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側近の困惑

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 ケイダンは王太子執務室の前に並ぶ衛兵を横目に扉をノックする。


『ケイダン・リンドルです。』


『入れ。』


 王太子の返答を待って静かに扉を開き中に入ると既にソファに座っているハロルドの隣に腰を下ろした。見上げるハロルドは呆れたように


『律儀な事で…』


 ハロルドの悪態にジルベルトは

『ケイダンが普通なのだ。おかしいのはお前だぞ?ハロ。』



 ジルベルトこそ呆れた眼差しをハロルドに向ける。


『いやいや俺だってね?公式の場や陛下の前ではきちんと忠実な家臣なはずだよ?』


 何故か胸を張るハロルドにケイダンは


『ハハハ、まぁ私の態度でジルに迷惑を掛けたくないしね。』


 その言葉を聞いてジルベルトは声には出さないまでも口の動きでハロルドに

『み、な、ら、え!』


 ハロルドはバツの悪そうに視線を逸らした。



『それでどうであった?』


 ジルベルトがケイダンに視線を移すと



『うん、彼女はねマドリン王国では、絶世の…悪女と呼ばれているらしいんだ。』


 …。



『ケイダン、絶世ときたら美女であろう?』


 固まるジルベルトを他所にハロルドが突っ込むと


『うん、どうやら我々の知る彼女とマドリン公爵令嬢の彼女とでは隔たりがあるんだ。』


 腕を組み考え込むエイダンに


『んじゃ、ここでは猫被ってんの?ってかそんな風にも見えなかったよね?木登りするしな?妙だな…』


 こちらも考え込む…。



『彼女は公爵令嬢の時に仮面を付けるって事か…』

 呟いたジルベルトにハロルドは呆れたように


『仮面の種類、間違えてないか?普通は良く見せる為に装着するであろう?我々もそうするように…』


『社交界が苦手とか?』

 ケイダンの言葉にジルベルトは

『いや、社交界で見繕う必要がないのではないか?むしろ遠ざけたいとか?』


 …。


『…。でも彼女は王太子の婚約者なんだろ?』


 ハロルドは目の前のカップに手を掛けた。


『それなんだけど、彼女がここに来ている間、王太子妃候補の候補が置かれているらしいよ?』


『『王太子妃候補の候補?』』



 驚いた2人にケイダンも同調するかのように


『な?よくわかんないだろ?でも実際そうなんだ。しかもその令嬢に王太子は御執心らしい。ゆくゆくは側妃とするんじゃないかな?』



 驚いたハロルドは


『いやいや、待て待て。あそこは側妃は認められてはいないぞ?』


 頷くジルベルト。


 ケイダンは尚も



『でもさ、正妃を娶って一年程で正妃に懐妊の兆しが無ければ認められるだろ?』


 …。

『まさか…?』



『うん、そのまさかだと思うよ。』



 静まり返る執務室の静寂を破ったのはケイダン。


『でさ、絶世の悪女の実際の悪を調べたんだ。そしたらね、【自分に厳しいが相手にも厳しい。】【完璧主義】【群れをなさない。】【強調性が乏しい】とかなんだ。だから逆に良い所を調べたら【顔だけは美しい】【才女すぎる】【品位がある】だって。』


 呆れて首をふるケイダンに



『どこが悪なんだ?』


 ハロルドは至極全うに問うた。その答えはここにいる3人には見つけられなかったのである。




沈む執務室の静寂を破ったのはジルベルトであった。

『悪いがこの留学期間が終わる時期と同じくしてお前たちどちらかがマドリン王国へ留学へ行ってくれ。』


 ジルベルトの言葉に2人は仲良く揃って


『『はぁ?』』



 ジルベルトは気にする事無くソファを立ち上がるとデスクに戻った。



『何で?うちがマドリン王族にどうこうすることはないであろう?』


 ハロルドは奮起するもジルベルトは

『どうこうも何も、リア王国王太子として彼女を娶りにいく。』


 …?


『待て待て、彼女はマドリン王国王太子ヨハネス殿下の婚約者だぞ?そんな事したら国際問題になるぞ?』



 ジルベルトはニヤリと笑うと



『正攻法でいけばね?だけど私には優秀な側近が2人もいるからね?』


 …。

 …。


 固まり顔を見合わせる2人に



『王太子命令だ。』



 2人に緊張感が走る。


『あ、後この事は内密に頼むよ』


 笑顔に戻るジルベルトにハロルドは


『言えるかよ!こんな事…』



 頭を抱える側近2人であった。
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