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アルビオン皇太子

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静寂の中、口を開いたのはアルビオン。  


『エリザベス王女、申開きはあるか?』

ハビエルの腕の中から様子を伺うエリザベスに代わりミランダが


『違います!』


こちらはテオドールの腕の中でキャンキャンと吠えている。


『私はエリザベス王女に問うておる。ハビエルいい加減王女を離せ。誰も取って食おうとは思っておらん。』


呆れた視線を受けたハビエルはエリザベスを優しく手離した。エリザベスは真っ直ぐアルビオンを見据えると気品あるオーラを全開に口を開いた。


『このような騒ぎを起こしてしまい申し訳ございません。』


…。

…。


クラリスとテオドールは視線だけ交差させる。




『その事については後だ。妃殿下の話しに相違無いのか?』


『…。』


エリザベスは困った表情を少しだけ見せたが直ぐに視線を落とし


『妃殿下には誤解をさせてしまって申し訳なく存じます。』


再度頭を下げるエリザベスに見兼ねたハビエルは


『エリザベスは何度も頭を下げております。もうよろしいのでは?』


クラリスは兄弟のやり取りを凝視していた。兄であるアルビオンの資質を確かめるように。


『ハビエル、私はエリザベス王女に詫びろとは言っていない。私が問うておるのは妃殿下の話しに相違があるか否か。その問の答えが無いままでは前には進まぬ。』


ハビエルの援護射撃はもちろんミランダ。


『エリザベス様はお優しいので…妃殿下の前ではお話しし難いのでしょう。』


…いやいや一国の王女が子どものケンカじゃあるまいしな?

テオドールはまたも腕の中の駄犬を見た。


『いや、王族として公の場に居る以上、己の主張は必要だ。エリザベス王女が我が帝国の皇族となるのならば尚の事。どうだ?エリザベス王女。』
  

資質を問われたエリザベスは明らかに動揺を隠せずミランダを見た。

『エリザベス様は妃殿下の誤解を解く為にわざわざ妃殿下のところまで足を運ばれたのです。』

必死になるミランダを他所にアルビオンは尚もエリザベスに視線を送り返答を待っていた。

エリザベスはアイスブルーの瞳を泳がせてハビエルに援護を求めているようであった。その様子をクラリスは悲しそうに見つめていた。


かつて美しいアイスブルーの瞳にどれだけ憧れていた事か。寡黙なオーラと冷たい眼差し。王女の中の王女と憧れて止まなかったエリザベスは王女の仮面を被っただけの王女であった。それと同時にその上辺だけの王女に憧れて止まなかった己の未熟さも痛感しクラリスはそれ以上エリザベスに視線を留めておく事が憚れた。


クラリスの視線はエリザベスからテオドールに流されるとクラリスを見つめていた側近は力強く頷いた。


…よく頑張った。


何故か上からなのが否めないがテオドールは目の前の小さな主の側近である事を誇りに思った。






『おやおやまだやってるの?』


またも人集りがサッと左右に分かれると、ランズ王国の3人の王子がゆっくりと歩いてきた。


フリードリヒの問にアルビオンは疲れ果てたように

『やってるよ。簡単に片付くと思って手を挙げたのに面目無いな。』

 
驚いた一同は皇太子と王子らに視線を集中させている。


『あんなに大きな声を荒げていたら誰だって何事かと思うよ?急いで収拾に行こうと思ったら皇太子殿下が私を止めたんだよ。』


ヨハネスは嬉しそうにミランダに向かって微笑んだ。


『…』


返す言葉もないミランダは頭を巡らせている。


『君には何度も忠告したよね?君の王女への忠誠は見上げたもんだ。だけどね、それは自国でやってくれって。ここはね、いい?何度も言うけど我らのランズ王国だからね。』



…黙りこくるミランダ。


『ヨハネス殿下、それは違います。エリザベス様への忠誠ではなく、パナン王国への忠誠。その想いが強すぎる故、エリザベス様の気持ちが追いつかいのです。エリザベス様はこの者の期待に応えるべく王女の仮面を付け続けておられるのでしょう。同じ王女として少しは分かるのです。もう終わりにしましょう。』

クラリスは悲しそうに語るとミランダは憤りをみせ

『何を知った風に!エリザベス様の事は私が一番理解しておりますわ!』


『静まれ!』


初めて声を荒げたアルビオンはエリザベスを抱き込むハビエルに視線を向けると


『ハビエル、お前の婚儀はお前の意思だけでは進まぬ。何故ならその相手は皇族となる身。分かるな?エリザベス王女にその資質があるか否かは置いておいても、この侍従は我が国へ迎える事は出来ん。よいな?』


皇太子の命にハビエルは黙って礼を取った。












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