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候爵夫人のプライド

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ステファニーが候爵夫人となり方方から夜会への招待状が舞い込んでいた。もちろん王族とのパイプもあるが今や候爵家は噂の的となる家の1つであった。ステファニーの境遇を揶揄するものが多くアランはそれを気遣い全てを断っていたのである。


『旦那様、そろそろ夜会へも顔を出された方がよろしいかと…』


自分を気遣うアランを気遣いステファニーが言う。アランは黙って考え込んでいると


『社交界で生き抜いて行くには通るべき道。私はこれでも候爵夫人ですわ。足手まといにはなりたくありません。むしろ私の境遇を足がかりに大きく飛躍するべきですわ。』


にっこり微笑むステファニーに背中を押され直近の夜会に参加する事にした二人は初めて揃って夜会に向かった。


ステファニーはあからさまにアランの瞳の色でもある紫のマーメイドドレスに見を包み、髪はハーフアップで纏めた。パトリシアはじめ侍女らは喜んで腕を奮った。



『その、何だか照れくさいが…やはり君は美しいね。生まれながらの品格か…。』


アランの言葉にステファニーは少し笑うと


『生まれながらの品格など欠片もありませんわよ?全ては大陸の国母に成るための装飾品でしかないもの。今やそんな物必要無くなり身軽で、こうゆう世界もあったのかと驚きの連続ですもの。』


楽しそうに馬車の窓から景色を楽しむステファニーはもはや王女の欠片も無い。残っているのはただ目の前の景色に心を躍らせる1人の女性である。

王家主催の夜会とは異なり略式である為に2人が到着すると既に会場には多くの貴族らが賑を見せていた。中には他国の貴族らも集まりかなりの規模の夜会である。


ジュリランの貴族らは王家主催の夜会以外でステファニーを見るのは初めてであった。いつも貴族主催の夜会には王家からはラインハルトやオリヴィアが参加していた。オリヴィアは控え目で気さくでもあり貴族令嬢らからは疎まれる事なく王女としての立場に君臨していた。

一方のステファニーは王家主催の夜会でもひな壇から降りる事なくすぐに会場から退出していた為に絶対王者として君臨する王家の王女そのものであり貴族令嬢との交流は皆無であった。だからこそ今宵の夜会では注目の的となっている。



その各々持つ印象は初っ端から崩される事になった。現れたステファニーは候爵の瞳に染まるドレスを身に纏うとアランの隣で静かに微笑んでいるのである。


主催である公爵に挨拶を済ませるとステファニーは自分を案じて隣でエスコートするアランを見上げると

『旦那様。今宵は私のお披露目会ではありません。ご自分の社交を優先されなくてはなりませんよ?』


アランは苦笑いをするとステファニーの腰から手を離し笑顔で言った。

『我妻は手厳しいのだな。では少し行ってくる』


見送るステファニーに手を上げると踵を返して人の渦の中へと入って行った。


その後待っていたの如く、次々に訪れる令嬢や夫人らと談笑を交わすステファニー。もちろん初めて会う令嬢ではあるがステファニーには全て頭に入っている。興味などなくともそれが王族の癖なのであろう。

対する令嬢らは流石は王女というべき品格と知性に驚き、感服する者まで居た。中にはそれが面白くなく何かを企む眼差しを向ける者が居たのも確かである。


ステファニーは一段落すると夜風に当たる為に庭に出た。少し冷たく感じる風がほろ酔いのステファニーを心地よくさせた。少し歩くとベンチに座る令息らの談笑が耳に届いた。



『どこが傲慢な王女なのだ?品格ある王女ではないか?全くこんな事なら王女が出戻った時にいち早く手を上げるべきだったな。』


天を仰ぐ令息に

『本当そう。アランは知ってたのか?たまたまか?』


隣の男は


『たまたまだろう?候爵家はそれ程困窮してるんじゃないのか?』



好き放題語る男たちの話しを聞き流しながらステファニーは反対側のベンチに腰を下ろした。



くだらぬ話題を聞き流しているとある男が

『君らはそれでもいいが私はそうはいかないからね。どこぞのお古など御免だよ…』

ステファニーは思わず振り返るとステファニーの唯一の弱点を攻めるのは主催の公爵家の公爵令息であった。


…。


ステファニーは静かに身を潜め声の主らが退散するのを待っていた。

静かになるのを確認するとステファニーは1人会場に戻る。出迎えたのは夫ではなく、先程までくだらぬ話しに花を咲かせていた公爵令息であった。



『これはこれはステファニー王女。』


敢えて白々しく王女と呼ぶこの男にステファニーは
笑顔で答える。


『まぁ、公爵令息ともあろうお方が…。私はステファニー・ランドルトと申します。以後お見知り置きを』

ステファニーはジュリラン王国において他には真似の出来ない優雅なカーテシーを敢えて披露した。


ステファニーは知っていた。確かにこの男の言うようにステファニーは純血では無いと思われているしそう思うのが普通だ。

だがこの世界で純血に拘る者も居るがそれが全てではない。そもそも政略結婚であるのに相手の純血など余程の身分でなければ問われない。少なくともジュリラン王国では問題はない。

一部それが絶対条件の王国もあるはある。だからこそフィリップはステファニーやイザベラに指一本も触れてはいない。そう考えるとフィリップは紛れもなく紳士である。

もちろん離縁後、再婚までの期間は厳密に定められてはいる。どちらの子どもか分からぬ跡取りを残さない為だ。



目の前のこの男はジュリラン王国公爵令息だ。王女であれば喉から手が出る程欲しかったはず。だが公爵令息というプライドからか自ら手を挙げる事はしなかった。むしろ必ず王命が来ると思っていたのだろう。だからこそ先程のセリフが出たのだとステファニーは解釈していた。


目の前の公爵令息は言葉を発する事が出来なかった。それは目の前のステファニーが見たこともない美しいカーテシーに負けず劣らない美しさで微笑んでいるからだ。


『…。』


『夫が探しているといけませんので』


ステファニーの後ろ姿をいつまでも見つめている公爵令息を遠くからアラン・ランドルトが見つめていた。













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