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オリビア帝国復権まで1ヶ月-2
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さて、ここからだ。
国王の血を分けた王子たち。ハインリッヒは自分より先に生まれている5人の王子たちについては昔から接点も余りなく、むしろ苦手としている王子も居たのだ。
逃げた訳では無いが気のしれている第1王子のテオドールに視線を向けた。その思いを慮るテオドール。
『私は、これまで通りサルの世話に忙しい身故、これ以上望まれても困りますが』
ニヤリと笑うテオドール。相変わらずの通常運転に場が和む。
その隣の第2王子と第4王子の席は空いている。
第3王子もまたハインリッヒの気持ちを汲み取り口を開く。
『私もこれまで通り騎士団を束ねて参りたく存じます。西国騎士も交え、より一層オリビア帝国の騎士団を強化してまいる事をお約束します。』
『私も同じく兄上と共に騎士団の一員として働いて参ります』
第5王子も続けた。
2人に視線を向けたハインリッヒは軽く頷き謝意を述べた。
『ありがとう。心強いお言葉、承知した。』
短く答えた。ハインリッヒはこの2人には昔から助けられていた。特に仲が良かった訳ではないが、母親からの教えで子どもは如何様にも育つもの。恐らくは質の高い母君であったのであろう。
問題の2人はここには居ない。確かに招待状は出してあるにも関わらず居ない。
2人の母親は特に権力に固執しており、離宮でもいざこざが後を絶たなかったのを覚えていたハインリッヒは頭を悩ませていたのも事実。
場の空気が一転して重くなる。誰もが見つめる空席の2席。
口を開いたのはアルフレッドであった。
『ご報告があります。』
一斉にアルフレッドに視線が集中する。ハインリッヒも驚きを隠せない。
『欠席されているお方は現在王族からの除籍の手続き中でございます。』
『殺ったのか?』
咄嗟に口に出したのはウィリアムであった。血を分けた息子に対しての父親としての言葉であろう。公では決して見せないその態度にハインリッヒも驚いた。
『いいえ、あくまでご本人の希望故‥』
言いにくそうに続けるアルフレッド。
『お二人は皆様もご存知の通り、王族としてのお働きを為さってはおりませんでした。
今回お調べしました所、様々な事が出てきており公になるのも時間の問題。さすれば帝国復権の際、厄介な事にもなりましょう。
王族は特権を持ち得ておりますが、しかしそれは相応の責任も持ち合わせているということです。』
頷く一同。
『まずは第4王子でございますが、こちらは不正取引がございます。
私利私欲の為の取引は言語道断。それも麻薬密輸とならば本来ならば極刑。
公となる前に除籍し平民となれば事を解決させれば極刑は免れましょう。ご本人に選択の余地はございませんでしたが、除籍を望まれております。』
黙り込む一同。
『続いて第2王子でございますが、持ち前の美貌をふんだんに活かし、様々なご令嬢とお付き合いをしており中には平民の娘もございました。
よくあるお話ではありますが、無駄に王族の血が増えるのもまたよろしくありません。
そんな王子が多く存在するのは混乱の火種。誕生してからではその王子もまた被害者となりましょう。
しかし、彼は違法行為を犯してはいない。皇族として皇帝に忠誠を誓うのであれば問題はございませんでしたが、彼は驚く程権力に固執されておりました。』
悩み込む一同。
『ここからお話しすることは皆様の判断に委ねる所存でございます。
私はまだ西国王太子。越権行為と言われればその通り。
彼は継承順位をハインリッヒ殿下の次の第2は譲れないということでございました。私の継承順位がどこに入るかは別としてもまだ皇帝からの正式発表前にも関わらずの発言。
ましてはオリビア帝国復権前の今そのような事を仰る意味が私には理解できませんでした。
そして彼はこう言ったのです。
歴史は繰り返されると‥
西国王太子の私と東国王太子の殿下が帝国復権の際、表舞台に立つ真ん中にリデュアンネ様が立つ。
どちらの王太子妃かもわからぬ女が皇后として立つのが滑稽だと‥
現在はまだ彼は東国王族。東国では正妃の息子でなければ継承権がありません。失礼ながらただの王子。一方の私は現在西国の紛れもなく王太子であります。不敬罪として西国にて裁きを求めます。
それが彼の王族除籍であります。』
アルフレッドはこの除籍という処分をあくまで東国ハインリッヒ王太子ではなく西国の王太子として下すという点に拘ったのだ。同じ国王の血を分けたハインリッヒの手を汚す事なく事を終えたい。
見渡すアルフレッドに視線が集まっている。様々な思いが交差する視線を一身で受け止めていた。
じっと目を閉じて聞いていたハインリッヒがゆっくりと目を開き口角を上げた。
『アレクセイ殿。貴方は先日、愚息はご自分にそっくりだとおっしゃいましたね。
愚息などでは無いではありませんか?
むしろ貴方よりも優れていらっしゃるのでは?』
苦笑いのアレクセイに今度はウィリアムが口を挟む。
『間違いない!アレクの息子はアレク以上だ。私にこそ愚息が2人もおったのだな。父親としては情けなくもあるが傷口を広げる前に処置を施してくれたアルフレッドに感謝する。
そしてまた、アルフレッドの力を誰よりも早く気付き側近に置く我が息子の父親はこの私だ』
ウィリアムは吹っ切る様に大きく笑った。
こうして王族一同にしてアルフレッドの判断を支持し王太子としての最後の仕事にアルフレッドは最上級の礼を取り席についた。
ハインリッヒの弱い所を既にアルフレッドは察知し対処していたのだ。彼はやはり王太子として優秀な逸材である事は証明された。
この場に置いて、オリビア帝国皇族の力は1つになり皇帝への忠誠を誓った。
貴族の忠誠の前に皇族の忠誠。これはかつての英雄の残した言葉でもあった。
国王の血を分けた王子たち。ハインリッヒは自分より先に生まれている5人の王子たちについては昔から接点も余りなく、むしろ苦手としている王子も居たのだ。
逃げた訳では無いが気のしれている第1王子のテオドールに視線を向けた。その思いを慮るテオドール。
『私は、これまで通りサルの世話に忙しい身故、これ以上望まれても困りますが』
ニヤリと笑うテオドール。相変わらずの通常運転に場が和む。
その隣の第2王子と第4王子の席は空いている。
第3王子もまたハインリッヒの気持ちを汲み取り口を開く。
『私もこれまで通り騎士団を束ねて参りたく存じます。西国騎士も交え、より一層オリビア帝国の騎士団を強化してまいる事をお約束します。』
『私も同じく兄上と共に騎士団の一員として働いて参ります』
第5王子も続けた。
2人に視線を向けたハインリッヒは軽く頷き謝意を述べた。
『ありがとう。心強いお言葉、承知した。』
短く答えた。ハインリッヒはこの2人には昔から助けられていた。特に仲が良かった訳ではないが、母親からの教えで子どもは如何様にも育つもの。恐らくは質の高い母君であったのであろう。
問題の2人はここには居ない。確かに招待状は出してあるにも関わらず居ない。
2人の母親は特に権力に固執しており、離宮でもいざこざが後を絶たなかったのを覚えていたハインリッヒは頭を悩ませていたのも事実。
場の空気が一転して重くなる。誰もが見つめる空席の2席。
口を開いたのはアルフレッドであった。
『ご報告があります。』
一斉にアルフレッドに視線が集中する。ハインリッヒも驚きを隠せない。
『欠席されているお方は現在王族からの除籍の手続き中でございます。』
『殺ったのか?』
咄嗟に口に出したのはウィリアムであった。血を分けた息子に対しての父親としての言葉であろう。公では決して見せないその態度にハインリッヒも驚いた。
『いいえ、あくまでご本人の希望故‥』
言いにくそうに続けるアルフレッド。
『お二人は皆様もご存知の通り、王族としてのお働きを為さってはおりませんでした。
今回お調べしました所、様々な事が出てきており公になるのも時間の問題。さすれば帝国復権の際、厄介な事にもなりましょう。
王族は特権を持ち得ておりますが、しかしそれは相応の責任も持ち合わせているということです。』
頷く一同。
『まずは第4王子でございますが、こちらは不正取引がございます。
私利私欲の為の取引は言語道断。それも麻薬密輸とならば本来ならば極刑。
公となる前に除籍し平民となれば事を解決させれば極刑は免れましょう。ご本人に選択の余地はございませんでしたが、除籍を望まれております。』
黙り込む一同。
『続いて第2王子でございますが、持ち前の美貌をふんだんに活かし、様々なご令嬢とお付き合いをしており中には平民の娘もございました。
よくあるお話ではありますが、無駄に王族の血が増えるのもまたよろしくありません。
そんな王子が多く存在するのは混乱の火種。誕生してからではその王子もまた被害者となりましょう。
しかし、彼は違法行為を犯してはいない。皇族として皇帝に忠誠を誓うのであれば問題はございませんでしたが、彼は驚く程権力に固執されておりました。』
悩み込む一同。
『ここからお話しすることは皆様の判断に委ねる所存でございます。
私はまだ西国王太子。越権行為と言われればその通り。
彼は継承順位をハインリッヒ殿下の次の第2は譲れないということでございました。私の継承順位がどこに入るかは別としてもまだ皇帝からの正式発表前にも関わらずの発言。
ましてはオリビア帝国復権前の今そのような事を仰る意味が私には理解できませんでした。
そして彼はこう言ったのです。
歴史は繰り返されると‥
西国王太子の私と東国王太子の殿下が帝国復権の際、表舞台に立つ真ん中にリデュアンネ様が立つ。
どちらの王太子妃かもわからぬ女が皇后として立つのが滑稽だと‥
現在はまだ彼は東国王族。東国では正妃の息子でなければ継承権がありません。失礼ながらただの王子。一方の私は現在西国の紛れもなく王太子であります。不敬罪として西国にて裁きを求めます。
それが彼の王族除籍であります。』
アルフレッドはこの除籍という処分をあくまで東国ハインリッヒ王太子ではなく西国の王太子として下すという点に拘ったのだ。同じ国王の血を分けたハインリッヒの手を汚す事なく事を終えたい。
見渡すアルフレッドに視線が集まっている。様々な思いが交差する視線を一身で受け止めていた。
じっと目を閉じて聞いていたハインリッヒがゆっくりと目を開き口角を上げた。
『アレクセイ殿。貴方は先日、愚息はご自分にそっくりだとおっしゃいましたね。
愚息などでは無いではありませんか?
むしろ貴方よりも優れていらっしゃるのでは?』
苦笑いのアレクセイに今度はウィリアムが口を挟む。
『間違いない!アレクの息子はアレク以上だ。私にこそ愚息が2人もおったのだな。父親としては情けなくもあるが傷口を広げる前に処置を施してくれたアルフレッドに感謝する。
そしてまた、アルフレッドの力を誰よりも早く気付き側近に置く我が息子の父親はこの私だ』
ウィリアムは吹っ切る様に大きく笑った。
こうして王族一同にしてアルフレッドの判断を支持し王太子としての最後の仕事にアルフレッドは最上級の礼を取り席についた。
ハインリッヒの弱い所を既にアルフレッドは察知し対処していたのだ。彼はやはり王太子として優秀な逸材である事は証明された。
この場に置いて、オリビア帝国皇族の力は1つになり皇帝への忠誠を誓った。
貴族の忠誠の前に皇族の忠誠。これはかつての英雄の残した言葉でもあった。
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