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キャサリンの日常

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贅沢言ってはいけないが、キャサリンは暇を持て余していた。不自由な事は何1つ無ければ、むしろヘリンズ王国に居たときよりも贅沢な毎日を過ごしてはいる。


‥今日は何して暇を潰そうかしら?

朝、ベッドで目を覚ますキャサリンが朝一番で考える事である。


この国は大陸でも大きな王国である。これだけ国を治めるとなると色々大変であろう。猫の手も借りたい程忙しいのは、仲間はずれのキャサリンでもわかる。


‥放ったらかしとはこの事だわ。


この国の者は王太子妃となるキャサリンには興味の欠片もないらしい。着眼点を変えれば何も期待されていないとなるとお飾りの王太子妃。

‥まあ、楽っちゃあ楽よね?


キャサリンは一人ニヤリと口角を上げる。


‥私も好きにさせてもらいましょ!


キャサリンはベッドから飛び起きるとベルを鳴らして能面集団を呼び寄せた。



『今日は街に行くわ!』


驚き目を見開く侍女たちに有無を言わせぬ様にすぐに支度に取り掛かる様命じた。


無言でキャサリンを仕上げていく侍女を見つめながら鏡に映る自分を見ると‥


‥悪く無いわ。



この能面集団は愛想は無いものの、仕事は出来る。

モニカは街のガイドをキャサリンに手渡すと護衛騎士に何やら耳打ちしている。


護衛騎士は無表情で頷きキャサリンを迎えに来た。


『リッカルド・トンプソンと申します。本日はよろしくお願いいたします。』


リッカルドは長身で細マッチョ。金髪の長い髪を1つに束ね紫色の瞳をでキャサリンを見つめる。


『急で申し訳ないのだけれどよろしく頼むわね。』


キャサリンがニコリと微笑むとリッカルドは真っ赤になって俯いた。


‥こんなんで護衛騎士なの?大丈夫か?


キャサリンは眉間にシワを刻みリッカルドを見上げた。




キャサリンは街に付くと子どもの様に目を輝かせた。ヘリンズ王国とは異なり市場も活気に溢れ
町並みも美しく整備されている。

ヘリンズでは興味も無かった仕立て屋が綺羅びやかに並んでいると自然に目が行く。


こう見えて、キャサリンはヘリンズ王国の王女である。生まれ持った品格が知らぬうちに備わっているのだ。リッカルドはキャサリンの斜め後ろに立ち小さく口を開いた。


『キャサリン様。どうか私から離れ無きようお願いします。』

『何故?』


ヘリンズ王国では治安も良く、街の人々と王族との距離感も近い。

リッカルドはキャサリンの返答に驚きながらも

『王女はその、街に一人で出歩かれていたのですか?』


『出歩かれてって、王族ですもの。街の人々との交流は責務ですわ!』

またも目を見開くリッカルドを他所に

『分かったわ!ここではここのルールがあるものね。今日はリッカルドから離れないわ!』


リッカルドはあからさまに安堵しキャサリンのすぐ横に控えた。


『リッカルド?おすすめのお店は?』


リッカルドは信じられない表情でキャサリンを眺めしばらくして

『‥あそこの仕立て屋は王族御用達でございます。』


キャサリンは満面の笑みを浮かべリッカルドの腕を掴み店まで走ると


『王女、お店は逃げませんから!』


困惑気味のリッカルドであったが、キャサリンの耳には届かない‥。


店に入るとキャサリンはあれこれと眺め手に取りリッカルドに意見を求める。リッカルドも固まりながらもリッカルドなりに答えていく。


キャサリンは一通り既製品のドレスを見て回ると

『いきましょう!』


と言い店を出た。



リッカルドは

『あの、ヘリンズ王国ではあれで物が届くのですか?』


『は?』


首を傾げるキャサリンに

『我が国では、あれでは物は買えませんよ?きちんとオーダーしなければ‥』


『まさか!ヘリンズ王国でもあれだけで物は届かないわよ?それに今日は何もいらないもの。』


目を丸くするリッカルド。


『あれだけ喜んでおられたのに?我が国でのお買い物を憚られておられるのですか?』


『いいえ?そうでは無いけど‥お店に入ったら楽しまなきゃ失礼でしょ?それに元々物欲はない方だから。楽しい時間が好きなの。』

そう言うと次のお店を探すキャサリンであった。


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