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 田中さんが、家庭教師をするようになって、私の成績は結構良くなった。

「どうした? うっちゃん、ご機嫌だね」

 こうして、田中さんが家庭教師以外の日でも家にいる日もあったり、で……。

「今日、三者面談あったから。それで、お姉ちゃん先生に大学合格間違いなし! って、言われたんだよね?」

「そうなのよぉ! だから、嬉しくて嬉しくて……。」

「でも、褒められたのは、凛ちゃんだろ?」

 リビングのソファに座る田中さん。その横にお姉ちゃんがいて、田中さんの身体にお姉ちゃんが触れると、ちょっと胸が痛い。

「小林先生、お姉ちゃんの担任でもあったからね。」

「僕も褒められたいなぁ。うっちゃん、に……。」

 いきなりそう言われたお姉ちゃんは、笑って田中さんの頭をヨシヨシした。

 いいな、お姉ちゃん……。

「あ、そうだ! 凛、あなた、この映画行きたかったわよね? 昨日、課長から試写会のチケット貰ったんだけどぉ……。」

 お姉ちゃんは、立ち上がるとリビングボードに置いてあった手帳を持ち、2枚のチケットを私にくれた。

「あっ! ブラッディ·スピリットだ。」

 放映されるのは、冬休みになってから。

「あぁ、あれか。うっちゃんが、観たがってたやつ?」

 チケットを手にした私の隣で、覗き込むようにする田中さん。

 近い……。いい匂い……。

「試写会の日、私日帰りで出張行くのよね。凛、啓吾くんといく? あなた、その日休みでしょ?」

 お姉ちゃん、彼氏でも、容赦ない。

「休みだけど、俺でいいの? 凛ちゃん……。」

 あなたでいいのです!

 田中啓吾さんでっ!!

「た、だ、し! わかってるわよね? 凛?」

 お姉ちゃんは、笑って壁に張られた年末スケジュールを指差す。

「うん。わかった。ちゃんとトータル500点取るから! 頑張るから! お願い、行かせて!」

 試写会の前週に、5教科のテストがある。これが考査なら、試写会どころではない。

「おわっ! クリスマスもテストかぁ。まだ、2年だろ?」

 高校2年にもなると、夏休み明けてから地獄のスケジュールになる。

「だからね! クリスマスプレゼント宜しく!」

 もともと、お姉ちゃんから聞いていたのか、二つ返事でその日は、田中さんとお出かけすることになった。

 夢じゃないよね?ほんとだよね?

 試写会デート、楽しみだ。

 夜になって、田中さんとお姉ちゃんのデートのお見送り。

 その途中なのかな?

 田中さんから、PAINが届いた。

〘土曜日、よろしくね〙と。ちゃんとお返事も返した。

 今頃、お姉ちゃんと何してるのかな?今月は、クリスマスもあるから、イルミネーションでも見てるのかも知れないけど……。


「今年は、やけに派手だな。」

「来年、オリンピックがあるせいかな? あと、何年啓吾くんとここに来られるかな?」

 付き合って、もうすぐ2年。
 
 凛が、大学に合格したら、彼と結婚する事が決まってる。まだ、凛には話してないけど。

「そうだな。今はまだふたりだけど、あと何年かしたら3人になるかもだし。」

「うん。好きよ、啓吾……。」

「愛してる……。卯月?」

「うん?」

 彼が、こうして名前で呼ぶときは、決まって真面目な話をするとき。

「ちょっと、遅くなったけど、これ……。流石に、3ヶ月分は俺にはきついから……。左手、出して?」

 結婚の話が出て、半年。

 左手の薬指にはまった婚約指輪。私の誕生石のダイヤモンド。

「でも、俺があの家に住んでもいいの?」

「いいの。あの子ひとりにしたら、一瞬でゴミ屋敷にやるわ。」

「でも、最近は、前よりいいんだろ?」

 啓吾は、上にお兄さんがいる。結婚の報告はしてあるが……。

 大きなクリスマスツリーの周りは、カップルで賑わっていた。

「ね、写真撮ろっか?」

 啓吾とツーショットを何枚か撮った。あと数年経てば、これが3人になるかも知れない。

「どうした? 寒い?」

 こうやって、気遣ってくれるところも好き。

「大丈夫よ。あなたがいれば、寒いのも平気。」

 今年のクリスマスイブは、雪が降ると言っていた。

「そっか……。」

 キスも何度となくした。その度に、私は彼を好きなんだと感じる。

 腕を組んで、笑ったり、離したり。彼のアパートで、愛を育んで、何故かまた送ってもらったり……。

「じゃ、おやすみ。」

「うん。おやすみ。」

 どちらが先と言った訳でも無いが、離すのが辛くて何度もキスをした。

「じゃ、ほんとに、おやすみ。」

「えぇ。」

 ひとりアパートへと帰る啓吾は、何度も何度もこちらを振り向き、手を降る。

「ただいま……。」

「おかえり。外、相当寒かったんだね。耳、真っ赤だよ?」

 身体も冷え切って、お湯が身体にしみたけど、心は熱いままだった。

「あ、お姉ちゃん! 郵便! 誰か結婚するんだね!」

 私は、さっき届いた結婚式の招待状っぽい封筒をお姉ちゃんに渡し、またテレビを見ていた。

 あんなとこでキスするなんて……。

 帰りが遅いから、中から外を見たら、田中さんとお姉ちゃんがキスするのが見えて……。

 ドキドキした。

 ファーストキスは、初恋の味だか?レモンのあじがするとか聞いたけど、私はパパだったからなぁ。煙草の匂いしかしなかったけど。


「……。」

 明日だ。5教科の点数、惜しいことに498点だったけど、試写会デート?の許可は下りた。

 何を着ていこうかな?

 この間、お姉ちゃんと大掃除をして、部屋がだいぶスッキリした。

 クローゼットの中を探して、友達にデートの事は言わず、PAINで服を見てもらった。

「時間は、11時だから寝坊することはないけど……。」

 ピピッ……。

「あっ……。」

 田中さんから、試写会の前に軽くお茶する?の誘いがあって、行くことに。

〘クリスマスプレゼント、なにがいい?〙

〘まだ決めてない。なんでもいいんですか?〙

 友達とは違う。

 PAINのやり取りひとつに、かなりドキドキしてる。

 でも、田中さんは、お姉ちゃんの彼氏さんだから、好きになってはいけない。

 恋って難しい……。


 ガチャッ……。

「もぉっ! 何度言わせるの! お風呂!」

「は、はい……。」

 いきなり、ドアが開いたと思ったら、お姉ちゃんがほっぺたを膨らませて、クラー○博士像みたいに、ビシッと指差していた。
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