15 / 61
ヴェルヘルト大王国の王太子妃ということ
しおりを挟む
翌日朝も早くからエレノアはヴェルヘルト王太子妃になるべく、隅から隅まで磨かれ美しく仕上げられていた。
夫人のお茶会と言っても、エレノアはアミュレット王国の王女という後ろ盾もあり元来社交的でもある。
帝国へも何度も足を運んでいるし各国王族ともそれなりに関係を作っているので案じる事は何もなかった。
王宮庭園に広がる咲き誇る花々に勝るとも劣らないドレスを着飾る各国の夫人たち。エレノアもにこやかに挨拶に回っていた。
すると定刻よりかなり遅い時間になり、煌びやかなドレスに身に纏う夫人らが庭園にやって来た。その面々をエレノアは見たことが無かった為、となりに居合わせたアランド王国王太子妃であるマリヤに声を掛けた。
『無知でお恥ずかしいのですが、あの方がたは?』
マリヤは少し考え
『私も存じませんわ。この大陸の王族では無さそうですが…』
『帝国の貴族?でも無さそうですわね』
2人が話しているとどこから話が漏れてくる。どうやら向かい側の大陸からこの度帝国に嫁がれる王女と、その隣国らの王女たちだそうだ。
皇后陛下顔負けの威厳ある立ち居振る舞いと息を飲む面々。エレノアはそれがどうも威厳とは思えずただ呆然と見つめていた。
既に帝国の属国や友好国には通達があったのか、コミュニケーションが取れているようであった。
その中央に立つ女性こそ、帝国皇太子妃となるお方であろう。周りの者がステファニー様と媚びへつらう姿が見えた。
エレノアは果樹水を飲むため席に付くと、流石は帝国。エレノアが口を開く前に果樹水がテーブルに置かれる。
『ありがとう』
小さく微笑むエレノアに帝国属国ではない国の王妃や王太子妃が席を囲むように集まり楽しく充実したひとときを過ごしていた。
『ちょっと、そこの貴女!』
テーブル後方からあげられた大きな声に視線が集まる。
エレノアもそっと振り返ると先程のステファニー皇太子妃、いやまだどこかの国の王女であるが仁王立ちでこちらを睨みつけている。
おののくテーブルの王女たち。エレノアもまた驚きを隠せない。
『貴女よ!貴女!』
ステファニーは何とエレノアの前までやって来て有ろうことか指を指した。流石のエレノアも席を立つと
『失礼ながら貴女ではわかりませんわ。』
首を傾げて見せた。
…ここはアホな振りが1番よね?
『貴女、私を誰だか知らないくて?』
『申し訳ございません。お初にお目にかかります。私はヴェルヘルト大王国王太子妃エレノア・ヴェルヘルトにございます。以後お見知り置きを。』
美しく膝を折るエレノアに年配の王妃たちからもため息が漏れるほど美しい。
『貴女ね?ヴェルヘルトの王太子妃は。』
そう言うとステファニーはエレノアを上から下まで眺めると
『ふ~ん。』
と鼻で笑った。
…?鼻で笑ったわよね?何なん?
エレノアは
『何か?』
こちらも含み笑いを持たせる様に問う。
…ってか、名を名乗れ!
エレノアは察した。このステファニーとか言うどこぞの王女はもうすぐ皇太子妃になるのであろうが今は小さな国の王族なのだろう。だからこそ名乗れずに、小さなコミュニティの中で踏ん反り返っているのだ。
こうなったらエレノアはとことん知らない振りを決め込もうと再度口を開く。
『私に何か?』
形勢逆転とまでは行かずとも、ワナワナと怒りを表すステファニーの横でこれまたくだらぬ貴族令嬢の如くヒソヒソと話し出す、どこぞの小国の王妃たち。
『まあ、なんて失礼な。あの方は元々アミュレットの王女でヴェルヘルトに娘を売って支援にこぎつけたらしいですわよ。』
『ヴェルヘルトといえば王太子は後継者を作れないらしいですわ!』
『ならば?』
『え?まあ!』
好きな事をわざわざ相手に聞こえるように話す陰口に辟易したエレノアは
『あら、そんな所でお話しされておられないでこちに来て仰って?私で分かる事ならば何でもお答え致しますわよ?』
勢いを取り戻したかのようなステファニーはならばと
『まあ、愛を知らずと一生ヴェルヘルトで?お力をお貸ししましょうかぁ?だって女の喜びも知らずしてなんてお気の毒ですもの。』
あまりに下品な言いようにテーブルの王妃たちは顔を歪めてステファニーを見る。
『お気遣いありがとうございます。ですが愛を知らないとは?私は愛に満ち溢れた日常を送らせて頂いておりますわよ?』
またも幼く首を傾げてみせた。
『そうですわよね。ヴェルヘルトほどの大国の王太子妃ですもの、プライドもおありでしょう?ですがここはそんな夫人たちが力を合わせていく交流会ですもの遠慮なさらずともよろしくてよ?』
ステファニーは目を細めて微笑んでいる。
『そんな根も葉もない事にお力をお借りするなどとんでも無い事ですわ。それに愛とは様々な形があります故。解釈に困りますわ!我がヴェルヘルトは他国にご心配頂くほど衰えてはございませんので。』
他の属国とは違う。そんな視線を真っ直ぐにステファニーに送るとステファニーはエレノアを睨みつけ踵を返して戻って行った。
夫人のお茶会と言っても、エレノアはアミュレット王国の王女という後ろ盾もあり元来社交的でもある。
帝国へも何度も足を運んでいるし各国王族ともそれなりに関係を作っているので案じる事は何もなかった。
王宮庭園に広がる咲き誇る花々に勝るとも劣らないドレスを着飾る各国の夫人たち。エレノアもにこやかに挨拶に回っていた。
すると定刻よりかなり遅い時間になり、煌びやかなドレスに身に纏う夫人らが庭園にやって来た。その面々をエレノアは見たことが無かった為、となりに居合わせたアランド王国王太子妃であるマリヤに声を掛けた。
『無知でお恥ずかしいのですが、あの方がたは?』
マリヤは少し考え
『私も存じませんわ。この大陸の王族では無さそうですが…』
『帝国の貴族?でも無さそうですわね』
2人が話しているとどこから話が漏れてくる。どうやら向かい側の大陸からこの度帝国に嫁がれる王女と、その隣国らの王女たちだそうだ。
皇后陛下顔負けの威厳ある立ち居振る舞いと息を飲む面々。エレノアはそれがどうも威厳とは思えずただ呆然と見つめていた。
既に帝国の属国や友好国には通達があったのか、コミュニケーションが取れているようであった。
その中央に立つ女性こそ、帝国皇太子妃となるお方であろう。周りの者がステファニー様と媚びへつらう姿が見えた。
エレノアは果樹水を飲むため席に付くと、流石は帝国。エレノアが口を開く前に果樹水がテーブルに置かれる。
『ありがとう』
小さく微笑むエレノアに帝国属国ではない国の王妃や王太子妃が席を囲むように集まり楽しく充実したひとときを過ごしていた。
『ちょっと、そこの貴女!』
テーブル後方からあげられた大きな声に視線が集まる。
エレノアもそっと振り返ると先程のステファニー皇太子妃、いやまだどこかの国の王女であるが仁王立ちでこちらを睨みつけている。
おののくテーブルの王女たち。エレノアもまた驚きを隠せない。
『貴女よ!貴女!』
ステファニーは何とエレノアの前までやって来て有ろうことか指を指した。流石のエレノアも席を立つと
『失礼ながら貴女ではわかりませんわ。』
首を傾げて見せた。
…ここはアホな振りが1番よね?
『貴女、私を誰だか知らないくて?』
『申し訳ございません。お初にお目にかかります。私はヴェルヘルト大王国王太子妃エレノア・ヴェルヘルトにございます。以後お見知り置きを。』
美しく膝を折るエレノアに年配の王妃たちからもため息が漏れるほど美しい。
『貴女ね?ヴェルヘルトの王太子妃は。』
そう言うとステファニーはエレノアを上から下まで眺めると
『ふ~ん。』
と鼻で笑った。
…?鼻で笑ったわよね?何なん?
エレノアは
『何か?』
こちらも含み笑いを持たせる様に問う。
…ってか、名を名乗れ!
エレノアは察した。このステファニーとか言うどこぞの王女はもうすぐ皇太子妃になるのであろうが今は小さな国の王族なのだろう。だからこそ名乗れずに、小さなコミュニティの中で踏ん反り返っているのだ。
こうなったらエレノアはとことん知らない振りを決め込もうと再度口を開く。
『私に何か?』
形勢逆転とまでは行かずとも、ワナワナと怒りを表すステファニーの横でこれまたくだらぬ貴族令嬢の如くヒソヒソと話し出す、どこぞの小国の王妃たち。
『まあ、なんて失礼な。あの方は元々アミュレットの王女でヴェルヘルトに娘を売って支援にこぎつけたらしいですわよ。』
『ヴェルヘルトといえば王太子は後継者を作れないらしいですわ!』
『ならば?』
『え?まあ!』
好きな事をわざわざ相手に聞こえるように話す陰口に辟易したエレノアは
『あら、そんな所でお話しされておられないでこちに来て仰って?私で分かる事ならば何でもお答え致しますわよ?』
勢いを取り戻したかのようなステファニーはならばと
『まあ、愛を知らずと一生ヴェルヘルトで?お力をお貸ししましょうかぁ?だって女の喜びも知らずしてなんてお気の毒ですもの。』
あまりに下品な言いようにテーブルの王妃たちは顔を歪めてステファニーを見る。
『お気遣いありがとうございます。ですが愛を知らないとは?私は愛に満ち溢れた日常を送らせて頂いておりますわよ?』
またも幼く首を傾げてみせた。
『そうですわよね。ヴェルヘルトほどの大国の王太子妃ですもの、プライドもおありでしょう?ですがここはそんな夫人たちが力を合わせていく交流会ですもの遠慮なさらずともよろしくてよ?』
ステファニーは目を細めて微笑んでいる。
『そんな根も葉もない事にお力をお借りするなどとんでも無い事ですわ。それに愛とは様々な形があります故。解釈に困りますわ!我がヴェルヘルトは他国にご心配頂くほど衰えてはございませんので。』
他の属国とは違う。そんな視線を真っ直ぐにステファニーに送るとステファニーはエレノアを睨みつけ踵を返して戻って行った。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる