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謁見の間

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朝から分刻みのスケジュールにより、クラリスとフリードリヒは謁見の間で缶詰となっていた。


形式だけの各国との会談。クラリスは昨日の今日という事もあり後ろで控えるテオドールの視線を跳ね返すかのように、美しい笑みで他国の王族を迎えると冒頭の挨拶をし、目の前に出されるカップを手に取りこれまた美しい所作で隣のフリードリヒを見守る。


次々と入れ代わり立ち代わる他国を迎える度にカップが戻されまた新たに運ばれる。これを延々と繰り返す中、次の王太子の到着を告げる声がかかる。


『リントン王国王太子殿下のご到着です。』



開かれる扉から柔らかいスマイルで入ってくるのはクラリスの兄であるミハエルである。久方ながら完璧な身のこなしにクラリスは思い出すかのように苦笑いを浮かべる。


…この腹黒王子が。




『ご無沙汰しております。義兄上。』


先に声を掛けたのはフリードリヒ。ミハエルは完璧なスマイルを浮かべながら


『お待たせしてもう少し訳無い。』


それだけ言うとクラリスにチラリと視線を送る。


『お元気そうで何よりですわ』


クラリスの挨拶にミハエルは一つ頷くと

『ありがとう。クラリスも元気そうで何よりだ。』


相変わらず無駄の無い動きで椅子に腰を下ろすと待ってましたの如く運ばれてくるティーセット。


…。



相手国に合わせたお茶とお菓子が並ぶテーブルに目を輝かせていたのは初めだけ。ここまでくると罰ゲームのようだ。


クラリスは懐かしいお菓子を眺めながらカップを手にした。


形式だけの会談とは言うもののミハエルは簡単に挨拶を済ませ談笑すると


『殿下も大変でしょう。我が国との時間で少しはお休み下さい』

と挨拶程度に出されたカップに口をつけると、立ち上がり踵を返して謁見の間を後にした。



…相変わらずせっかちね。どうせ部屋に戻って書類に囲まれて過ごすのよ。


クラリスは束の間の休息に背もたれにもたれてため息をついた。フリードリヒは空いた時間を確認すると


『テオ、頼んだよ。少し席を外す。』


それだけ言うとフィリップスと部屋を出て行った。


『疲れたぁ。』


伸びをするクラリスに


『誰が出される物を全て平らげろと言いましたか?』



…。

テオドールの存在をすっかり忘れていたクラリスは恐る恐る振り返ると呆れた様子でテオドールはクラリスを睨みつけている。



『リントン王太子はあれ程完璧なお方なのに同じ血が流れているとは驚きですね。』


大きなため息とともにテオドールが吐き出すと


『うふふ、貴方もまだまだね。完璧なんて見せかけだけよ?頭ん中リントンの事しかないんだから。』


鼻で笑うクラリス


『素晴らしいのでは?それでこそ次期王でしょう?』

『いやいや久方に会った妹よ?他に掛ける言葉はない?普通。』


クラリスは目の前のお菓子に手を伸ばすとそれをサッと持ち上げ


『これ以上召し上がると眠気に負けて本当に寝そうですから。』



…。


クラリスはテオドールを睨みつけ


『寝ないわよ!こんな公式の場で!』





相変わらずの2人が通常運転中に小走りでフリードリヒとフィリップスが戻ってくるとすぐさまガルフ王太子の到着が告げられたのである。



…ガルフ王太子。


昨日の今日で後ろのテオドールを見るとテオドールもまたクラリスを見て事もあろうか顎で


…前を見ろ!


側近の様子を見て恐る恐るガルフ王太子ミケルを笑顔で出迎えて見せた。


卒なく挨拶を終えるとまたも出されるティーセット。


…。



クラリスは目の前のティーセットに視線を落とし思案していると


『そういえば私にお話しがあるとか?なかなか忙しく時間が取れず申し訳ありません。出来たら今からお話し頂けたら助かるのですが。』


テオドールとフィリップスに緊張が走るもフリードリヒは小さく微笑みながら


『お忙しい中、申し訳ありません。妻より昨夜貴殿が我が国の王族エリアでお見かけしたと聞きましたので。』


カップを手に取り優雅にお茶を飲むフリードリヒにつられるようにミケルも目の前のカップを手に取りガルフ王国名産のハーブティーの香りを楽しむようにカップを揺らしながら

『あのゴシップ誌ですか?』


いきなりストレートにぶっ込んできた。


『いやいや私も伝え聞いてはおりますが実際見てはいないのですが…なんとも下らない内容なようで見る気も失せましたが…私としてはミケル殿がどうして王族エリアにいらしたかをお伺いしたまでですよ。』


…目の前に並べてお説教されましたけど。


クラリスはドキドキしながら目の前のショコラに手を伸ばした。



『王族エリアとは知らなかったもので申し訳ありません。でも大丈夫ですよ。もう一度入れと言われても覚えておりません。ってかもう手は打っておいでかな?』


『まぁ、そうですね。でもどうやって?たまたま入れるようなものではありませんけど?』


ミケルはニヤリと嫌な笑いを浮かべ


『私が故意に入ったとでも?』


『とんでもない!そんな事をガルフ王国がなさるわけありませんから。ならばどうやってと素朴な疑問です。』


フリードリヒは大袈裟に言うとミケルは一つ頷き



『迷ったのです。』



『迷った?』



『はい、そうしましたらどこぞのご令嬢が夜会への会場の近道だと入れてくれたのです。』


『ちなみに誰が?』


前のめり気味のフリードリヒをあざ笑うかのように


『流石の私も他国の令嬢までは把握しておりませんからねぇ。昨夜は月も雲に隠れて暗がりだったので、また会ったとしても分からないでしょうね。申し訳ない。』


眉を下げるミケルにそれ以上の言葉を発する事をしなかったフリードリヒは


『そうでしたか。それはこちらも申し訳無かったですね。』


ミケルは穏やかに微笑むと



『では。』


早々に切り上げるとクラリスに視線を流し微笑んだ。


…微笑んだ?え?何故に?ってか初めて見たわ。王子の笑顔。



混乱するクラリスへ混乱する視線を後ろから送るテオドール。


『最終日の夜会が楽しみですね、姫。』



…姫?


瞬きするクラリスを楽しそうに見つめミケルは謁見の間を後にした。



固まるクラリスに流石のフリードリヒまでもが


『楽しみだって』


クラリスは固まりながら


『楽しみみたいですね?』


そう返す他に言葉は見つから無かった。








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