愛するということ【完】

makojou

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ヴェルヘルト大王国の王太子妃ということ

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翌日朝も早くからエレノアはヴェルヘルト王太子妃になるべく、隅から隅まで磨かれ美しく仕上げられていた。


夫人のお茶会と言っても、エレノアはアミュレット王国の王女という後ろ盾もあり元来社交的でもある。

帝国へも何度も足を運んでいるし各国王族ともそれなりに関係を作っているので案じる事は何もなかった。


王宮庭園に広がる咲き誇る花々に勝るとも劣らないドレスを着飾る各国の夫人たち。エレノアもにこやかに挨拶に回っていた。



すると定刻よりかなり遅い時間になり、煌びやかなドレスに身に纏う夫人らが庭園にやって来た。その面々をエレノアは見たことが無かった為、となりに居合わせたアランド王国王太子妃であるマリヤに声を掛けた。


『無知でお恥ずかしいのですが、あの方がたは?』

マリヤは少し考え

『私も存じませんわ。この大陸の王族では無さそうですが…』


『帝国の貴族?でも無さそうですわね』


2人が話しているとどこから話が漏れてくる。どうやら向かい側の大陸からこの度帝国に嫁がれる王女と、その隣国らの王女たちだそうだ。

皇后陛下顔負けの威厳ある立ち居振る舞いと息を飲む面々。エレノアはそれがどうも威厳とは思えずただ呆然と見つめていた。


既に帝国の属国や友好国には通達があったのか、コミュニケーションが取れているようであった。


その中央に立つ女性こそ、帝国皇太子妃となるお方であろう。周りの者がステファニー様と媚びへつらう姿が見えた。


エレノアは果樹水を飲むため席に付くと、流石は帝国。エレノアが口を開く前に果樹水がテーブルに置かれる。

『ありがとう』

小さく微笑むエレノアに帝国属国ではない国の王妃や王太子妃が席を囲むように集まり楽しく充実したひとときを過ごしていた。



『ちょっと、そこの貴女!』

テーブル後方からあげられた大きな声に視線が集まる。

エレノアもそっと振り返ると先程のステファニー皇太子妃、いやまだどこかの国の王女であるが仁王立ちでこちらを睨みつけている。

おののくテーブルの王女たち。エレノアもまた驚きを隠せない。


『貴女よ!貴女!』

ステファニーは何とエレノアの前までやって来て有ろうことか指を指した。流石のエレノアも席を立つと


『失礼ながら貴女ではわかりませんわ。』

首を傾げて見せた。


…ここはアホな振りが1番よね?

『貴女、私を誰だか知らないくて?』


『申し訳ございません。お初にお目にかかります。私はヴェルヘルト大王国王太子妃エレノア・ヴェルヘルトにございます。以後お見知り置きを。』

美しく膝を折るエレノアに年配の王妃たちからもため息が漏れるほど美しい。


『貴女ね?ヴェルヘルトの王太子妃は。』

そう言うとステファニーはエレノアを上から下まで眺めると

『ふ~ん。』

と鼻で笑った。

…?鼻で笑ったわよね?何なん?

エレノアは

『何か?』

こちらも含み笑いを持たせる様に問う。

…ってか、名を名乗れ!


エレノアは察した。このステファニーとか言うどこぞの王女はもうすぐ皇太子妃になるのであろうが今は小さな国の王族なのだろう。だからこそ名乗れずに、小さなコミュニティの中で踏ん反り返っているのだ。

こうなったらエレノアはとことん知らない振りを決め込もうと再度口を開く。


『私に何か?』

形勢逆転とまでは行かずとも、ワナワナと怒りを表すステファニーの横でこれまたくだらぬ貴族令嬢の如くヒソヒソと話し出す、どこぞの小国の王妃たち。


『まあ、なんて失礼な。あの方は元々アミュレットの王女でヴェルヘルトに娘を売って支援にこぎつけたらしいですわよ。』


『ヴェルヘルトといえば王太子は後継者を作れないらしいですわ!』

『ならば?』

『え?まあ!』


好きな事をわざわざ相手に聞こえるように話す陰口に辟易したエレノアは


『あら、そんな所でお話しされておられないでこちに来て仰って?私で分かる事ならば何でもお答え致しますわよ?』

勢いを取り戻したかのようなステファニーはならばと


『まあ、愛を知らずと一生ヴェルヘルトで?お力をお貸ししましょうかぁ?だって女の喜びも知らずしてなんてお気の毒ですもの。』


あまりに下品な言いようにテーブルの王妃たちは顔を歪めてステファニーを見る。

『お気遣いありがとうございます。ですが愛を知らないとは?私は愛に満ち溢れた日常を送らせて頂いておりますわよ?』

またも幼く首を傾げてみせた。


『そうですわよね。ヴェルヘルトほどの大国の王太子妃ですもの、プライドもおありでしょう?ですがここはそんな夫人たちが力を合わせていく交流会ですもの遠慮なさらずともよろしくてよ?』


ステファニーは目を細めて微笑んでいる。

『そんな根も葉もない事にお力をお借りするなどとんでも無い事ですわ。それに愛とは様々な形があります故。解釈に困りますわ!我がヴェルヘルトは他国にご心配頂くほど衰えてはございませんので。』

他の属国とは違う。そんな視線を真っ直ぐにステファニーに送るとステファニーはエレノアを睨みつけ踵を返して戻って行った。








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