62 / 94
スラムの子どもたち。
しおりを挟む
ヨハネスも聞いてはいるがスラム街へ足を踏み入れた事は無かった。兄であるカールトンは時々視察に来ているらしい。
公爵令嬢ならば一生目にする事などない光景をエリーヌは真っ直ぐ進んでいく。途中、男たちが声を掛けるもエリーヌが氷の様な鋭い視線を投げかければ男たちはつまらなさそうに去っていく。
‥目の前を歩く令嬢は本当にエリーヌ・ジュリジアンであろうか?
そんな事を思っていると小さな路地の奥に子どもたちが集まっていた。この場にふさわしくないような白板があり子どもたちはノートとペンを与えられいた。
エリーヌを見ると子どもたちは声をあげた。
『エリ!遅いよ!』
エリーヌは先程までの表情を消し
『ごめんごめん!みんな復習はしてきてるわね?』
エリーヌの問に子どもたちは元気に答えるとエリーヌは嬉しそうに読み書きを教えだした。
ヨハネスは周りをグルっと見渡すと、路地に座り込み何をするでもなくこちらをみている者。遠くで聞こえる怒号。泣き叫ぶ子どもの声。ムヌク王国の陰を目に焼き付けるヨハネス。
ヨハネスは1つ不思議に思った。
こんな荒れ果てた場所になぜ青空教室だけがきちんと整えられてるのだろうか?なぜエリーヌはここまで誰にも襲われず無事でいられるのか?何故この授業は誰にも邪魔されず進んでいくのか?
目の前には子ども達に読み書きを教えているエリーヌ。エリーヌはこんな風に笑うのか。見たことのないエリーヌの姿にヨハネスは本当のエリーヌ・ジュリジアンはどこに居るのか‥
放心状態のヨハネスが我に返ったのは子どもたちの声であった。
『どうして?どうして今日でお別れなの?』
エリーヌは笑顔で答える。
『ごめんなさいね。私はお嫁さんになって遠くに行かなければならないの。
でも大丈夫よ!みんな一通りは教えたから後は反復するだけよ。そして次はみんなが他の子たちに教えるの。いい?約束できる?』
子どもたちは素直に返事をするが
『お嫁さんってお婿さんはお兄ちゃん?』
1人の女の子がヨハネスに声を掛けた。ヨハネスは腰を下ろし女の子の目を見ると
『うん?どうかな?』
女の子はヨハネスの耳に口をやると
『お姉ちゃんはね、かすみ草が好きなの。女はね、お花を貰うとニコニコになるんだよ?だからお兄ちゃん頑張って!』
ヨハネスは大きく笑うと女の子の頭を撫でた。
子どもたちに見送られながら歩くスラム街。両端に寝転ぶ者が、こちらを眺めている。その真ん中を歩いて行くとヨハネスの護衛騎士が馬車の扉を開ける。その時1人の老婆がヨハネスらに声を掛けた。
護衛騎士が老婆を取り押さえるその前にヨハネスは制し老婆の前に歩み寄ると
『今までありがとうエリ。エリはエリの世界へ帰って行くんだね。』
微笑むエリーヌの手を握ると振り返り
『あんたはエリの恋人かい?』
‥。
『エリを頼むよ。エリはきっと偉い人なんだろう?ってことはあんたもだ。
こんな所に通ってたなんてエリは叱られるのだろね?エリを叱らないでおくれ。
私達にとってエリは太陽みたいな存在だ。
エリがいなくなりここは太陽が無くなりまた夜明けの来ない街さ。』
寂しそうな老婆にヨハネスは
『夜明けの来ない街になんてさせませんよ。』
その言葉に老婆はヨハネスを見つめるとエリーヌに
『エリ、あんたはえらい所に嫁に行くんだね‥』
そう言うと嬉しそうに手を振り馬車に乗る2人を見送った。
馬車の窓から外を見るとスラム街の大人も子どもも手を振っているではないか。ヨハネスは先程感じた不思議な事の答えを見つけ嬉しそうに微笑んだ。
ゆっくりと走り出す馬車。
エリーヌはヨハネスを見据えると
『お手間を取らせて申し訳ありませんでした。』
深く頭を下げるとヨハネスは
『よい。疲れた‥少し休む。』
そう言うと瞳を閉じた。
ヨハネスはエリーヌと話をするのが何故か憚られ目を閉じていなければ溺れそうになる自分が怖かったのである。
公爵令嬢ならば一生目にする事などない光景をエリーヌは真っ直ぐ進んでいく。途中、男たちが声を掛けるもエリーヌが氷の様な鋭い視線を投げかければ男たちはつまらなさそうに去っていく。
‥目の前を歩く令嬢は本当にエリーヌ・ジュリジアンであろうか?
そんな事を思っていると小さな路地の奥に子どもたちが集まっていた。この場にふさわしくないような白板があり子どもたちはノートとペンを与えられいた。
エリーヌを見ると子どもたちは声をあげた。
『エリ!遅いよ!』
エリーヌは先程までの表情を消し
『ごめんごめん!みんな復習はしてきてるわね?』
エリーヌの問に子どもたちは元気に答えるとエリーヌは嬉しそうに読み書きを教えだした。
ヨハネスは周りをグルっと見渡すと、路地に座り込み何をするでもなくこちらをみている者。遠くで聞こえる怒号。泣き叫ぶ子どもの声。ムヌク王国の陰を目に焼き付けるヨハネス。
ヨハネスは1つ不思議に思った。
こんな荒れ果てた場所になぜ青空教室だけがきちんと整えられてるのだろうか?なぜエリーヌはここまで誰にも襲われず無事でいられるのか?何故この授業は誰にも邪魔されず進んでいくのか?
目の前には子ども達に読み書きを教えているエリーヌ。エリーヌはこんな風に笑うのか。見たことのないエリーヌの姿にヨハネスは本当のエリーヌ・ジュリジアンはどこに居るのか‥
放心状態のヨハネスが我に返ったのは子どもたちの声であった。
『どうして?どうして今日でお別れなの?』
エリーヌは笑顔で答える。
『ごめんなさいね。私はお嫁さんになって遠くに行かなければならないの。
でも大丈夫よ!みんな一通りは教えたから後は反復するだけよ。そして次はみんなが他の子たちに教えるの。いい?約束できる?』
子どもたちは素直に返事をするが
『お嫁さんってお婿さんはお兄ちゃん?』
1人の女の子がヨハネスに声を掛けた。ヨハネスは腰を下ろし女の子の目を見ると
『うん?どうかな?』
女の子はヨハネスの耳に口をやると
『お姉ちゃんはね、かすみ草が好きなの。女はね、お花を貰うとニコニコになるんだよ?だからお兄ちゃん頑張って!』
ヨハネスは大きく笑うと女の子の頭を撫でた。
子どもたちに見送られながら歩くスラム街。両端に寝転ぶ者が、こちらを眺めている。その真ん中を歩いて行くとヨハネスの護衛騎士が馬車の扉を開ける。その時1人の老婆がヨハネスらに声を掛けた。
護衛騎士が老婆を取り押さえるその前にヨハネスは制し老婆の前に歩み寄ると
『今までありがとうエリ。エリはエリの世界へ帰って行くんだね。』
微笑むエリーヌの手を握ると振り返り
『あんたはエリの恋人かい?』
‥。
『エリを頼むよ。エリはきっと偉い人なんだろう?ってことはあんたもだ。
こんな所に通ってたなんてエリは叱られるのだろね?エリを叱らないでおくれ。
私達にとってエリは太陽みたいな存在だ。
エリがいなくなりここは太陽が無くなりまた夜明けの来ない街さ。』
寂しそうな老婆にヨハネスは
『夜明けの来ない街になんてさせませんよ。』
その言葉に老婆はヨハネスを見つめるとエリーヌに
『エリ、あんたはえらい所に嫁に行くんだね‥』
そう言うと嬉しそうに手を振り馬車に乗る2人を見送った。
馬車の窓から外を見るとスラム街の大人も子どもも手を振っているではないか。ヨハネスは先程感じた不思議な事の答えを見つけ嬉しそうに微笑んだ。
ゆっくりと走り出す馬車。
エリーヌはヨハネスを見据えると
『お手間を取らせて申し訳ありませんでした。』
深く頭を下げるとヨハネスは
『よい。疲れた‥少し休む。』
そう言うと瞳を閉じた。
ヨハネスはエリーヌと話をするのが何故か憚られ目を閉じていなければ溺れそうになる自分が怖かったのである。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる
田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。
お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」
「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」
溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。
ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる