たまたま王太子妃になっただけ【完】

長い夜

オリヴィアは己の運命を呪った。こうも簡単にあっちへこっちへと駒の様に動かされる自分の運命を。

王族。外から見れば何不自由なく生活し煌びやかなドレス、豪華な食事、おとぎ話のお姫さま。そんなものそもそもおとぎ話の中だけである。

実際は自由もなく意思さえも通らない。オリヴィアは部屋を見渡しアナリスでの生活を振り返る。笑顔溢れる王宮。活気に満ちた街。思いを巡らせていると知らぬ間に涙が溢れてくる。


そうしていると、王宮にアレクセイが戻ってきたとの知らせが届けられた。きちんとした夫婦であれば真っ先に駆け込んで事の詳細を確認するのであろう。だが、オリヴィアには出来なかった。夫婦でありながら遠い存在のアレクセイ。いつも笑顔を向けてくれているアレクセイ。ただその笑顔こそがまだ妻とは認めていない証でもあった。


アレクセイからすれば別にオリヴィアでもステファニーでも構わないのだ。たまたまオリヴィアだっただけのこと。ジュリラン王女であれば構わないのだ。何故かは知らぬがフランツ帝国はオリヴィアを求めている。あの氷の皇太子の思惑など知らないけれど…。それでもオリヴィア個人を求めてくれるならそれでもいい気がしてきた。


そんな事を考えているうちに既に夜が明けていた。アレクセイはここに戻っては来なかった。


…これが答えだ。



オリヴィアは己の運命を受け入れ、最後の抵抗を見せるかのようにベッドを降りた。


私室に戻ると既にスザナが待機している。


『おはようございます。妃殿下。本日はジュリラン大王国の王太子殿下と王女殿下がお二人と謁見するとの事でございます。』


…お二人ね。アレクセイ殿下もご一緒なのね。


『スザナ、申し訳ないけど今日はいつもより菓樹なドレスでお願い。メイクもナチュラルに仕上げて。』


ここに来てからは王太子妃として作り上げられたオリヴィアであったが今日くらいは自分らしく最後を迎えたいと思ったのだ。


スザナは少し驚きを見せたがすぐに笑顔になり

『妃殿下のお好みを聞かせて頂き嬉しいですわ。ではそのように仕上げてみせます。』


アナリス大王国の優秀な侍女らによってオリヴィアは希望通りのオリヴィアとなりアナリス大王国王太子妃としての最後を逢えたのである。