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マリラン王女
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フランシスは生まれて初めて訪れた北帝国での生活を満喫していた。見たこともない雪景色。南に居た時のような華やかな雰囲気は皆無であるが、皇宮がある首都ザラに入るまでの道のりで見た北帝国は皆懸命に働き、幼き子どもたちと一緒になって働く親子などを目にし感銘を受けたのである。
もちろん、北帝国に属する王国らの争いがあるなど南では無い状況には不安もあった。
しかし富裕国の姫、とかくフランシスのような王女は生まれながら贅を尽くした日常がもはや当たり前となっており北帝国の現状に興味を覚えてしまったのである。
北帝国皇宮に仕える者らも、明るさには欠けるも実直で丁寧な仕事ぶりにフランシスは満足していた。南のような娯楽も少なく、質素な生活と言われればその通りなのであるが何故かフランシスはここでの生活に不満など一つも無かった。
『姫、そのような事はなさらずとも…』
侍女であるエリサが呆れたように声を掛けるとフランシスはワンピースを自ら袖を通し髪の毛を一つに縛り上げる。
『いいのよ!こんな事自分でやった方が早いもの。それにこちらの方が動き易くていいわ!さあ、今日も始めましょう』
フランシスはエリサを伴い掃除を始める。
『姫…このような事。殿下に見つかったら大変ですよ?』
『見つからなければいいのよね?大丈夫!そもそも私の顔なんて覚えていないわ』
フランシスは気にせず、懸命に窓を磨き上げる。
フランシスの磨き上げる窓は美しく輝いて後ろで困り果てているエリサの様子を写していた。
『エリサ、貴女を困らせたい訳ではないの。ごめんなさい。じゃあ、お詫びを込めて何かご馳走するわ!』
…ご馳走って。ここでは姫が行くようなレストランやカフェなど無いわ。
口に出せない思いを胸にエリサはフランシスの後を追うとフランシスは宮の厨房まで来るとぐるりと見渡し
『流石ね。よく管理されている。』
姫のご登場に固まる厨房、その奥から飛んできた料理長の男は深々と頭を下げ
『朝食に何かございましたでしょうか?』
フランシスは満面の笑みで
『いつも美味しいお料理ありがとう!ここもきちんと管理されているわ、清潔感が溢れていて安心して食事を頂けるわ。ありがとう!』
ありがとう…そんな言葉を描けられた事のない料理長は呆気にとられポカンと口を空いている。
『今からエリサにお詫びのクッキーを焼きたいの。』
エリサはひっくり返りそうにかりながらも
『姫!そのような事!』
『大丈夫、殿下がここに来る訳ないでしょう?』
フランシスは料理長を伴い奥に入って行くと
『さあ、先生?どうしたらあの焼き菓子ができるの?』
…知らんのかい!
あれほど自信あり気に話していたフランシスはお菓子などもちろん作った事などない。
『私は作った事がないの。っていうか王国では王女だったから作らせてなんて貰えないの。』
悲しそうに話すフランシスであるがここに居る今も尚、王女であることに変わりはない。
料理長はフランシスの熱意に負けフランシスにクッキーの焼き方を泣く泣く伝授したのである。
『見て!エリサ。お店で売られているのと遜色ないわ!』
フランシスの声に食堂からも侍従らが集まってくると驚いたようにフランシスを見た。
『見た所、売り物だな。』
『美味しそう、見た所!』
次々に上がる声に
『貴方たちも失礼ね。先生の教え子が作ったのよ?見掛け倒しな訳ないんだから!食べてみなさい!』
一斉に手に取り口に運ぶ侍従らを不安気に見守るフランシスに視線が集まり
『美味しい!』
第一声はもちろんエリサであった。
フランシスは隣の料理長に喜びあまって抱きつくと
嬉しそうに頭を下げた。
『先生、ありがとう。貴方は私の恩師だわ。』
…大袈裟だろ?
兎にも角にもフランシスは北帝国の厨房で侍従らの胃を掴んだのである。
喜びも束の間、その後、毎日のようにフランシスは厨房で師匠に教えを乞うていた。
…姫。そろそろバレますよ。
もちろん、北帝国に属する王国らの争いがあるなど南では無い状況には不安もあった。
しかし富裕国の姫、とかくフランシスのような王女は生まれながら贅を尽くした日常がもはや当たり前となっており北帝国の現状に興味を覚えてしまったのである。
北帝国皇宮に仕える者らも、明るさには欠けるも実直で丁寧な仕事ぶりにフランシスは満足していた。南のような娯楽も少なく、質素な生活と言われればその通りなのであるが何故かフランシスはここでの生活に不満など一つも無かった。
『姫、そのような事はなさらずとも…』
侍女であるエリサが呆れたように声を掛けるとフランシスはワンピースを自ら袖を通し髪の毛を一つに縛り上げる。
『いいのよ!こんな事自分でやった方が早いもの。それにこちらの方が動き易くていいわ!さあ、今日も始めましょう』
フランシスはエリサを伴い掃除を始める。
『姫…このような事。殿下に見つかったら大変ですよ?』
『見つからなければいいのよね?大丈夫!そもそも私の顔なんて覚えていないわ』
フランシスは気にせず、懸命に窓を磨き上げる。
フランシスの磨き上げる窓は美しく輝いて後ろで困り果てているエリサの様子を写していた。
『エリサ、貴女を困らせたい訳ではないの。ごめんなさい。じゃあ、お詫びを込めて何かご馳走するわ!』
…ご馳走って。ここでは姫が行くようなレストランやカフェなど無いわ。
口に出せない思いを胸にエリサはフランシスの後を追うとフランシスは宮の厨房まで来るとぐるりと見渡し
『流石ね。よく管理されている。』
姫のご登場に固まる厨房、その奥から飛んできた料理長の男は深々と頭を下げ
『朝食に何かございましたでしょうか?』
フランシスは満面の笑みで
『いつも美味しいお料理ありがとう!ここもきちんと管理されているわ、清潔感が溢れていて安心して食事を頂けるわ。ありがとう!』
ありがとう…そんな言葉を描けられた事のない料理長は呆気にとられポカンと口を空いている。
『今からエリサにお詫びのクッキーを焼きたいの。』
エリサはひっくり返りそうにかりながらも
『姫!そのような事!』
『大丈夫、殿下がここに来る訳ないでしょう?』
フランシスは料理長を伴い奥に入って行くと
『さあ、先生?どうしたらあの焼き菓子ができるの?』
…知らんのかい!
あれほど自信あり気に話していたフランシスはお菓子などもちろん作った事などない。
『私は作った事がないの。っていうか王国では王女だったから作らせてなんて貰えないの。』
悲しそうに話すフランシスであるがここに居る今も尚、王女であることに変わりはない。
料理長はフランシスの熱意に負けフランシスにクッキーの焼き方を泣く泣く伝授したのである。
『見て!エリサ。お店で売られているのと遜色ないわ!』
フランシスの声に食堂からも侍従らが集まってくると驚いたようにフランシスを見た。
『見た所、売り物だな。』
『美味しそう、見た所!』
次々に上がる声に
『貴方たちも失礼ね。先生の教え子が作ったのよ?見掛け倒しな訳ないんだから!食べてみなさい!』
一斉に手に取り口に運ぶ侍従らを不安気に見守るフランシスに視線が集まり
『美味しい!』
第一声はもちろんエリサであった。
フランシスは隣の料理長に喜びあまって抱きつくと
嬉しそうに頭を下げた。
『先生、ありがとう。貴方は私の恩師だわ。』
…大袈裟だろ?
兎にも角にもフランシスは北帝国の厨房で侍従らの胃を掴んだのである。
喜びも束の間、その後、毎日のようにフランシスは厨房で師匠に教えを乞うていた。
…姫。そろそろバレますよ。
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