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お茶会

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王妃主催のお茶会。日頃庭師が丹精込めて創り上げた最高傑作とも言われるそこに、令嬢らがそれに勝るとも劣らない程の色とりどりのドレスを身に纏い挑んでいる。 

令嬢らにとって王妃の存在は絶大。そんな王妃の隣を陣取るのはランズ王国第1王子妃であるエリザベス。エリザベスはクラリスが見た事もない笑顔を撒き散らしいた。


『お義母様、こちらのお菓子はパナン王国から今日の為に取り寄せましたの!』

あの、寡黙なイメージのエリザベスの変わり様にクラリスは素直に感心していた。

…確かに人には裏表があると言うものの…

それを目の当たりにしているのはクラリスだけでなく他の令嬢らも同じ事。もちろん家の行く末を考えて王妃とエリザベスのテーブルには多くの令嬢らが取り囲んでいる。その中にかつて螺旋階段事件のマリネットまで居るのではないか。恩を仇で返すとはこの事。

…デビュタントの夜会でバルコニーに居たテオドール狙いも居るわ!


クラリスは愉しげにその様子を眺めていると、王妃の隣を陣取るエリザベスの侍女の一人がクラリスに声を掛けてきたのだ。


『妃殿下、どうぞ妃殿下もあちらで我が国のお菓子をご賞味下さいませ。』


笑顔で話し掛けるも笑ってはいない瞳。クラリスは優雅に微笑むと


『ありがとう。でも我が国、ではありませんわ。先日ヨハネス殿下もおっしゃいましたが今やエリザベス様は我が国の第1王子妃になられたのです。ならば貴女もランズ王国の1員ですのよ?気を付けてね。』


侍女は顔を顰めると


『失礼いたしました。パナンからわざわざ本日の為に取り寄せた品、妃殿下にもご賞味頂きたいとエリザベス様からのご伝言です。』

クラリスは笑顔で頷くと王妃のテーブルまで足を運んだ。


『まぁようやくいらしゃいましたか。首を長くしてお待ちしておりましたのよ?』


まだ嫁いで日が浅いエリザベスが、クラリスに我が庭へ招待するかのような言い草にクラリス付き侍女であるマリーはクラリスを見た。クラリスは相変わらずの笑顔で


『お待たせして申し訳ありません。王妃様ご無沙汰しております。』


クラリスが美しく膝を折ると王妃は


『心配には及びませんよ。さぁ貴女もお座りなさい。』


クラリスが席に付くとエリザベスは


『クラリス様は王妃様とご無沙汰なのですか?私は毎日お会いしておりますのよ?』


王妃も苦笑いを浮かべ


『そうね、貴女もお忙しいでしょうにそう毎日毎日訪ねてくれなくてもよろしいのよ?』


エリザベスは驚いた風に


『なんて事!私にとっては楽しみな時間なのですよ。慣れない地で王妃様とのお時間だけが救いなのですから』


クラリスは2人のやり取りを聞きながら目の前に出されたお菓子に手を伸ばした。



…。苦いわ。


クラリスはたちまち顔を青くするも、今は王妃主催のお茶会の最中だ。騒ぎをおこすのは得策ではない。


…なるほどね。


目の前の出されたクラリスの皿には明らかに量が半端ない。それに加えてこれはパナンからの取り寄せし物となれば残す事もまたマナーに反する。


…舐めんなよ。


クラリスは笑顔でそれを平らげると


『申し訳ありません、このあと予定が立て込んでおりますのでお先に失礼をいたします』


席を立つクラリスに王妃は


『それはいけないわ。早くお行きなさい。執務が何より大切なのですからね。』


王妃はあの時と変らない、落ち着いた笑顔を見せクラリスを送り出した。


…王妃様。


クラリスは握った拳を更に強く握り王太子宮に戻った。





『また、どうしてこうも頑固なのでしょう』


冷や汗をマリーに拭かれているクラリスを前にテオドールが執務室から飛んできたのだ。



『執務に戻って構わないのよ?』


辛そうなクラリスの横でマリーが尾びれ背びれをつけながらテオドールに説明している。


…マリー、盛りすぎよ。



『もちろん、1つは持ち帰ったのでしょうね?』


クラリスは悪びれる事なく


『全部平らげたわよ!』


『はぁ?』


もはや側近ではないテオドール。

『何で?』


『何でって』




『いやいやどうかしてる。美味しくて全部たべちゃいましたなら分かる。苦みがあり明らかにおかしい物を何故全部平らげるか?持ち帰って調べるのが普通ってか当たり前だろ?』



クラリスはテオドールを睨みつけ


『王妃主催のお茶会なのよ?騒ぎを起こすわけにはいかないでしょ?』


『だから持ち帰って調べるんだろ?』


『そんなエリザベス様の侍女らが揃ってこちらに視線を送ってるのよ?出来るわけないじゃない?それに宣戦布告みたいなものよ。売られたケンカは買わないとね!』



テオドールは頭を掻きむしると


『ダァー!おかしいだろ!下剤程度で済んだからいいものをこれがもし毒ならどうすんだ?』



クラリスは驚いたように


『毒?そこまではしないわよ!ただの嫌がらせでしょう?それにその程度な王女って事が分って良かったわよ。エリザベス様は見せかけだけって事!』



テオドールとクラリスのやり取りを間近で見つめるマリーは困惑し言葉を失っていたのである。


それはそう。この2人一応…王太子妃とその側近なのだから。





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