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「大丈夫だってば! 凛、大学にはちゃんと行きなさい。お金のことなら、ほらっ!」

 大好きなパパやママが、相次いで病気で亡くなって、半年。当時、高校2年生だった私は、進路の事で悩んでいた。

「毎日の生活だって、私がちゃんと仕事してるし。凛だって、アルバイトしてるから、お小遣い足りてるでしょ?」

 ふたりが眠ってる1階の和室で、私は、姉にお説教をされていた。

 座卓には、ズラッと並んだ大学のパンフレットと担任から渡された進路の用紙があった。

「わかってるけど。けど、そしたら、お姉ちゃん。結婚式挙げられないじゃん?」

 姉に好きな人がいるのは、なんとなくわかっていた。

「あのねぇ……。」

 姉は、溜息をついて、箪笥の引き出しから、こうして姉名義、私名義の預金通帳を見せてくれた。

 パパやママの保険金は、ともかくとして、毎月26日には5万円もの大金が私の通帳に入金されていた。

「ね? だから、凛は、安心して大学に行けるのよ。わかった?」

 大学。確かに行きたい大学は、あるけど……。

「うん。わかった。」

「だからね? 来週から、私の知り合いに頼んで、あなたに家庭教師してもらうから……。」

「え? 家庭教師? でも……。」

 そこまで、お金掛けなくても……と言いたかったけど、これ以上言ったら、怒られそうだからやめた。

「来週、ね。」

「だから、それまでにお部屋の掃除しときなさい! なんなの? あの部屋の散らかりようは!!」

「……。」

 パパもママも、今は遠い空の上にいる。お姉ちゃんは、そのふたりに代わって私を育ててくれている。

「わかった。ちゃんと、お掃除しておくよ」

 別に掃除が嫌いとかではない。ついつい、後回しにしてしまうのだ。

「私が、帰ってくるまでにきれいにしときなさいよ? わかった?」

「うん。わかったけど、お姉ちゃんこれから出掛けるの?」

 いつも家にいる時は、シャツにジーパンをよく着てるお姉ちゃんが、今日は、フワッしたワンピースにピアスにカラコンまで……。

「誰かと会うの?」と聞けば、急に真っ赤になって、

「いいでしょ?! そ、そんなの、り、凛には関係ないんだから! とにかく、ちゃんと部屋の掃除位しときなさい!」

 早口でまくしたてるように言うだけ言って、お姉ちゃんはバッグ片手に家を出ていった。

 大学……。行ったら、お姉ちゃん結婚式挙げられるのかな?

 前にお姉ちゃんの友達が来た時に仲良く見てたザクシィという結婚式に関する雑誌。

 お姉ちゃんは、それを見ながら顔を真っ赤にして、友達とキャーキャー騒いでたのを覚えてる。

 もしかしたら、その時に好きな人からそれらしい事を言われていたのかも知れない。

「はぁっ。しょうがない、やるか。お姉ちゃん、怒らすと怖いし……。」

 座卓に広がった大学のパンフレットを胸に抱えて、部屋の机に置く。その上にも、壁にもパパやママ、お姉ちゃんとかと撮った写真が飾られている。

「結婚かぁ。お姉ちゃんの好きな人って誰だろ?」

 料理も掃除も洗濯もほぼ姉にやってもらって、正直、料理が出来るのかすらも自信のない私。そんな私が、結婚なんてできるのか?

 この散らかった部屋を見て、そう思う。

「さ、掃除! 掃除!」

 一通り、誰が来ても大丈夫なように片付けた頃には、窓の外はもう暗かった。  

「来月は、クリスマスかぁ。3年になったら、受験だし……。」


「ほんとっ?! 妹さん、俺でいいって?」

「うん。強引に頷かせたわ。あの子だけよ? まだ、進路票出してなかったの」

 表通りが見えるレストラン。ここはよく、彼と訪れる場所。

「家庭教師、ね。懐かしい……。」

 珈琲を飲みながら、窓の景色を眺めると、クリスマスのイルミネーションを飾ってる風景が目に入る。

「あなた、大学時代にやってたんですってね?」

「うん。かなり成績の悪い子だったけど、それでも前向きな性格だったからね。やりやすかったよ……。」

 目を細め、当時の事を思い出したのか、彼はいつも以上に喋る。

「僕のお姫様は、今日は何時かな?」

 おどけた感じで聞くのも、いつものこと。

「7時、かな。」

 時間を聞くのは……。

「そろそろ、出る?」

「えぇ……。」

 私は、彼と腕を組んで、ある場所へと向かった。


「……。」

「こ、これは、その……。」

 たまには、女の子らしい事をしようとした私が悪かったのか?そもそも、料理の素質の問題か?

「何を作ったら、こうなるのかなぁ? り、ん、ちゃ、ん?」

 まな板や包丁、ピーラー等がキッチンに落ちている。

「肉じゃがを……作ろうとしたら、その……。」

「肉じゃが、ね。肉じゃがに油揚げ?」

 お姉ちゃんの冷たい視線を浴びつつ、二人で(主にお姉ちゃん)掃除してから……。

「あら? 意外と美味しいのね。油揚げが、お出しを含んで……。」

「でしょ?! たまには、いいでしょ?」

 まだ固い部分が残るじゃが芋や人参は、さておき、焦げた味の肉じゃがは、美味しかったと言うことで。

 味噌汁は、お姉ちゃんの味だなぁ。美味しいや。

「50点。肉じゃがなんて、小学校で習ったでしょうに……。」

 覚えてない……。

「お姉ちゃんは、ママに教えてもらったの?」

 テレビを見ながら、のんびりお茶を飲むも、お姉ちゃんは、スマホを見てニヤニヤしてる。

「お母さん、よく入院時してたからね。よく教えて貰ったけど、味は、自己流。そのうち、凛も出来るわ。」

 そうだろうか?

「お姉ちゃん?」

「んー? なぁにぃ?」

 スマホから目を離さず、声だけ返ってきた。

「なんでもない。お風呂入ってくるね。」

 逃げるように私は、お風呂場へと行き、溜息をついた。


 それから、数日が経ったある日の夕方……。

「……。」

「どうかした? 俺の顔になんかついてる?」

「やぁねぇ。なに、ジッと見てんの?」

 学校から帰ると、玄関に見知らぬ靴があった。

 お客さん?かと思ったら、どうやら私の家庭教師で……。

 なるほど……ね?

 お姉ちゃんの好きな人だと気付いた。

「彼は……。」

 お姉ちゃんが、言い終わる前に……。

「どうも、田中啓吾です。今日から、君の家庭教師をします。宜しくお願いします!」

「……はぁ。」

 家庭教師って、こんなに直立に立ったり、ビシッと90度近くに頭をさげるものなの?

「ちょっと、やぁだ! 啓くんも、そんな改まっちゃって。ほら、凛ー、挨拶は?」

「あ、ども。早坂凛です。宜しくお願いしましゅ。」

「「……。」」

 あ、やば。噛んだ。なんか、急に恥ずかしくなった私に対して、お姉ちゃんは、ケラケラと笑い、田中さんは、そんなお姉ちゃんを窘めていた。

 お姉ちゃんの彼氏さん。格好良い……。周りにはいないタイプかな。

 初日ってことで、この日は、勉強なしで3人でご飯を食べに行ったけど、私は、田中さんが気になって、何を食べ、どんな味だったのか、わからなかった。

「じゃ、おやすみ。うっちゃん、また明日な」

「うん。じゃぁね。啓くん、おやすみ。」

 うっちゃん?お姉ちゃんの名前が、卯月(うづき)だから?

「おやすみなさい……。」

 田中さんを見送って、家に入る間際、うっちゃん?と言ったら、顔を赤くして怒られた。


 田中さんは、月曜日、水曜日、金曜日の学校が、早く終わる日に来てくれる。

 頭がいいし、教え方もいいから、学校でのテストの点数が、ちょっと上がった。

「でしょ?」

「だって、私、この方程式なかなか理解できなかったもん。」

 家庭教師の時間は、3時間。その間に、お姉ちゃんが死後から帰ってきて、ご飯を作って、掃除とかして、田中さんと3人でご飯を食べたりする。

 田中さん……。

 お姉ちゃんの好きな人。

 二人は、私が大学に受かったら、結婚する約束をしてると聞いた。

 田中さんといると、ドキドキする。

 来るのが楽しみで、お掃除もするようになったし、お料理も手伝うようになった。

 田中さんが、帰るとなんとなく寂しい。

「恋、なのかな?」

「ん? なぁに、凛なんか言った?」

「言ってなぁい!」

 好きになるって、こんなにもドキドキしたり、苦しいのかな?
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