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王妃の心の傷

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王妃は握られた手を見つめながら息を静かに吐き出した。静まり返る空気を破ったのはエミリアであった。


『…何故。』


エミリアは王妃に問うた訳では無い。ただ1人事を呟いただけであったが静寂な空気の中無情にもその声は響き渡ったのある。


『積もり積もった嫉妬でしょうか?』

応えたのはジルベルトであった。王妃はジルベルトを大きな瞳で見つめた。その瞳孔は開き驚きを隠せない。その2人をヨハネスは黙って見つめていた。


『貴女は大きな誤解をしている。その小さな誤解を解くことをせず長い年月が流る中で婉曲して記憶として残っているんです。』


…。一同は静かにジルベルトの言葉を待つ。


『貴女は夫である国王陛下とヘルツベルト夫人の仲をただならぬ関係だと思っていた。そんな時にヘルツベルト夫人がエミリアを身籠った。生まれたエミリアは陛下と同じ左利き。左利きなんてそんなに珍しい事も無いが、疑心暗鬼に駆られる貴女には確信となった。その嘆きを何十年と心に溜め込みその矛先はエミリアに向かったという事でしょうか?』



…。


『お、お待ち下さい。』


言葉を挟んだのはマグヌスである。


『それならば私は?私も左利きです!それに私とエミリアは良く似ている。おヘソのカタチからホクロの位置まで。』


ほら?とシャツを脱ごうとするマグヌスを制すと公爵が


『薬指も同じ様に曲がっている。』


公爵は自分の左の曲がった薬指を見せた。マグヌスとエミリアも驚いたように薬指を確かめた。確かに曲がっている。エミリアとマグヌスは驚きながらもそんな所を父親が知っていた事に少し照れたように目を泳がせた。





『公爵家だけでなく、王家も良く似ている…

母上とヘンリーは瓜二つだよ。揃いも揃ってくだらない事で理解に苦しむ事をやってくれる。己の立場も顧みることなく…その愚かな行いにどれだけの者を巻き込む事になるかも考えず…』



ヨハネスはこの日初めて口を開いた。王妃とヘンリーは顔をしかめて俯いた。



『申し訳無い。』


そして国王もまたこの日初めて口を開いた。


『全ては私の責任だ。これほど長い時間、妃が苦しんでおった事にも気付かず不徳の致す所だ。』


国王の言葉により、場は再び静まり返るとエミリアが突如顔をしかめてうずくまってしまった。



『エミリア!』


エミリアを注視していた母親であるヘルツベルト夫人が駆け寄ると


『陣痛がきてるわ…』


焦るヘルツベルト夫人に王妃は


『まだ早すぎる時期だわ。』

経験者の2人を他所に男たちは戸惑いを隠せない。


『ヨハネス、宮廷医を手配なさい!早めの出産になっても良いように備えるのよ!』


ヨハネスは言われるままに頷くとすぐに手配をする。その後ろからジルベルトが何故だか付いて歩いている。


エミリアは母親であるヘルツベルト夫人に付き添われヨハネスの手配した部屋へと向かった。


騒然となっている中、ただ1人その場に相応しく無い者が居る。


『ねえ、コレどうするの?』


マグヌスの言葉にハロルドは急いでニコルを回収し衛兵へと引き渡した。幸いにもニコルはリア王国の公爵令嬢である。取り乱す事なく素直に衛兵と共に立ち去った。リア王国では媚薬の取り扱いには厳罰が待っている。その事実を知るニコルは黙って唇を噛んだ。





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