上 下
6 / 11

6

しおりを挟む
 渡瀬先生が、副担任となって1週間。

「海音先生ー、ここ! ここ教えて下さい!」

 返されたテスト用紙。間違えた箇所は、教科書を見るなり、友達に聞いたりすることも許可されてるのに、どうして男の子達は……。

「凛、前回より点数上がったね!」

 前は苦手だった方程式の変容も解けるようになった。

 これも、田中さんのおかげだ。

「ね、全国模試終わったらさ、皆でチョコレート見に行かない?」

 里美の誘いに、食いつかない女子はいなかった。

 バレンタインかぁ。

 田中さん、貰ってくれるかなぁ?

 今年もお姉ちゃんと友チョコを作る事が決まってるから、大丈夫!

「そういや、あの先生きたらさ、女の子達の目、きつくなってない?」

 1組だけではなく、2組、3組、ほとんどの女の子達がチラッと覗き込んでは、妙な視線を投げる。

 渡瀬先生は、先生で、妙に私に絡んできたりするし。


「まーた、上の空! そんなんじゃ、合格出来んぞ!」

 家庭教師でもある田中さん。

 今日は、お姉ちゃんが残業から帰るまで、側にいてくれる。

「あぁ、ゴメンなさい。ボォッとしてた……。」

 それでも、田中さんは怒ることなく、勉強を教えてくれる。

「はい、集中! 集中!」

「はぁい!」

 1教科終わる度に挟む休憩タイム。


お茶を飲んだり、お菓子を食べたり、ちょっとだけゲームしたり……。

「……。」

「ま、まぁ、そう落ち込まないでくださいよ。たかが、オセロなんだし……。」

 たまたまあったオセロをやりだしたら、ことごとく田中さんが負け続けた。

「よ、よしこれで最後だ! これで、負けたら凛ちゃんのお願い1個叶えてやる!」

 の勝負も、結局田中さんが負けて……。

「あの、ほんとになんでもいいんですか?」

「いいよ。なんかほしいのでもあるの?」

 ベッドにふたり腰掛けて……。

 ほんとに、いいのかなぁ?

 もし、断られたら……。

「……して、下さい。」

「ん? なに? 聞こえなかった。」

「あの……キ、キス……してください。」

 ポカンとした顔で私を見る田中さん。

「え? なんで?」

 驚く田中さんに、私は笑って……。

「じょ、冗談……で……。」

 暫く無の時間が、ふたりの間に流れていった。

 軽く触れた唇……。

 背中に回った田中さんの手……。

 一瞬、唇が離れて、また触れた……。

 田中さんの舌……。

 そして……。

「秘密、ね?」

 頷く私に、田中さんは、何度もキスをしてくれた。

「ただいまー!」というお姉ちゃんの声で、田中さんが先に下へ降りて行き、あとから私も降りた。

「疲れたー。凛、今日のご飯なにー?」

「今日は、生姜焼きだよ。待ってて、焼くから。」

 生れて初めてのキス……。

 他の誰でもない、大好きな田中さんだった。

 まさか、本当にキスしてくれるとは思わなかったし……。

「んー、りんどうしたのー? 鼻歌なんかしちゃって。」

 お姉ちゃんは、田中さんに何故か肩を揉んで貰って、こちらもご機嫌で……。

 ジューッジューッと香ばしいお醤油の匂いにキッチンもリビングも包まれる。

「「「いただいます!」」」

 3人での夕飯。

 男の人がいる食卓って、賑やかだなとも思うし、ご飯の減り方も早い。

「すみません。また、おかわりを……。」

「あなた、よく入るのねー。もう4杯目よ?」

 お姉ちゃんすら、呆れる食いっぷり。

「もぉ、これでおしまい! ご飯なくなっちゃうよ!」

「わかったって。後で、なんか手伝うから!」

 食後、田中さんは、お姉ちゃんと一緒に後片付けをして、私はその間に、お風呂に……。

 不思議な感じだった。

「さて、長く入ってるとのぼせちゃう。出なきゃ……。」

 気付かなかった……。

 まさか、そこに……。

「……。」

「あ……っ、ご、ごめんっ!!」

 田中さんが、何故か立っていた。

 バタンッと大きな音を立てて、再び浴室へ……。

「……。」

 見られた!どうしよう!

 私の身体……。

「ご、ごめん。その……そろそろ帰るから……。」

「わ、わかったから……。」

 それを伝えにきたのか。にしても、間が悪かった。

 パジャマに着替え、リビングに出るとお姉ちゃんも居なかった。

「はぁっ……。っもぉっ!!」

 ソファに置いてあったクッションを乱暴に叩いても、浮かんで来るのは……。

「田中さん……。」

 どうして、お姉ちゃんの彼氏なんかを好きになっちゃったのかな?

 やめよう、やめようと思っても、会うたびに好きになっていって……。

 私が、好きって言ったら困るだろうし。自分の事が原因で、お姉ちゃんに悲しい思いをさせたくないし。

「はぁっ……。」

 その日、お姉ちゃんは田中さんを送っていったのに、帰ってこなかった。


「お泊まりするなら、言ってよね! 心配したんだから!」

「はいはい。ごめんね。次からは、ちゃんと言うから! ごめんっ!」

 あんな事件?があったのに、田中さんからは、普通にPAINがきた。

 全国模試の日、私は田中さんの車で送って貰った。

「頑張って!」

「うん……。」

 結果?想像してもわからない。

 全国で3000人以上の生徒が受けて、全体のランクなんて下の方だし、県や市のランクで見ると、500の中には入ってはいた。

「ま、いいんじゃん? そう落ち込むなって!」

 田中さんの笑顔が……。

 眩しい……。

 優愛は、市で10位だった。ある意味、羨ましい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女の子がいろいろされる話

ききょきょん
恋愛
女の子がいじめらたり、いじられたり色々される話です。 私の気分であげるので、性癖とか方向性はぐちゃぐちゃです、よろしくお願いします。 思いついたら載せてくゆるいやつです。。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

【R18】カッコウは夜、羽ばたく 〜従姉と従弟の托卵秘事〜

船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンには※印がついています】 お急ぎの方や濃厚なエロシーンが見たい方はタイトルに「※」がついている話をどうぞ。読者の皆様のお気に入りのお楽しみシーンを見つけてくださいね。 表紙、挿絵はAIイラストをベースに私が加工しています。著作権は私に帰属します。 【ストーリー】 見覚えのあるレインコート。鎌ヶ谷翔太の胸が高鳴る。 会社を半休で抜け出した平日午後。雨がそぼ降る駅で待ち合わせたのは、従姉の人妻、藤沢あかねだった。 手をつないで歩きだす二人には、翔太は恋人と、あかねは夫との、それぞれ愛の暮らしと違う『もう一つの愛の暮らし』がある。 親族同士の結ばれないが離れがたい、二人だけのひそやかな関係。そして、会うたびにさらけだす『むき出しの欲望』は、お互いをますます離れがたくする。 いつまで二人だけの関係を続けられるか、という不安と、従姉への抑えきれない愛情を抱えながら、翔太はあかねを抱き寄せる…… 托卵人妻と従弟の青年の、抜け出すことができない愛の関係を描いた物語。 ◆登場人物 ・ 鎌ヶ谷翔太(26) パルサーソリューションズ勤務の営業マン ・ 藤沢あかね(29) 三和ケミカル勤務の経営企画員 ・ 八幡栞  (28) パルサーソリューションズ勤務の業務管理部員。翔太の彼女 ・ 藤沢茂  (34) シャインメディカル医療機器勤務の経理マン。あかねの夫。

【R-18】残業後の上司が甘すぎて困る

熊野
恋愛
マイペースでつかみどころのない上司とその部下の話。【R18】

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

快楽のエチュード〜父娘〜

狭山雪菜
恋愛
眞下未映子は、実家で暮らす社会人だ。週に一度、ストレスがピークになると、夜中にヘッドフォンをつけて、AV鑑賞をしていたが、ある時誰かに見られているのに気がついてしまい…… 父娘の禁断の関係を描いてますので、苦手な方はご注意ください。 月に一度の更新頻度です。基本的にはエッチしかしてないです。 こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。

【女性向けR18】性なる教師と溺れる

タチバナ
恋愛
教師が性に溺れる物語。 恋愛要素やエロに至るまでの話多めの女性向け官能小説です。 教師がやらしいことをしても罪に問われづらい世界線の話です。 オムニバス形式になると思います。 全て未発表作品です。 エロのお供になりますと幸いです。 しばらく学校に出入りしていないので学校の設定はでたらめです。 完全架空の学校と先生をどうぞ温かく見守りくださいませ。 完全に趣味&自己満小説です。←重要です。

人妻の日常

Rollman
恋愛
人妻の日常は危険がいっぱい

処理中です...