初恋は、実りませんか?

月詠嗣苑

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四話

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 お兄ちゃん。
 僕は、もう中学二年になりました。あと少しで三年になります。高校はまだ決めてないけど。
 母さんは、なんとか元気です。まだ、ここに来るには無理だけど、いつか母さんが本当に元気になったら、一緒にきます。
 それまで、見守ってて下さい。

 僕は、そう言うと兄さんが眠る墓前に頭を下げ、秋葉さんが待つ駐車場まで戻っていった。

「ちゃんと言えた?」

「はい」

 大きな桜がある岩水寺には、僕の兄が眠ってる。

 石川悠、享年9歳。ある事件によって短い命に幕を閉じた。そして、その事が原因で、母さんは母さんで無くなった。

 僕の双子の兄……。

 父さんの手によって……。

 そして、僕が……。

 母さんの目の前で、女を捨てた日でもあった。

 狂ってる……。

 側からみればそうなんだろう。

 双子で、兄の方が頭もよく、周りの受けも良かったのだから。

「あんたが……。あんたが、死ねば良かったのよぉ!! あんたが、あの時、あの人に犯されてれば……」

 兄の葬儀の時、車椅子に乗った母さんは、そう言って僕を……、いや、私を殴り続けた。眠っている時に首を絞められたり、笑いながら包丁を突きつけられたりしたこともあって、母さんは一年精神科へ入院した。


「な、優。海行かないか?」

 秋葉さん、いや、先生はいつもそうだ。僕が泣きそうになると、必ず海へ連れてってくれる。

「ねぇ、先生? 先生は、嫌じゃなかった?」

「ん? 何が?」

「女なのに、男の子みたいな格好してる子って」

「別に? お前は、お前だ」

 膨らんだ胸が母さんにバレないように晒を撒いたり、生理になったら、汚物を隠したり、学校の制服も学ラン。一度でいい、セーラー服着たかった。

「いつか、戻るさ」

「うん……」

 海に着くと、秋葉さんと一緒に手を繋いで波打ち際まで行った。

「僕ね……」

「ん?」

「地球が丸いのになんで海は平らに見えるのか、今でもわかんない」

「そうだな。どこから見ても平らだもんな」

 秋葉さんの手が、あったかい。

 秋葉さんは、何も言わずただ海を眺めてた。

 僕も……。

 何を考えていたのだろうか?僕には、わからなかった。

「さ、寒くなったから帰ろう。風邪でもひかれたら、大変だしな」

 ほんと、大人だ……。

 海近くに小さな喫茶店あって、そこでウミガメの映像を見ながらまたのんびり出来た。

 お店を出る間際に、そこの店長さんから、亀のストラップを貰った。

「幸福の亀だって! 可愛いねぇ」

 変わった紐で編まれた亀が、また可愛かった。

「そうだな……」

 二人で一緒にスマホにつけた。

 幸せが、やってきますように!!


「……って、そこ! 手の動きおせーぞ!」

「……」

「鬼だ……」

 体育祭が近づき、体育以外の授業でもカリキュラムがある程度追いついている教科でも、こうして練習出来るのは、この学校の嫌なとこ。

「もう、なんで……あんなに燃えるの? 栗林の奴」

 知っていても言える訳が無かった。勝ったクラスには、担任への特別報酬があると言う事を!!

「おい、たーかーなーしー! お前、歩くのおせーんだよっ!」

 知らない人がこれを聞いたら、先生が生徒をとなるけど、栗林先生は、そう思われない。

「いいか? 打倒三組だ! あのキツネクラス、叩き潰してやるっ!」

 三組は、頭がいいクラスで、部活動でいい成績を取っている。

「栗林、大村にこっぴどくバカにされたらしいぞ」

「あー、夏期考査?」

 そんな話は聞いた事がある。

 ほんの100点違うだけで、ネチネチ言われたって……。

「いいか? ぜっ……てぇに三組に勝て。勝った奴には、俺からの特別なプレゼントをやろう!」

 ん?!そんな話聞いて……。

 ふと先生と目が合った。

 あ、これ絶対嫌なプレゼントだ。

 咄嗟に僕はそう思ったけど、この騒ぎに水を刺すようで、余計に言えなくなった。

 お陰で、四時間目は、凄く眠くて危なかった。


「体育祭ねぇ……」

「うん。けど、体調悪かったら無理しなくていいからな」

 母さんに体育祭のチラシを見せた時、迷ってる感じだった。

「優くんは、何に出るの?」

「僕? 僕は、ほぼ走る……」

 クラス全員、一致した。

「優くん、走るの早いもんね。いけるかわかんないけど、なんか楽しみないとね」

 ここ数日、塞ぎがちだったけど、今日は母さんの笑顔が見れた。

「ビデオもね、先生の友達って人が撮りに来てくれるんだって。なんか、いつもは業者の人がくるのに……」

「楽しみだわ……。お母さん、カメラとかわからないから……」

「取ったら、おばあちゃんにも見せないとね」

 今年の冬までもたない可能性が……と、叔父さんから聞いた。それは、母さんには知らせてない。聞いたら、また……。

 叔母さんが、亡くなった時も母さんは、強い薬を使って叔母さんを見送った。

 あの過去を思い出したくないのだろうけど。

 症状の一進一退が激しいけど、こうして笑顔が見れると正直ホッとする。

 今頃、秋葉さん、なにしてるのかなぁ?


「あの……、俺に話と言うのは……。」

 一枚の透明な板を挟んでの会話。

 初めて俺は、この人にあった。

 石川康仁。

 優の父親でもあり、優の双子の兄・悠を殺害し、優の母親の精神を病ませた男。そして、優を……。

「僕は、石川優。つまり、あなたの娘さんとお付き合いさせて貰ってます……」

 驚くのも無理はないだろう。歳の差もあるが、優はまだ未成年なのだから……。

 俺は、今まで何が合ったのかを承知していた。

「あなたにお願いがあります」

「……。」

 無の空気……。

「会いません……から」

「……。」

「あの子は……」

「元気です。俺があの二人を守りますから……」

 これでいい……。

 これでいいんだ……。

 冷たく重い扉が閉まった。

「済んだか?」

「あぁ。かなり、憔悴しきってたけどな」

 俺は、友人でもあり、弁護士をしてる佐伯と一緒にまたきた道を戻った。

 優達は知らない。

 あの男が、あと二年でソコを出る事を……。

 娘を犯し、息子を死なせた罪が、懲役七年。

「つか、お前がそこまで本気になるとはね……。」

「おかしいか?」

 煙草を吸おうとしたら、禁煙!と強く言われ、煙草を戻した。

「すまん、忘れてた」

 あの親子にしてみれば、余計なお世話かも知れなかった。知られれば、きっと詰られるともおもった。

 食事に誘われたが、なんとなく街をぶらつきたくて、駅でおろして貰った。


 ヴヴッ……ヴヴッ……

[元気か?]

 俺は、懐かしい相手にLIMEを送ると直ぐに返事がきた。

[元気だよ。どうしたの?]

 暇だと言うから、これから飯を奢る過程で、俺はソイツに会いにいった。


「秋葉さん、今日なんもないや……」

 出された課題も終え、母さんは薬を飲んで眠りについたらしい。

「明日、会えたらいいなぁ」

 でも、翌日の日曜日にも秋葉さんからのLIMEはなく、既読は着くけど、返事はなかった。


「え? だって、色々忙しかったし」

「それは、知ってるけどさぁ……」

 月曜日、昼休みに偶然先生を見つけて、相談する振りして……。

「優? お前、俺のこと好きか?」

 秋葉さんは、いつもそういう事は聞いてこない。僕もたまにしか言わないけど。

「ん? 好きだよ? なんで?」

「なんでもない。愛してる……」

 誰もいない資料室。学校の中は、かなりドキドキする。

 長い長いキスをして、言葉を交わした。

「体育祭頑張ったら、行きたかったケーキバイキング連れてってやる」

 そう約束を交わした。
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