愛するということ【完】

makojou

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ヴェルヘルトへ

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全ての日程を終え、馬車はヴェルヘルトへと急いだ。2人を乗せた馬車がヴェルヘルト王宮に入ると速度を落としゆっくりと走り出した。


身体が覚えているのであろう、この馬車の動きによりウィリアムは王宮に着いた事を感じ、目を開けると身体を起こした。

馬車を降りると2人を出迎える多くの者で溢れ返っており2人は笑顔で応えた。


翌日、ウィリアムとエレノア、テオドールは午後からの執務となっていたがテオドールは何故だかハインリッヒ第2王子殿下に呼び出され朝も早くから登城していた。


テオドールが執務室に入ると、王太子のデスクにハインリッヒが、自分のデスクにハロルドが座り既に執務を行っている。テオドールは仕方なくソファに腰を下ろしハインリッヒを待っていた。


…ってか来たけど?何か言ってくれ


テオドールが手持ち無沙汰にしているとようやく


『テオドール、来たか』

…いや、だいぶ前から居るけどね?


ハインリッヒはようやくテオドールを手招きした。


『テオドール、帝国で何があった?』


…?何がって色々ありすぎたけど?


『ってか姫との距離感が近くなってない?』


…あんたもそこかい!

テオドールは細かい事に煩い兄弟だと辟易しながら


『いや…それを言うならここに居るハロルドも妃殿下は、ハロと愛称で呼ばれますよ?ですから私も、テオなんじゃないかと…』

ハインリッヒはおもむろに

『誰もお前の事を聞いてない!姫と兄上だよ 』

…そこ?

テオドールは固まる。

『何か違うんだよ?なぁ、ハロ?』


…いやいやあんた達もかなり距離が近くねえか?


テオドールは驚きハロルドを見ると


『確かにね~』


…え?何?ハロルドお前いつからそんなに偉くなったの?


テオドールは知らない間に妙に近くなった2人の距離感に驚いた。


『ねえ、姫は素晴らしい妃殿下だよね?』


家臣の2人は同時に頷く。


『国母にはなれるが次の王太子の母君にはなり得ないなんてさみしくない?』


…。

流石に返す言葉が見当たらない2人に、

『なり得ないよね?』


…。


『知らないとは言わせないけど?』


2人は顔を見合わせ頷くと

『『はい。』』


納得したように続ける。


『でもさ未来の国王に姫の遺伝子残したくない?勿体ないよね?』


これには激しく同意する2人。

『後継者を作るのは私だよね?ならさ』

ニヤリと笑うハインリッヒの笑顔があまりに美しく2人は固まった。


『何ならさ、私が王位継承したほうが早くない?』


流石にこの一言にはテオドールが反応する。


『殿下!』


ハインリッヒは尚も続ける


『だって兄上が立太子したのは、私が表舞台に出ていなかったから消去法でしょ?今回私は懸命に代理を果したつもりだ。驚いた者も多かったと思うぞ?第2王子までも優秀か?ってね。なあ、ハロ。』


ハロルドは表情固く頷いた。


『殿下は継承されたいのですか?』


テオドールの問に


『いや全く。興味もないけど?』


…は?

『ならばそのような事をおっしゃられると混乱を招きますよ!』


ハインリッヒはニヤリと笑うと


『いや、真実の愛であろう?これこそ。』

ハインリッヒは王位継承には興味はないがエレノアとの未来があるなら継承すると言うのだ。


重い空気か漂う中、思いついたように


『テオドール、もちろんまだ姫と兄上は白い結婚だよね?』

…。

『殿下は私と同室でしたけど…』


ハインリッヒは嬉しそうに

『そっか、だよね?ただ馬車から降りた2人の雰囲気を見て何か違和感を覚えてね。』


『殿下、王太子殿下は妃殿下をとても大切にされています!』

テオドールの抗議に

『うん、知っている。妃殿下としてね。でもさ兄上の条件を飲む女なら探せば幾らでも居るさ』


…なかなか居ねえよ。

『ですが、妃殿下も王太子殿下を大切に想われています!』


『そうだね。姫は真面目だから。』


帝国での一連の流れを知っているテオドールには納得のいかない解釈である。


『王太子殿下にもお考えがあるかと…』


『うん、そうだね。後は兄上と話すから大丈夫。ありがとう!』


…ありがとうって。


テオドールは颯爽に執務室を後にするハインリッヒを呆然と見つめていた。





『まあ、座れよ』


放心状態のテオドールにハロルドがソファに促す。


『お前はすぐに飼い慣らされるんだな?』

怒りをハロルドにぶつけるテオドール。


『飼い慣らされてはいないよ。ただな、我々が思っている以上にハインリッヒ殿下は優秀だ。 もちろんだからって王太子ってのは違うけどな。でもな、この動きが明るみになると喜ぶ輩も居るのは間違い無い。』


現在、要職についていない貴族らは第2王子の実力を見てすり寄るのは容易に想像できる。


『で?何があった?』

ハロルドは確信したかのようにテオドールを問う。


『ウィルは妃殿下を想っていると思う。また妃殿下も同じだと…』


テオドールがゆっくりと事の経緯を話し出すとハロルドは黙って聞いていた。


『なるほどな。ウィル、拗らせちゃってるね~』


『全くだよ。』




『でもさ、その騎士団の抗議の話しは俺ら家臣からすると堪らんな。』

ハロルドがしみじみ言うと

『あぁ。』

思い出すかのようにテオドールは目を閉じた。
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