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人として

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『どうした?何の騒ぎだ?』


人集りの向こうから帝国皇太子アルビオンがこちらに向かってくるとその人集りはサッと左右に分かれアルビオンがそのオーラを纏って現れた。


クラリスらは皆カーテシーで迎えるも拘束されている女は皇太子に訴えるように声をあげた。


『殿下!お助け下さい。』

先程までの勢いは何処へやらアルビオンを見る目には涙を浮べている。

アルビオンは先ず、エリザベスへ視線を流すと美しいアイスブルーの瞳を泳がせ困惑している。凛と背ずじを伸ばした美しい姿から微かに震えるエリザベスは誰もが手を貸さざるを得ない程に儚く映る。


慌てて駆けつけた白馬の王子様は帝国第3皇子ハビエルであった。


『どうされました?兄上。』

エリザベスを庇うように肩を抱くと己の胸にしまい込みアルビオンを見た。


『いや、私も今来たところだから何があったのかを確認しているまでだ。』

ハビエルは慣れ親しんだであろうその女に視線を向けると女は息を吹き返したように饒舌に語りだした。エリザベス側に都合良く話す女の内容にハビエルは話しの途中から怒りを顕にし顔を真っ赤にしている。


…落ち着くのよ。


クラリスの身体は覚えている。窮地の時こそ冷静に。慌てる事なかれ。王女として如何なる時も慌てふためく事はその資質を問われるものとなる事を。

ハビエルは怒りもそのままテオドールに

『真か?』


鋭い視線を浴びたテオドールは最上級の礼を取りゆっくりと視線を上げた。


『この者を捕らえた経緯は概ねその通りでございます。』


端的に事実だけを述べるテオドールに女は


『離しなさい!』


テオドールの片腕はしっかりと女をホールドしている。クラリスはゆっくりとテオドールと女の前に立ち


『この者は私の命により捕えたまでの事。問題がございましたらどうぞ私にお願いいたします。』


ハビエルは怪訝そうにクラリスを見ると


『問題しかないではないか?何故エリザベスの好意を無下にする?エリザベスが心を痛めておるのがわからぬか?』


『殿下、恐れながら私が命を出したはパナン王国の侍従。エリザベス様ではございません。今、問われているのはそこでしたよね?』


『ミランダはエリザベスを守っただけであろう?』



…この女、ミランダというのか。

テオドールは今更ながらミランダを見た。



『素晴らしい忠誠には頭が下がりますがだからと言って他国の王族への無礼は許されませんわ。私への個人的な無礼はこれまでも咎めた事はございません。ですが今宵はこの公の場。私への暴言は我が国への暴言と捉える者も多くございましょう。この者は一線を越えたという事です。』


黙りこくるハビエルにミランダは


『あまりにエリザベス様を無下になさるのでつい…』


今度はまた涙を溜めてハビエルを見た。


埒のあかないやり取りにアルビオンは

『そもそも事の発端は?どうしてこうなるのだ?ここは夜会の場であるぞ?』


『妃殿下がエリザベス様の好意を無下にして無礼を働きましたので、私も少し言い過ぎた旨は認めます。申し訳ありません。』


一見己の非を認めたようで、これは墓穴である。

『何の無礼だ?』


ハビエルがミランダに問うと女はアルビオンを見て得意気に答えた。


『皇后様の椅子を狙っているのか?と。』


流石に驚いたアルビオンとハビエルは目を見開きクラリスを射止めた。クラリスはそれを真正面から受け止め



『恐れながら話しには前後がございますわ。その詳細をお話ししてもよろしいのですか?』


クラリスはエリザベスに視線を流した。ハビエルもまた不思議そうにエリザベスを見つめるとアルビオンが


『よい、申してみよ。』




『エリザベス様が我が国第1王子の妃であった事はご存知かと存じます。』


『聞いている。』

アルビオンは頷きハビエルは憤る。

『それのどこが問題なのだ!』



『こちらで申し上げるのも憚れる内容ですがご命令とあらば仕方ございません。私は王太子妃としてご一緒させて頂きました僅かな時間ではありすが堕胎薬を盛られその実行犯がスラムの人間でございました。その者と繋がっていたのがエリザベス様。』


『違うわ!』


ミランダが声を荒げるもクラリスは静かに語る。


『どう解釈されたかは存じませんがこの件はパナン王太子も召喚されお認めになられた事。その詳細が明らかになるうちにパナン王国は第1王子妃を踏み台に王太子妃を目論んでいたと決着し、その処分は我が国王妃よりパナン王太子に一任されました。』



『その件は既に終わった事。現に堕胎薬と言われますが妃殿下は王子をお産みになられたではありませんか!エリザベス様はそれを乗り越え今があるのです。』


…乗り越えてってお前ね。


テオドールは隣でキャンキャン騒ぐミランダを怪訝そうに見た。


『終わった事…。そう、エリザベス様がこちらにいらっしゃるということはすでに罰を受けられたのだと思いますのでそちらについては構いません。』


『な、ならば!』


衝撃の事実を前にそれ以上の言葉が出ないハビエルは複雑そうにクラリスを見た。


『私がエリザベス様と親しくなれないと申し上げましたのは、今の今までエリザベス様はアルフレッド様に詫びの一つもありませんわ。国同士の事は置いておいて、個人としてエリザベス様はアルフレッド様に何も思われていないのでしょうか?政略結婚としてその使命を果たすべき者がその相手が自分ではない者との結婚を目論んでいたなどとあまりに非道。王族として生まれてこられたならばその非道はエリザベス様にもお分かりになるはずです。』


クラリスは心の底から訴えた。


…。


…。



クラリスの言葉に会場は静まり返り、無情にも雅楽団の美しい音楽だけが鳴り響いていた。







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