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 渡瀬先生が、副担任となって1週間。

「海音先生ー、ここ! ここ教えて下さい!」

 返されたテスト用紙。間違えた箇所は、教科書を見るなり、友達に聞いたりすることも許可されてるのに、どうして男の子達は……。

「凛、前回より点数上がったね!」

 前は苦手だった方程式の変容も解けるようになった。

 これも、田中さんのおかげだ。

「ね、全国模試終わったらさ、皆でチョコレート見に行かない?」

 里美の誘いに、食いつかない女子はいなかった。

 バレンタインかぁ。

 田中さん、貰ってくれるかなぁ?

 今年もお姉ちゃんと友チョコを作る事が決まってるから、大丈夫!

「そういや、あの先生きたらさ、女の子達の目、きつくなってない?」

 1組だけではなく、2組、3組、ほとんどの女の子達がチラッと覗き込んでは、妙な視線を投げる。

 渡瀬先生は、先生で、妙に私に絡んできたりするし。


「まーた、上の空! そんなんじゃ、合格出来んぞ!」

 家庭教師でもある田中さん。

 今日は、お姉ちゃんが残業から帰るまで、側にいてくれる。

「あぁ、ゴメンなさい。ボォッとしてた……。」

 それでも、田中さんは怒ることなく、勉強を教えてくれる。

「はい、集中! 集中!」

「はぁい!」

 1教科終わる度に挟む休憩タイム。


お茶を飲んだり、お菓子を食べたり、ちょっとだけゲームしたり……。

「……。」

「ま、まぁ、そう落ち込まないでくださいよ。たかが、オセロなんだし……。」

 たまたまあったオセロをやりだしたら、ことごとく田中さんが負け続けた。

「よ、よしこれで最後だ! これで、負けたら凛ちゃんのお願い1個叶えてやる!」

 の勝負も、結局田中さんが負けて……。

「あの、ほんとになんでもいいんですか?」

「いいよ。なんかほしいのでもあるの?」

 ベッドにふたり腰掛けて……。

 ほんとに、いいのかなぁ?

 もし、断られたら……。

「……して、下さい。」

「ん? なに? 聞こえなかった。」

「あの……キ、キス……してください。」

 ポカンとした顔で私を見る田中さん。

「え? なんで?」

 驚く田中さんに、私は笑って……。

「じょ、冗談……で……。」

 暫く無の時間が、ふたりの間に流れていった。

 軽く触れた唇……。

 背中に回った田中さんの手……。

 一瞬、唇が離れて、また触れた……。

 田中さんの舌……。

 そして……。

「秘密、ね?」

 頷く私に、田中さんは、何度もキスをしてくれた。

「ただいまー!」というお姉ちゃんの声で、田中さんが先に下へ降りて行き、あとから私も降りた。

「疲れたー。凛、今日のご飯なにー?」

「今日は、生姜焼きだよ。待ってて、焼くから。」

 生れて初めてのキス……。

 他の誰でもない、大好きな田中さんだった。

 まさか、本当にキスしてくれるとは思わなかったし……。

「んー、りんどうしたのー? 鼻歌なんかしちゃって。」

 お姉ちゃんは、田中さんに何故か肩を揉んで貰って、こちらもご機嫌で……。

 ジューッジューッと香ばしいお醤油の匂いにキッチンもリビングも包まれる。

「「「いただいます!」」」

 3人での夕飯。

 男の人がいる食卓って、賑やかだなとも思うし、ご飯の減り方も早い。

「すみません。また、おかわりを……。」

「あなた、よく入るのねー。もう4杯目よ?」

 お姉ちゃんすら、呆れる食いっぷり。

「もぉ、これでおしまい! ご飯なくなっちゃうよ!」

「わかったって。後で、なんか手伝うから!」

 食後、田中さんは、お姉ちゃんと一緒に後片付けをして、私はその間に、お風呂に……。

 不思議な感じだった。

「さて、長く入ってるとのぼせちゃう。出なきゃ……。」

 気付かなかった……。

 まさか、そこに……。

「……。」

「あ……っ、ご、ごめんっ!!」

 田中さんが、何故か立っていた。

 バタンッと大きな音を立てて、再び浴室へ……。

「……。」

 見られた!どうしよう!

 私の身体……。

「ご、ごめん。その……そろそろ帰るから……。」

「わ、わかったから……。」

 それを伝えにきたのか。にしても、間が悪かった。

 パジャマに着替え、リビングに出るとお姉ちゃんも居なかった。

「はぁっ……。っもぉっ!!」

 ソファに置いてあったクッションを乱暴に叩いても、浮かんで来るのは……。

「田中さん……。」

 どうして、お姉ちゃんの彼氏なんかを好きになっちゃったのかな?

 やめよう、やめようと思っても、会うたびに好きになっていって……。

 私が、好きって言ったら困るだろうし。自分の事が原因で、お姉ちゃんに悲しい思いをさせたくないし。

「はぁっ……。」

 その日、お姉ちゃんは田中さんを送っていったのに、帰ってこなかった。


「お泊まりするなら、言ってよね! 心配したんだから!」

「はいはい。ごめんね。次からは、ちゃんと言うから! ごめんっ!」

 あんな事件?があったのに、田中さんからは、普通にPAINがきた。

 全国模試の日、私は田中さんの車で送って貰った。

「頑張って!」

「うん……。」

 結果?想像してもわからない。

 全国で3000人以上の生徒が受けて、全体のランクなんて下の方だし、県や市のランクで見ると、500の中には入ってはいた。

「ま、いいんじゃん? そう落ち込むなって!」

 田中さんの笑顔が……。

 眩しい……。

 優愛は、市で10位だった。ある意味、羨ましい。
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