上 下
29 / 94

意味の無いもの

しおりを挟む
翌日、つかの間の予定の合間を縫って、ステファニーが大王国図書室で時間を潰すキャサリンの元へと訪れた。

『キャサリン様少しよろしいでしょうか?‥』


ルリネット妃の義姉のでもあるステファニーを邪険にも出来ずキャサリンは

『どうかなさいましたか?』


キャサリンはそう言うと読みかけの本を閉じステファニーを見上げた。


『昨日はありがとうございました。』

目の前の気品溢れるステファニーの謝意の意図する所が分からず


『なんでしたか?』

首を傾げるキャサリン。


『私の力不足でお耳汚しをいたしました。』


‥?


『私は自国ではともかく国際の場に於いては何の後ろ盾も無い王妃ですから。』

‥あぁ、この事か。

『昨日も申し上げましたが、それが何か問題でも?』


若干の驚きを見せるも平静を装うステファニー。


『大切なのは今ですわ。国際交流の場でその名を轟かせる事は必要な時もあります。ですが今回はそのような時ではありません。

例えその時であっても名を轟かせるのが後ろ盾だなんて、なんとも情けないとは思いませんか?だってそれしか無いって自ら公言している様なものでしょう?』


キャサリンはステファニーを真っすぐに見据えた。

『流石はヘリンズ王国の元王女。ラウラ様と良く似ていらっしゃるのですね』

優雅に微笑むステファニーに若干の嫌悪感を感じるキャサリン。

‥伝えたい事は単刀直入にお願いしたいわ


『ありがとうございます。私からも1つよろしいですか?

王妃の中には私のように他国の王族から嫁ぐ場合もございますが、貴族の中よりステファニー様の様に嫁がれる場合の方が圧倒的に多いですわ。

現に今回こちらに参加している方々を見てもそうですよね?では何故ステファニー様があのように言われるのか‥そこはどうお考えでしょうか?』

ステファニーは少しの沈黙の後

『ルリネット妃の義姉だからでしょうか?』


キャサリンは大きく頷く。

『そうでしょうね。彼女たちからすればステファニー様が妬ましいという事もあるでしょうね。逆に考えれば言葉は悪いですが王女であった彼女らが一国の公爵令嬢であったステファニー様を羨んでいるということ。ね?お分りでしょう?所詮そんな程度なもの。』


小さく微笑むステファニーにキャサリンは

『でもそれだけでは無いと思います。ステファニー様がご自分の肩書に引け目を感じているのが感じ取れます故、漬け込まれるのですよ。』

踏み込まれた発言にステファニーが固まるのがキャサリンにも分かった。


『ごめんなさいね。ここは非公式の場。わざわざお声掛け頂きましたのに、社交の場のように上辺だけの会話では意味ありませんもの。気分を害されましたら謝りますわ。』


『いえ、その通りですわ。私はキャサリン様の様に自分に自信が持てませんので‥』


‥えっと?私が自信?そんなもん無いけど。

目をパチクリさせるキャサリン。


『私には聖なる力も無ければ肩書も無い。他国の王女に嫌味を言われても返す言葉も見つからない。情けないですわ。』

悲しそうに話すステファニーに


『それですわ!ステファニー様は常にどなたかとご自分を対比させておられます。事情はどうあれ王妃になりたい令嬢は多い中選ばれた貴女はもっと自信を持っても良いのでは?

そもそも貴女の仕事は国を治める国王の補佐ですわ。国王が貴女を望まれたという事が全て。それは例え政略結婚でも然りですわ』


我ながら決まった!と思っているキャサリンにステファニーは


『政略結婚ではありません!私たちは真実の愛で結ばれております。』



‥えっと?散々泣き言言っててマウントかい?


『それはそれはごちそうさまです!』


キャサリンはズッコケそうになるも何とか堪えて微笑んだ。


‥こっちはお飾りながら楽しんどるがな!










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

処理中です...