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第九章 戻れない後悔

ごめんな、葉月

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子供の父親は城之内じゃない、山辺でもない、他に俺以外いないじゃないか。

なぜそれを気づいてやれなかったのか。

葉月は決して淫乱なんかじゃない。

それなのに、他の男と関係を持って出来た子供だとなぜ思ってしまったんだ。

しかも、葉月が逃げたいと思ったDV野郎にされたことを、俺は葉月にしてしまった。

この時、急に頭痛に襲われ、冨樫は廊下に出た。

廊下の長椅子にうつ伏せになり、頭を抱えた。

色々な場面がフラッシュバックのように現れた。

冨樫は全ての記憶が蘇った。

そうだ、俺が葉月と生活を共にしたいと思い、避妊しなかった。

俺が望んだことなのに、自分からピリオドを打つなんて、俺はなんてことをしてしまったんだ。

しかも葉月の身体中のキスマークを初めて見た時、異常な性癖の持ち主だと思い、自分には

考えられないと思ったにも関わらず、俺は全く同じことをしてしまった。

葉月はベッドで毛布を被りながら、泣いていた。

冨樫は病院の廊下の長椅子で肩を落としていた。

葉月に謝っても許されることではない。

どうすれば許してもらえるのか。

冨樫は途方に暮れていた。



連絡を受けてヤスシが駆けつけた。

「若頭、葉月さんは大丈夫でしたか」

「子供が流産した、俺の責任だ」

「何があったんですか」

「俺が他の男の子供だと思い、嫉妬したんだ、それで、乱暴に葉月を抱いた」

「なんでそんなことを、葉月さんはDV野郎に酷い目に遭ってるんです、それなのに
同じことをしたんですか」

「ああ」

ヤスシは冨樫の胸ぐらを掴み涙ながらに訴えた。

「若頭、何で、何でですか、葉月さんが若頭以外の男に抱かれるわけないじゃないですか、
どうして、どうして信じてあげられなかったんですか、酷いですよ」

ヤスシは冨樫の足元に崩れ落ち、泣いていた。

冨樫は毎日、葉月の病室へ様子を見にきた。

しかし、葉月は冨樫に背を向けて、言葉かけても答えてはくれなかった。

退院の日、冨樫はどうしても外せない仕事で、ヤスシが葉月に付き添った。

「ありがとうございます、私なら大丈夫ですよ」

「でも、若頭がちゃんとマンションまで送り届けるようにって、俺が頼まれたんで送ります」

「私、マンションには戻りません、アパート借りますので、本当にもうここで大丈夫です」

「若頭の元に帰らないんですか」




「ちょっと怖くて、でも私がいけないんでしょうがないですよね、早く冨樫さんの子供だって伝えていればこんなことにはならなかったと思うんです、自業自得です」

葉月は涙を流して声を詰まらせながら、やっとの思いで言葉を発した。

「若頭に黙って出ていくことはだめだと思います、一度二人でちゃんと話し合ってから」

葉月はヤスシの言葉を遮った。

「もう、無理です、私は山辺から逃れられないし、幸せになんかなっちゃたらいけないんです」

葉月はもう、涙が止まらなかった。

ヤスシはこれ以上は引き止められないと、説得することをやめた。

「あのう、引っ越し先が決まるまで、手伝わせてください」

「ありがとうございます」

「それと引っ越し先は若頭に伝えます、いいですよね」

「はい、もちろんです」

葉月はマンションではなく、アパートに引っ越した。

今日から一人で生きていかなくちゃ。

冨樫は葉月が戻っていると信じて、マンションに急いだ。

「ただいま、葉月」

でも迎え入れてくれたのはヤスシだった。

「おかえりなさい、若頭」


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