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 さようなら、冬休み。

 会いたくなかったよ、新学期。

 それでも、友達に会うとホッとする。

「ん? 凛、この冬休みにデブッた?」

「……いや?」

「太ったよ、特にここーっ!」

 きゃぁぁぁぁっ!なんて、悲鳴をあげても、どこも似たような事をやる女子。一方、男子は、頭をくっつけて課題をやってるのが数人。大半は、喋ってるか、寝てる。

 ほんの3週間余りの冬休みだったけど、私にとっては、ドキドキした冬休みでもあった。

 田中さんとも普通に会ってるし、勉強も教えて貰っている。

「ね、そういやさ。職員室で先生が話してたんだけど……。」

 鞄から、出された課題を机にしまいながら、優愛の話を聞いた。

「へ? 新しい先生って、男?!」

 里美が身を乗り出して、こちらの輪の中に入る。羨ましい位に可愛くて、彼氏が途切れた話を聞かない。別れるのも早いけど……。

「ざーんねんでした! 里美の嫌いなタイプの女性よ。」

 優愛も和美もクスクス笑って、里美を見返す。

「女の先生かぁ。優しいといいよね。もうすぐ3年だし……。」

 予令のチャイムが鳴って、それぞれ席に着く。この学校は、何年か前には体育館で始業式や入学式を行っていたが、何人かの女生徒が貧血で倒れてからは、教室で執り行うようになった。

 校長先生の話は、座っていても眠気を感じるような話し方だし、教頭先生は髪の毛が増えた?!ひとりひとり教師の挨拶、用務員さんが出た時は、クラス中が騒ぎ出した。

「はい、おはようございます。」

「「おはようございます。」」

「今日から、新学期ですが……。」と担任の先生の話が始まるも、誰も先生の話なんて耳に入ってるのかどうかな位、皆担任の隣に立っている女の先生に目がいった。

 教師なのに、なにあのスーツ!色は、地味目な紺なのに、はちきれないばかりの胸に!ミニスカートからスラリと伸びた脚!

「きれいー」

「美人じゃね?」

「モテそう」

「なるほど……。」

 男子や女子から、ため息に混ざった言葉がチラホラ。

 私だって、大人になったら……。

 大人に……。

 好きな人だって……。

 田中さんが……。

「……ですので、宜しくお願いします!」

 ボォッとしてる間に、新しい先生の自己紹介が終わったらしい。

「ね、あの先生の名前なに?!」

 隣でこちらもボォッとしていた夏目くんに聞くと、

「海音先生。渡瀬海音……。」

 変わった名前だけど、忘れないように手帳にメモメモ。


 課題を順番に担任に渡し終わったら、今度は、渡瀬先生へ自己紹介。

「早坂凛、17歳です。今は、姉と暮らしてます。趣味は、映画を観たり、カフェでお茶することです……。」

「そ、ありがと。あなたが……ね。」

 なんとなく冷たい返しだった。男子は、真っ赤な顔で緊張しながらも自己紹介してたけど、一部の女子からの視線が……。

「ま、一種の対抗意識じゃないの?」

「あのスタイルに美人だからねぇ。」

「小林なんて、ジーッと見てたもん。奥さんいるのに!」

 小林というのは、うちらの担任の教師。去年結婚したばっかで、もうパパになる。

 大掃除は、生徒が中心になってやるけど……。

 渡瀬先生の周りには、数人の男子生徒が……。

「あ、凛ー。四つ葉学院の全国模試どうする? 受けるなら、パパに頼むけど?」

 2組にいる私の幼馴染の藤堂志摩。お父さんが、四つ葉の学院長をしている。

「優愛らは、どうする?」

 優愛も里美もその塾に通っているけど、まだ申し込んではいないらしく、4人分志摩に頼んでおいた。

 高校生に5000円はちょっときついけど、私にはまだお年玉がある!

 大掃除を終えて、机を並べ終わると、渡瀬先生目当てに数人の男子生徒が、我先にと飲み物を渡す。

「なんなの? あれ……。」

「ははっ……。」

 里美が、キッとする顔をしたのも無理はない。最近、付き合い出した彼氏の農くんが、そこにいるのだから。

「あいつ……。許せん!」

 私には、彼氏どころか、好きな人すらいないから、そういうのはわからないけど……。

 里美と農くん、別れなきゃいいな!

 もし、仮に田中さんが、私の彼氏だったら……。

 でも、今日は、その田中さんに会える日。お姉ちゃんには、内緒で……。

〘吉兆駅前、12時に待ってるから。学校終わったら、そのままおいで〙と今朝入ったPAIN。お姉ちゃんは、溜息をついて、仕事に。

「じゃ、またねぇ。ばいばーい!」

 冬休みの課題を出したのに、また課題を渡された……。

 小林ちゃん、鬼だ!


 ぶーたれた顔で大好きな田中さんに会う訳にもいかないから、途中のコンビニでお手洗いを借りた。

「あと少し……。」

 時間が、ちょっとずつ近づく度に、胸がドキドキして、落ち着かない。

「凛ちゃん!」

 少し離れた先から、田中さんの姿が。私は、とても嬉しくて笑顔になった。

「会えた。田中さんに会えた。」

「そう? こんなおじさんだよ?」

 田中さんは、首にしてたマフラーを私に掛けてくれて、手を繋いで駅から出る。

「週に何回も会ってるけど、凛ちゃんは、いつも可愛いね……。」

「そんなことは……。でも、そう言われると嬉しいです。」

 手を繋ぎながら、街をブラブラする。

「これ、可愛い。」

 桜の花を後ろから抱きついてるうさぎのストラップ。

「うさぎ、か。そういや、凛ちゃんって、うさぎ年だっけ? 買う?」

 ってことで、買って貰いました。

「そんな喜ばれると、なんか申し訳ないね。」

 田中さんは、申し訳なさそうに言ったけど、私には、嬉しかった。

 街も駅ビルの中も来月あるバレンタインデーのポスターなんかを貼っていた。

「ここ、入る? 珈琲飲めたよね?」

 島田珈琲店。スタバより、ちょっとお高いけど、味は★5なんだ。

 奥まった席でオリジナル珈琲とケーキのセットを頼んだ。

 店内は静かで、店長さんの趣味なのか?渋めの洋楽が流れてて、凄く落ち着いた。

 珈琲もケーキも美味しかった!

「そうだ。凛ちゃんの学校ってさ、暁だよね?」

「うん。そうだよ? なんで?」

「じゃ、さ、今日そこに海音。いや、渡瀬海音って女の先生こなかった?」

 っ!?

「来たけど。なんで?」

 聞けば、渡瀬先生と田中さんは、同じ大学で同じサークルだったらしい。先輩、後輩の間柄らしいけど。

「そうなん……だ。」

 なんだろう?このモヤモヤは……。

「ま、あの海音……っ?」

「こんにちは! えっと、凛さんだっけ?」

「……。」

 嘘!なんで、この人がここに?

「啓吾先輩。お久し振りですね。」

「お、おう。ひ、久し振りだな、海音……。」

「ここ、いい?」

 返事も聞かず、渡瀬先生は、田中さんの隣に腰掛けて、店員を呼んだ。

「もぉ、先輩ひどいー。こっちに来てるなら、声を掛けてくれてもいいのにー。」

 お姉ちゃんとは違う甘えた声?周りのお友達とも違う。

「いや、れ、連絡しようとはしたけど……。な?」

 田中さん、なんかたじろいでて……。

「そしたら、海音、すぐ来たのに。」

「田中……さ……。」

「それよりもー……」

 っ!?今、睨まれた?

 私が、田中さんに何か言おうとすれば、渡瀬先生が口を挟むし!

 田中さんは、お姉ちゃんという婚約者がいるのに!

「先輩、スマホ貸して!」

 テーブルにあった田中さんのスマホを渡瀬先生が……。

「はい。これで私と連絡つくから、連絡してね? 絶対よ? じゃね!」

「……。」

「う、うん。連絡……するから。」

 田中さん、おでこに凄い汗。

 渡瀬先生は、完全に私を無視して、ツカツカとお店を出ていった。

「あ、先生。お金払ってない!」

「いいよ、それくらい。大した金額じゃないから……うん。」

 なんだろう?渡瀬先生がきてから、田中さんの様子が……。

「田中さん?」

「なに?」

「先生となんかあったの?」

「え? い、いや、なんともないよ? ど、どうして?」

「ううん。なんか気になったから。次、どこ連れてってくれるの?」

 ま、誰にだって過去はあるからね。私はないけど!

「行きたいとこある?」

「ゲーセン! プリ撮ろっか!」

 ここなら、ちょっとだけ身体を密着しても許されるもの。

 抱きついたり、ほっぺたくっつけたり、腕を組んでも……。

「卯月ともよぬプリクラ撮るけど……。」

 田中さんが、引くのも無理はない!

「全機種、総撮りーっ!!」
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