないか」
「……。」
兎に角、否定する事が多い!唯一、否定しないのは……。
朝ご飯を作った時に、
「うん。お前、飯は作れるんだな」だった。
「でも、瑠奈さん。お引越ししたんですってね」
「あー、うん」
あれ?誰かに言ったってけ?
「莉子ちゃんが、瑠奈先輩が、いつもと違う駅に入っていった! って……」
あー、莉子ちゃん、ね。って、あなた愛宕町住まいだっけ?
そんな会話をし、席に着くと今度は、課長がガンさんと一緒に部署を出て行った。
「あー、今回は流石にマズイかもですね、先輩」
「うん……」
「ガンさん、一言多いのに……」
いや、多い、ではなく、多すぎるのよっ!!お陰で、何度クレームの対応したことやら……。
でも、不思議な事に紺野課長にしこたま怒られた社員は多いけど、誰一人として辞める社員は居なかった。
「は? んなの、俺が決める権限ねーよ。人事が決めんだろーが」とまぁ、口が悪い悪い。
仕事の時は、ほぼ無口!怒る時は、雷の如く怒る。私に投げる言葉は、いつも機嫌が悪いのに、エリー嬢に対しては甘い……。
「……で、これか? 俺の弁当っていうのは」
「あー、はい」
日々の食費も渡されてるので、自分のを作るついでに課長の分のお弁当を作ってあげようと、周りの目を盗んで、会議室に入って行った課長を捕まえて渡した。
「わかった」
「いえ」
「何してる。用が済んだらとっとと出てけ……」と言って、また書類に目を通し始めた。
へぇ、課長って、眼鏡かけるんだ。
「何してる? 邪魔だ。集中出来ん」と手を引っ張られ、会議室から出された。
料理には自信あるのに、一度も美味しいとは言わない。元・料理人の娘なのに……。
一日の労働時間は、八時間!
繁忙期でない限り、残業はないが、課長の帰りは本当に遅い!
「エリーのパパは、ほんと仕事人間だねぇ」
ニャンッ!
私は、エリー嬢を抱いて、のんびりソファに座っていた。
ほんと、いい毛艶だわ。課長が、どれだけ大事にしてるのかは、日々のアレを見てるとわかるけど……。
ピーピーッと洗濯が終わったブザーが鳴って、エリーを小さなゲージの中に入れてから、洗濯物をベランダに干す。
確かに、ただバサバサと広げるように伸ばすより、叩いてから干した方が、仕上がり度も違っていた。
「はいはい。ちょっと待ってね。もうすぐ終わるから……」
ゲージの中では、エリー嬢が鳴きながらクルクル回る。
フックを外すと一目散にソファに乗り、軽くひと鳴き。
ソファの真ん中は、課長が座る場所。お気に入りなのかも知れない。私は、どちらかの隅だけど。
エリー嬢が、ニャンッ!!と鳴き、ダダッと玄関へ!
の数秒後、インターフォン越しに、開けろと一言。
数分後、課長は玄関から入ってくる。鍵持ってるのに、私が来てから自分で開けなくなった。
「今夜は……」
「パスタです。キャベツとツナのペペロンチーノ」
課長は、チラッと見てから、
「そういうのは、俺が帰ってきてからでいい。お前は?」
「まだです」
で、一緒に食べるんだけど、食べてる時も静かで……。
食べ終わっても、静か!せめて、美味しかったと言ってくれれば、救われるのにぃっ!!
食事が終われば、課長は、ソファに座って、夕刊を読んだり、パソコンを弄ったりする。
「珈琲どーぞ」
「うん。ありがとう」
っ!?ありがとう?
「あ、家だったか。今のは、忘れてくれ」と言われたけど、忘れません!
「風呂、行ってくる」
「はい」
課長が、バスルームへと行くと、エリー嬢が近寄って、足元でスリスリ……。
「はいはい。おいで……」
課長の部屋に居候してわかったのは、紺野課長はとても、とても、とても、エリー嬢命であること!は、至る所に飾られてるエリー嬢の写真でわかったし、月に二度程ペットトリマーに行き、マッサージして貰ったりしてる。
猫なのに!
それがあるから、ああも仕事出来るんだ……。
ざいますと最後まで言わない内に、聞き覚えのある、
「馬鹿か、おめぇーはっ!! 一体、どこに目を付けたら、こんな評価が貰えんだ? ぁあっ!?」という紺野課長の怒鳴り声が聞こえた。
「ね、どうしたの? アレ」と近くにいた事務の大村さんに声を掛けたら、
「ガンさん、またやっちゃったんです。昨日……」
ガンさん、とは、岩田裕司。今年の新入社員で、最初っからミスの目立つ子だった。最近は、やっと落ち着いてきたとは聞いてはいたけど……。
大村さんの話では、取引先の課長に、本人が気にしてるコトを、社員に聞こえるような声で言った挙句、気安く肩を叩いた、と。
「ハハッ……」
珍しっ!いつもは、外回りからの出社が、主な紺野課長なのに……。
その紺野課長の家の片隅に居候してる私。
部屋の片付けをすれば、
「汚れてる」
洗濯をすれば、
「お前、漂白剤入れないで洗っただろ? 干す時に、ちゃんとシワを叩いたのか?」
エリー嬢の部屋の掃除をすれば、
「トイレの砂が、落ちてるじゃないか」
「……。」
兎に角、否定する事が多い!唯一、否定しないのは……。
朝ご飯を作った時に、
「うん。お前、飯は作れるんだな」だった。
「でも、瑠奈さん。お引越ししたんですってね」
「あー、うん」
あれ?誰かに言ったってけ?
「莉子ちゃんが、瑠奈先輩が、いつもと違う駅に入っていった! って……」
あー、莉子ちゃん、ね。って、あなた愛宕町住まいだっけ?
そんな会話をし、席に着くと今度は、課長がガンさんと一緒に部署を出て行った。
「あー、今回は流石にマズイかもですね、先輩」
「うん……」
「ガンさん、一言多いのに……」
いや、多い、ではなく、多すぎるのよっ!!お陰で、何度クレームの対応したことやら……。
でも、不思議な事に紺野課長にしこたま怒られた社員は多いけど、誰一人として辞める社員は居なかった。
「は? んなの、俺が決める権限ねーよ。人事が決めんだろーが」とまぁ、口が悪い悪い。
仕事の時は、ほぼ無口!怒る時は、雷の如く怒る。私に投げる言葉は、いつも機嫌が悪いのに、エリー嬢に対しては甘い……。
「……で、これか? 俺の弁当っていうのは」
「あー、はい」
日々の食費も渡されてるので、自分のを作るついでに課長の分のお弁当を作ってあげようと、周りの目を盗んで、会議室に入って行った課長を捕まえて渡した。
「わかった」
「いえ」
「何してる。用が済んだらとっとと出てけ……」と言って、また書類に目を通し始めた。
へぇ、課長って、眼鏡かけるんだ。
「何してる? 邪魔だ。集中出来ん」と手を引っ張られ、会議室から出された。
料理には自信あるのに、一度も美味しいとは言わない。元・料理人の娘なのに……。
一日の労働時間は、八時間!
繁忙期でない限り、残業はないが、課長の帰りは本当に遅い!
「エリーのパパは、ほんと仕事人間だねぇ」
ニャンッ!
私は、エリー嬢を抱いて、のんびりソファに座っていた。
ほんと、いい毛艶だわ。課長が、どれだけ大事にしてるのかは、日々のアレを見てるとわかるけど……。
ピーピーッと洗濯が終わったブザーが鳴って、エリーを小さなゲージの中に入れてから、洗濯物をベランダに干す。
確かに、ただバサバサと広げるように伸ばすより、叩いてから干した方が、仕上がり度も違っていた。
「はいはい。ちょっと待ってね。もうすぐ終わるから……」
ゲージの中では、エリー嬢が鳴きながらクルクル回る。
フックを外すと一目散にソファに乗り、軽くひと鳴き。
ソファの真ん中は、課長が座る場所。お気に入りなのかも知れない。私は、どちらかの隅だけど。
エリー嬢が、ニャンッ!!と鳴き、ダダッと玄関へ!
の数秒後、インターフォン越しに、開けろと一言。
数分後、課長は玄関から入ってくる。鍵持ってるのに、私が来てから自分で開けなくなった。
「今夜は……」
「パスタです。キャベツとツナのペペロンチーノ」
課長は、チラッと見てから、
「そういうのは、俺が帰ってきてからでいい。お前は?」
「まだです」
で、一緒に食べるんだけど、食べてる時も静かで……。
食べ終わっても、静か!せめて、美味しかったと言ってくれれば、救われるのにぃっ!!
食事が終われば、課長は、ソファに座って、夕刊を読んだり、パソコンを弄ったりする。
「珈琲どーぞ」
「うん。ありがとう」
っ!?ありがとう?
「あ、家だったか。今のは、忘れてくれ」と言われたけど、忘れません!
「風呂、行ってくる」
「はい」
課長が、バスルームへと行くと、エリー嬢が近寄って、足元でスリスリ……。
「はいはい。おいで……」
課長の部屋に居候してわかったのは、紺野課長はとても、とても、とても、エリー嬢命であること!は、至る所に飾られてるエリー嬢の写真でわかったし、月に二度程ペットトリマーに行き、マッサージして貰ったりしてる。
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