上 下
6 / 10

六話

しおりを挟む
 なのに!なのに!

「だーめーだ! アルバイトなんて、しなくてもいいだろ?」

「だって!!」

 高校生になって初めて知ったのは、アルバイトは、テストの点数(担任の評価)+保護者の同意が無ければ出来ないということ。

「だーめーだ! 俺には、瑠璃を守る義務がある」

「……。 そうだけど、みんなアルバイトしてんじゃん」

「みんな? 誰と誰と誰?」

 子供か!!

「ねぇ、お願い! 変なとこ行かないからー!」

 何度も何度もお願いし、やっとアルバイト探しをする事の許可が出来た。

 そう許可なのである。

「クックックッ……」

「ひど、何も笑わなくたっていいじゃん!」

「つか、お義兄さんだっけ? 過保護じゃね?」

 高校に入って直ぐに仲良くなったのは、可愛いもの好きの萌ちゃんとボーイッシュな高美ちゃんだった。

「みんな、アルバイトしてるのに……」

「ま、お義兄さんの気持ちもわかるけどさ。それにしても、アルバイトを探すだけの許可って……」

「だぁって、うちお姉ちゃん亡くなったし……」

 全ての手続きは、お義兄さんがやる。

 二人で住んでるから、家事とかは分担性だけど、朝のゴミ出しは何故かお義兄さん。

「じゃ、あれだね? いいとこが見つかったら、今度は、応募する許可も必要だし、無事採用されれば、本当の許可になる。長いな……」

「でも、なんでそんなに反対するのかなぁ? 萌には、わからない」

「アレじゃね? 瑠璃、可愛いから、あんま変なとこだと危ないからとかー?」

「萌、アルバイトしなくても、欲しいものはみーんなママが買ってくれるもん」

「まー、あんたの場合、過去が過去だったからね。そりゃ、アルバイトなんかさせたくないって!」

「だろうね。私、初めて萌見た時、フランス人形かと思ったもん」

「んな、大袈裟よー」

 確かに、それは嘘では無かったし、高美から過去の経緯を聞いてぞっとしたけど、納得したもの。

 木村萌。県内では有名なお菓子メーカーの家に生まれた。母親のお父さんが、フランス人でハーフではあるが、髪以外は母親似で、フランス人形を想像させる可愛さで、幼稚園の頃、誘拐されたと。

「まぁ、瑠璃ちゃん頑張んなさい!」

 応援されてるのか、されてないのか?

 それでも、日々懇願をし……。

「え? ほんと? ほんとに、アルバイトしていいの?」

 無事、お義兄さんからちゃんとした許可を貰った。

 っても、お義兄さんの会社の一階にあるカフェなんだけどね……。

 それは、私も隆義兄さんも知らなかった。面接した場所も違ってたからね。

「週に二日、計6時間か。これなら頑張れば……」

 お姉ちゃんが、亡くなってから、隆義兄さんかなり落ち込んでたし。笑う事も最近になって、多くなってきた。

 出来なかった、お義兄さんのお誕生日は、やってあげたかったし。

 だからこそ、アルバイト!

 言ったら余計に心配するから。


「じゃ、気をつけて行ってくるんだよ?」

「うん。わかったから! だから、手、離して!」

 隆義兄さんの会社、根本的に土日はお休みだけど、他の会社はやってる訳で、こうして毎週毎週送られてくる。

「きっと、手放したくないんじなない? 瑠璃ちゃん、可愛いし」

 同じバイト仲間で先輩の香奈さんが、そう言ってはからかってくる。

「ほら、そこ私語多い!」

 店長に言われ、ちょうどやってきたお客さんの案内に向かった私。

 手放すも何も……。

「畏まりました。暫くお待ち下さい」

 そう言って、カウンターにいる店長へ、オーダーを告げる。

 お義兄さんの事、好きだけど……。

 でも、亡くなったお姉ちゃんの旦那さんだし……。

 私なんて……。

「なかなか、慣れてきたね。瑠璃ちゃん」

「ありがとうございます」

 いつもは、小言しか耳にしない店長から、褒められた事が嬉しくて、その夜は、隆義兄さんと夜遅くまで深夜映画を観ていた。

「じゃ、おやすみなさい……」

「あ、あぁ。おやすみ。瑠璃……」

「ん?」

 眠くなって、部屋に行こうとしたら、呼び止められたのに、隆義兄さんなにも言わなくて……。

「なんでもない。おやすみ……」

 いつもの笑顔を私に向けてくれた。


 翌日の日曜日は、アルバイトもお休みで、お義兄さんとドライブをした。

「あ、次の道の駅で休憩するか。腹減っただろ?」

「空いた、空いた……」

 最近、なんか変だな、私……。隆義兄さんのこと考えると、前よりもドキドキしてきちゃう。

 車を降りてすぐに、お腹が鳴りそうな美味しそうな匂いがしてきた。

「五平餅? なに?」

 初めて聞く言葉だったけど、焼いてるのを見てたら……。

「二本下さい」

 お義兄さんが、買ってくれて、食べたら美味しかった!

「これ、お餅?」

「いや、ご飯だよ」

 焦げたご飯もお味噌も美味しかった。

 足湯というのも、初めて経験したし、そこからこれから行く湖がよく見渡せた。

「凄い広いんだね」

「一年中楽しめるよ。ここ、馬にも乗れるから。小さな牧場もあるし……」

 道の駅から車を走らせる事十分。戸沢湖に着いた。

「んぅっ! 気持ちいいねー!」

 これまでにも色々連れてって貰ったりしたけど、湖は初めてだった。

「ほら、あそこでヨットが……」

 指の指された方向には、帆を上げたヨットが二隻のんびり動いていた。

「すごい……ね」

 完全に振り向いてたら、私の顔が、お義兄さんの顔に!!

「ん? どうかした? あっち行ってみる?」

 入り口でパンフレットを貰って、二人で小さな牧場をのんびりと歩いた。

 兎を膝に乗せたり、ヤギや羊に触ったり、追いかけられたり、生まれて初めて馬に乗った。ポニーではなく、茶色の大きな馬!

「普段は、こいつ気が荒いんだけどなー」

 係の人がその馬を撫でながら言っていた。

「怖く無かった?」

「うん。目線が違うのが、面白かった」

「そう、少しあっちの方、歩こうか?」

 散策が出来るコースみたいなのがあって、私は隆義兄さんと並んで歩く。

「たまには、こうやって汗を流すのもいいかもね」

「そうですね。それに、空気もいいし……」

 少し小高いテラスみたいな所があって、そこで一休み。

「瑠花ちゃん?」

「はい」

「もし、俺が好きだって言ったら困る?」

 !!!

「好き? とは?」

「麻里のこともあって、散々落ち込んだ。無論、今だって麻里を愛してる」

「はい」

「けど、最近、やけに瑠璃。お前の事が頭から離れないんだ。今すぐ、返事をどうこうとは言わないけど……。」

「うん……」

 突然過ぎて、なにも言えなかった。

 もう亡くなったとは言え、隆義兄さんはお姉ちゃんの旦那さんだった人だし、これまでも、家族として過ごしてきた。

「隆さんは、お姉ちゃんのこと好きですか?」

「好きだ。忘れることは出来ない。勝手な思いだけど、瑠璃の事も好きなんだ。返事は、待つから……」

「はい……」

 隆義兄さんのことは、好きだけど。

 このドキドキは、なんだろう
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ご褒美

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
彼にいじわるして。 いつも口から出る言葉を待つ。 「お仕置きだね」 毎回、されるお仕置きにわくわくして。 悪戯をするのだけれど、今日は……。

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

処理中です...