愛を知らない２人はお似合いでした【完】

アンドラ・オルコット

アンドラ・オルコット。
彼は己の定めをよく理解出来ている男である。


オルコット家は歴史ある家門であり代々嫡男が家を継ぎ現在に至る。アンドラは生まれた頃より何不自由無く育てられたものの、兄との歴然たる差は幼心ながら理解していたものである。

それに対してこれといった不満もなく現に兄はよく出来た男であり、オルコット家の存続は危ぶまれる心配はない。アンドラは兄と対比されても勝るものなど皆無である。


次男坊ということで、与えられる領地もない。一般的には騎士になったり文官として王宮に仕えたりする。

アンドラもその道を辿るべく王宮に文官として仕えていたのかだが、ある時から何故か第３王子に仕えるようになっていた。


その経緯はアンドラ自身もよくわからない。わからないまま月日が流れに身を任せていたら、またよくわからないうちに爵位など…


アンドラは混乱する頭を振りながら執務室へ戻ると、先程までクラリスと２人だった執務室が主が戻ってきたのか日常の賑やかな雰囲気であった。


アンドラはその様子を横目にデスクに戻り頭を整理しているとテオドールが両手にカップを持ってアンドラのデスクの隣に腰をおろした。

片方をアンドラに手渡すと


『お留守番はどうしたよ？お前のピンチヒッターで執務会議に出てたんだから、じゃじゃ馬のお守りのピンチヒッターはお前だろ？』


テオドールは何やら図面を開くクラリスの方へ顎を向けた。



『何です？』


アンドラは不思議そうにクラリスに視線を流すとテオドールは


『まだ見ぬ王子か王女の部屋割りとお守りの内容だとよ。』


『ご懐妊ですか？』

アンドラはパァと破顔させるもテオドールは怪訝そうにアンドラを見る。


『あのな、それならば私もこんな所にお前にお茶まで運んで愚痴らないよ。』


…。

黙りこくるアンドラに尚も

『言ったろ？まだ見ぬって。そもそもお前もまだまだだな。そろそろ分かれよ？じゃじゃ馬の操縦術を。』


…じゃじゃ馬って（笑）


アンドラは苦笑しながらまるで明日にも生まれてくるかのようにまだ見ぬ我が子の育児担当を割り振っていた。


『まぁ、我々は家族だからな、協力は惜しまない。惜しまないが、ここは執務室だろ？』


アンドラは不思議そうに


『侍従は？置かれないのですか？』


『なわけあるか！王太子のお子だぞ？侍従はゾロリと付くだろうよ。』


『え？ならば…』


『侍従らは仕事だろ？我々は家族だからな。』


…？


『テオドール殿も大変になりますね（笑）』


テオドールはアンドラを不思議そうにみると


『お前、えらく他人事だけどお前もだからな？』



『え？』



『え？じゃないだろ。』


テオドールは気にする事無くお茶をすすっているがアンドラは本日２度目となる時間が止まる現象に陥った。


…。



アンドラは少なくともこの中の誰よりも身分が低い。そしてここに居る事自体が、自身も理解出来ていないのが本音である。


にも関わらず先程のフリードリヒ、そして目の前のテオドールはいとも簡単にその垣根を越えてアンドラを受け入れている。もちろんそれはクラリス他ここに居る全員がそうだ。



アンドラは目の前に広がる、ランズ王国の日常を目をうるませながら呆然と見つめていた。