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王太子妃の危機

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テオドールは前を歩くクラリスを怪訝そうに見つめていた。

…おかしい。

普段呑気なクラリスが何やら緊張している様に思われる。しかも辺りを警戒している。


テオドールはこう見えてランズ王国宰相の息子。それなりの力はある。故にそれだけの眼力もあれば鼻も効く。


とにかく今日のクラリスはおかしい。


一層の警戒をしテオドールはクラリスを追った。


テオドールの勘はこの後、見事命中する事になる。





スラム街に入り殺伐とした中真っ直ぐに歩くクラリス。その後ろ5メートルを付かず離れず位置取りするテオドール。2人が路地に入った所でその奇襲は仕掛けられた。


…またかよ。


緊張が走るテオドールが先ずは薬品で意識を手放す。振り返り驚いたクラリスもまたその後を追うことになったのだ。




クラリスが重い瞼を開けると目の前にはテオドール。いつもの光景ながらいつもとは異なる。王宮で目を覚ますクラリスに嫌味をぶっ込むテオドール。この絵ならば何度も目にした事であろう。しかし今回は違った。


クラリスが目を覚ますと真っ赤になり息づかいが激しいテオドールが苦しそうにもがいている。


すぐさま駆け寄ろうとするクラリスも身体が熱い。何とかテオドールの元へと四つん這いになりながら近づくと


『来るな!』


テオドールの厳しい声が響く。


『テオ!』


テオドールは苦しそうにクラリスを見ると


『じっとして耐えるしかない。これは恐らく媚薬…』


『媚薬?』


クラリスは驚いたように辺りを見渡すと己の身体も熱く火照っているのがわかる。脳が媚薬という単語を感知したからかクラリスの息づかいも次第に荒くなってきていた。


媚薬を盛られた男女が狭い鉄格子に囲われた空間に閉じ込められているのだ。ライオンの中に放たれた猫だ。クラリスは後退りしながらテオドールをみつめるもテオドールはどこまでもテオドール。



『俺にも選ぶ権利はある!』


それだけ言うとクラリスに背を向け自分の腕を噛みながらその欲望に耐えているようであった。


…テオ。






時間と共に媚薬の効力が効いてくるのがクラリスにもわかった。この時は既にテオドールに構って居られない程クラリスも苦しかった。



『どうだい?』 

ガチャリと重い扉が開いたかと思うと声の主ははカツンカツンと音を立て2人の前に姿を現した。



『…。』



無言で顔をしかめるテオドールに対してクラリスは苦しそうに吐き出した。


『やっぱりね…』


『やっぱり?そんな前から知ってたみたいに(笑)それならわざわざ来ないよね?スラムへは。まして貴女はスラムで襲われるは2回目だよ?最も前回はテオドールに阻まれたけどね?だから武力でいくのは賢明じゃないから、今回はコレ。なかなかでしょう?』



『…あんな脅しには屈しないわ。』


『で?この様?ってか苦しいだろ?この媚薬は南国から取り寄せたものだからかなり強力だろ?何せ常夏の国なんてやる事ないから性には開放的なんだ。どう?2人で開放的になってみたらいい。見ててあげるからさ。』



クラリスは身体から湧き出る熱に溶けるような感覚を覚えながら軽蔑の眼差しを送った。


その視線を嬉しそうに受け止めると


『ゾクゾクするね。私は王族だからさ、そんな目で見られた事がないんだ。

ほら、テオドール。辛いだろ?王女で性を吐き出せば楽になるよ?それにお前は王女の側近だろ?こんな辛い王女を今、楽にしてやれるのはお前だけなんだ。これこそ真の忠誠であろう!』


高笑いする男にテオドールは


『私はフリードの親友ですからね…』


『だから?んな事言ってる場合かい?ほら溶けちゃいそうな顔をしているよ?君がやらないなら私がやっちゃうけどいいの?』


テオドールは鉄格子の鍵を開けてクラリスに近づくのを見ると鉛のように重い身体を引きずりながら


『お止めください。殿下…。』

テオドールはヨハネスの足元にへばりつくとヨハネスはテオドールを蹴り飛ばしクラリスの元へ行き嬉しそうに見下ろした。


睨みつけるクラリスの視線を嬉しそうにみつめるヨハネス。視線を交えながらヨハネスの手はクラリスのドレスの裾から忍び入れられる。


ビクンと反応するクラリスをあざ笑うかのように見るとまたもテオドールがクラリスに覆いかぶさるように倒れ込んできた。


『ったく邪魔しないでくれるかな?お前は俺達の情事を眺めさせてやるから、それを見て自分で慰めろよ!』


テオドールを振り払うと



『殿下!』


部屋の外からヨハネスを呼ぶ声がした。ヨハネスは舌打ちをすると


『何?』


側近らしい男は戸惑いながらも


『アルフレッド殿下がいらっしゃいました!』


ヨハネスはため息を付くと


『間が悪いな、本当。いつもあの人は私がきちんと執務をしているかどうかこうやって別荘地までやって来るんた。ちょっと待ってて、すぐ追い返すから。』


ヨハネスは鉄格子を出るとしっかり施錠し出て行くと

『テオドール、媚薬はまだまだこれからだから、我慢出来なくなったらいいからね?私が許すよ(笑)』


そう言うと足早に階段を駆け上がる音だけが響いていた。


その頃になるとテオドールはまだしも、クラリスはとっくに声を発する事も出来なくなっていた。


…。


…ハァハァ

冷たい地下室に響き渡るのは2人の息づかいだけであった。


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