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友となる

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『ハロ。』


ハロルドは久々に掛けられた懐かしい呼び名に振り返るとエミリアは幸せそうに産まれたばかりの王子を眺めていた。


『どうされた?』


ハロルドがエミリアを見るとエミリアは少しはにかみながらハロルドを見た。



『この子はね、産まれてくるまで居心地の悪い環境の中生きてきたのよ。だってそうでしょう?普通ならば、毎日のように両親にお腹を擦られ声を掛けられ幸せを感じながらお腹の中で大きくなるはずだもの…』


愛おしそうに我が子を眺めながらエミリアは呟いた。


『…王子の誕生はご両親だけではなく、私ももちろん、国中待ち望んでおりましたよ。』


エミリアは小さく笑うと

『そうね。この子はたくましく育ってほしいわ。』


『私ももう少し鍛えておかなければなりませんね。』


エミリアはコテンの首をかしげると


『すぐですよ。王子が何でもかんでも高い所へ登っていかれるのは。目に浮かびますからね(笑)』


エミリアはバツの悪そうに顔を顰めると


『否めないわね。』


通常に戻りつつあるエミリアを見守るハロルドはにこやかにエミリアの部屋を後にした。





コンコン。ノックの音ともに


『失礼します。』


ハロルドはヨハネスの執務室を訪ねた。
ヨハネスは待っでいたかのように立ち上がると


『ハロルド。来ると思ってたよ。さあ、入って』


ハロルドをソファに促すと自分も目の前に腰を下ろした。ヨハネスはハロルドを覗き込むようにして


『謝礼はいかがだったかな?期待外れではなかった?』


長い脚を組み替えるヨハネスに見惚れながらハロルドは


『失礼ながらお見それしました。』

深く頭を下げるハロルドにヨハネスは楽しそうに


『ハロルド、私の側近にならないか?』


…は?


固まるハロルドを眺めながらヨハネスは楽しそうに肩を揺らしている。



『本当面白いね。思っている事がすぐに出るもんね。』



…。


ハロルドはまたも冷や汗が額を湿らせている。



『アハハハ、私とて忠誠を誓っているリア王国を捨てるような男には興味ないからね?』


…いやいや誰もあんたの側近にはならないしね?



『ハロルド、心の声がだだ漏れだよ?』



…捨てねえしな?ったく何なんだよ。


ハロルドは怪訝そうにヨハネスを見る。



『ならばハロルド、私の友にならないか?』


…はぁ?



ハロルドはヨハネスの真意が読めず頭を巡らすも


…わけわからん!もお知らん。



『ハロルド、そうか我々はもう友なのだな?』



目を見開くハロルドに


『だって自分の姿を見てみろよ』


ハロルドはソファに沈み込み足を投げ出している。


…。


『分かる分かる。友の前であれば気も緩むしな?まさかそれがリア王国王太子の側近の態度であれば隣国王太子に対してあまりに不敬であろう?(笑)』



嬉しそうに話すヨハネスにハロルドは身を起こすと



『お望みとあらば』


ニヤリとヨハネスを見据えた。


ヨハネスは満足気に頷くと



『ところでさ、友として聞いてくれない?』

ヨハネスはハロルドに近づくと


『何?…ですか?』


『こんな事言わなくてもいいんだけどね?誰かに聞いてもらいたいんだ。エミリアはさ、私を女に狂う王太子だと思ってたと思うんだ。』


…まあ、そうだろうね?サル殿下と呼んでいたくらいだから。


『だけどさ、誓って私はエミリアを裏切ってはいなかったからね?』


『は?』


『そりゃあ媚薬に踊らされていたことは事実。だけどねその、あくまで首謀者をあぶり出す為であって狂ってなどいない。だから、その、まだ。』


『まだ?』



『純潔だよ。』





ハロルドはソファから崩れ落ちた。



『おい!』


『いやいや、純潔とは女性に使う言葉ですが』

ハロルドは身を起こしながらソファへと腰を下ろすと


『…その様なものだと言いたいだけだ。』

怪訝そうにヨハネスを見ながらハロルドは

『あのね、別に中に入っていようがいまいが、妃殿下への裏切りですよ?』


『違う!って違わないが私にとってはそれが最後の砦のようなものだったのだ。』




ハロルドはヨハネスに同情の視線を投げつけると


『此度もバルトス王女もあんなでしたし、殿下はつくづく女運が無いというか…』



ハロルドの視線を砕くように手で払い除けると


『あのね?マリアは関係ないよ。っていうか私は産まれながらの王太子。愛など恋など信じないからね。だって媚薬の件も初めはエミリアでさえ疑っていたくらいだよ?』


…妃殿下までも?


流石のハロルドもこればかりは引いている。



『ハロルド、お前も私と似たりよったりだと思うが?』


ハロルドは驚いたがニヤリと笑うと



『否定はしないね。』


2人は意味有りげに笑いあった。
すっかりお友だちである。






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