AIアプリに射精管理される話

一日目

1-1

「こんなアプリ入れたっけ」
　休日の朝。布団のなか。
　寝ぼけ眼で開いたスマホに桃色ハートのアイコンが増えていた。
　覚えがない。が、中身をみないわけには判断がつかない、と陸人はアイコンをタップした。
『体験版のダウンロードありがとうございます！！』
「わっ！」
　急に喋りだした。驚いて音量を下げる。画面の中心で、男性キャラクターがほほえんでいる。濡れ羽色の髪に緑の目の男。ソシャゲキャラらしい風貌に、濃いピンクのハートが浮かぶ背景が不釣り合いだ。
『この度はマジカルアクメンをインストール頂き、誠にありがとうございます！　あなたの射精を徹底管理！　最高に気持ちいいアクメをご提供します！』
「は？」
　夢半ばだった意識が急激に覚めていく。
「うわやば、ウイルス？」
『ウイルスではございません！』
　返事した。
『はじめまして、リクト様。わたくし射精管理アプリマジカルアクメンの守護者アクメマックス・オガニムと申します』
「えっおれの名前なに、なんで」
『私のことは気軽にアオちゃんとお呼びください。では早速ですがご説明を』
「いやまじでなに！？　こんなんインストールした覚えねえよ！」
　スマホを手にしたまま上半身を起こす。アンインストール一択と指を伸ばすが、アプリ内にバツ印が見当たらない。どこをタップしてもアプリ外に出ることもできない。心臓が早鐘を鳴らす。いや怖。おれなんかした？まじでこんなもんインストールした？昨日一日を思いだす。普通に学校いって、部活して帰って、スマホ触ったのだって音楽聴いたのと、メッセージを交わしたぐらいだった。えっ、えっ、えっ？だらだらと冷や汗を流す陸人を前に、画面の中の男は『申し訳ございませんが、リクト様』とちっとも申し訳なさそうに続ける。
『体験版は無償でのご提供をお約束する代わりに弊サービスを一週間体験頂いた上で、アンケートにお答えされない限り終了できない仕様となっております』
「いや、だから、おれこんなアプリ知らないんだけど、見た覚えも、ましてインストールなんて」
『いいえ、リクト様は合意の上ダウンロードされておりますよ』
「してないって！」
『では早速体験版のご説明を行います！』
　聞けよ、と必死にＡＩに訴えるが無視された。
『弊サービスは射精管理による最高のアクメの提供を目的としたアプリです。射精禁止期間は三日～三十日の間で設定可能ですが、体験版は初心者でも効率よくより良いアクメを得られる七日間に設定されています。射精禁止期間中はデイリーミッションが課されており、それらをこなすことで最終日に最高のアクメへと到達することが可能となります。もしもお仕事・学業・体調などにより、その日のデイリーミッションをこなせなかった場合は、ミッションは繰り越され射精禁止期間も延長となります。デイリーミッションを三日間連続でこなせなかった場合、現状のサービスにご満足頂けていないと判断されオシオキモードに自動更新されますのでご注意ください。デイリーミッションやイベントミッションをこなすことで、マネマネと呼ばれるアプリ内通貨が付与されます。グッズガチャに使えたり、通常の設定では物足りない方向けのハードなオプションの購入、またわたくしアオちゃんのアバターやボイスを変更することもできますので、ぜひご活用ください！』
　なにも頭にはいってこない。陸人はただただどうしたらこれが消せるか考えていた。
『ではまず、射精管理の為のリングをプレゼントさせていただきます！　マジカルアクメン・リングアタッチ！』
「えっ、あ！？」
　ＡＩの指先からショッキングピンクのビームが発射され、同時に股間に違和感を覚えた。根元が締めつけられるような感覚。まさかと寝巻と下着を一緒にひっぱると、萎えた性器の根元にピンク色のリングがはめられていた。
「なにこれ！？」
『また初回ボーナス得点として、１００マネマネを差し上げます！』
「いつの間にこんなっ、えっ取れな、ぃ、いだっ！」
『むりやり取ろうとすると大事なペニスが傷ついてしまいますよ。体験版終了時に自動的に外れますのでご心配なく』
「いやいやいやいや」
『獲得したマネマネはどうされますか？　早速グッズガチャに使用されますか？』
「するかバカ！！！」
　スマホを枕に投げつける。その際うっかり指先が当たってしまったのか、画面から男が消えて宝箱が出現し、派手なエフェクトともにぐるぐると回り始めた。
「わーストップストップ！！」
『さあ何が出てくるでしょう！』
　ぴたりと止まった宝箱からたくさんのハートが飛び出し、その中から……
『おめでとうございます！　☆３、全自動オナホ及び温感ローションをプレゼントです！』
　陸人の頬がひきつる。このアプリ、なにからなにまでまじでばかじゃねえの、とおもったと同時、無からオナホとローションが生まれでてきた。