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リントン王国からの遣い

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その日リントンからの使者は突然の前触れも無しにランズ王国王宮にやって来た。


謁見の間で対応するクラリスにその遣いは声を小さく耳元で呟いた。テオドールは目を閉じて耳をすました。


『王女、リントンにお戻り下さい。理由は聞かずにお戻り下さい。』

真っ青の使者は辺りを警戒しながらクラリスに耳打ちをした。


…。


黙りこくるクラリスをテオドールはクラリスに気づかれない様に見つめていると。


『理由を話しなさい。』


使者は尚も


『王女。ご理解下さい。戻られれば分かります。お願いします。これは王命です。』


…王命?

流石のテオドールも息を飲んだ。



広がる沈黙にクラリスの声が響く。


『テオドール。』


テオドールはクラリスが席を外すよう命を出すと思い踵を返すと

『貴方、我が国でもトップクラスの剣術よね?』


…は?


呆気に取られるテオドールにクラリスは

『この者が、わざわざ足を運んできた私の言う事も聞かず、己の言う事を聞けというの。まぁこの者もリントンの使者だから王命となれば仕方なくなのだろうけど…だからチャチャっとやっちゃってくれない?そうしたら喋ってもこの者の責は軽くなるんじゃない?ねえ?』



リントン使者は真っ青になってテオドールを恐れ見る。


…おいおい。まぢか?


テオドールが足を踏み出すと


『王女!分かりました!分かりましたから!』


…は?何とも忠誠心の欠片もない奴だな。

足を止めたテオドールにクラリスはペロっと舌を出した。




『さぁ、話しなさい。時間はゆっくりあるわよ?他所の国に来て自分軸で話してはいけませんよ?ここはリントンではなくランズ王国よ。無事で帰りたいでしょう?』


クラリスの笑顔に使者はゆっくりと話し出した。


『王女、貴女はリントンが大切ではないのですか?』


クラリスは顔色1つ変えず


『大切よ。決まってるわ。私の祖国だもの。』


『ならば何故こんな事…』


使者は訴えるようにクラリスを見つめた。


『貴女がリントンに仕えるように、この男は今ランズ王国王太子妃である私に仕えているわ。もし貴方が仕える主が自分を、自分の国を売る姿を見たらどう?悲しくないかしら?』


使者はゆっくりとテオドールを見た。


…。


『主従関係であっても、そこに存在する人間関係はそれぞれよね?少なくとも私はこのテオドールにその悲しみを与えたくはないの。

貴方の事を思って言う通りにリントンに帰れば、この男はどうなるかしら?ランズ王国王太子妃側近がよ?みすみす逃げられたって汚名が付いて回るのよ?』

クラリスの真っ直ぐな視線を浴び使者は観念したかのように俯くと小さな声で話し出した。


『我が国の東側にある橋の使用権が無くなりそうで…』

『は?使用権って東側…ラダン王国が?』


使者はテオドールをチラリと確認し

『ラダン王国の後ろにはパナン王国が。パナン王国が我が国に使用させるなと…』


『何故?そんな事になれば1大事じゃない!あそこを通らなければ帝国に行くのも一苦労よ?』


『だからお帰り下さいと申しました』


『は?話が見えないわ。何故その使用権と私の帰還が関係あるのよ。』



…。



『パナン王国は王女がランズ王国王太子妃でなくなれば許可を出しても構わないと言ってるそうなのです。』


『いつからラダン王国はパナン王国の子分になったの?』


『何やら大きな借金があるそうで。それにそれだけではありません。パナン王国は我が国所有のリャンド金山の所有権を主張してきております。』


『は?あの金山は今も昔もリントン所有じゃないの!そんな言い掛かりに屈しているの?』


『いや屈してなどおりません。金山の所有は主張しておりますが橋の権はラダン王国とパナン王国の問題となりますので…』


クラリスはうんざりとしたようにテオドールに視線を投げると


『なるほど…』


考え込むテオドールに


『なるほどって何?』


『パナン王国はアルフレッド殿下ではなくフリードリヒ王太子殿下が狙いだと言う事です。』


…狙いって。


クラリスは視線を使者に送るとその使者も同じく頷いた。


…貴方も分ってたの?



クラリスはテオドールと使者との交互に見ると頭を抱えてため息をついた。



『とにかく余りこの方をここに留めて置くことは得策ではありません。取り敢えず妃殿下をお連れするのを失敗した事にするか、今回の事を正直に話されるか貴殿次第ですよ。』


テオドールは使者にそう告げると、部屋を出るよう促した。


使者はトボトボと帰路に付くその後ろ姿にテオドールは心の底から同情したのである。







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