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オリビア帝国復権まで1ヶ月

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オリビア帝国復権まで残り1ヶ月となった頃の、両国王家が集結していた。

準皇族となる者は省かれ、現東西の王家のみである。

東国元国王のウィリアム、同じく東国元王妃のキャサリン。

西国国王のアレクセイ、同じく王妃のデイジー。

東国王子たちと、西国王太子のアルフレッド。

そしてハインリッヒとリデュアンネ。

和やかな雰囲気の中、晩餐会が開かれていた。

『皆、私の話しにしばらくの間、耳を傾けてはくれぬか?』

一斉にハインリッヒに視線が集まる。

『これまでのご苦労、痛み入ります。まずは父上。』

ウィリアムに視線を送る。

『貴方の国王としてご苦労、息子として頭が下がります。オリビア帝国復権までのこの道筋を立てて頂きました事、誇りに存じております。必ずや過去の栄光をも超えてみせます。』

ウィリアムはゆっくりと頷いた。

『母上。幼き頃から貴女とテオドールに支えられ今日の私がございます。私は貴女の息子として生を受けた事に感謝します。しかし、貴女と西国国王の志しには個人的には支持し尊敬もしておりますが、東国王太子としては、言語道断。父上を苦しめたのはお二人であるということは今後もお忘れなき様にお願いいたします。』

息子であるハインリッヒの言葉を深く受け止め静かに頷いたキャサリン。ハインリッヒは反対側に向き直し西国国王であるアレクセイに視線を移す。

『西国国王、貴方の国王としてのお働き隣国より拝見しておりました。国を束ねていく王としての力量には感服しております。そしてオリビア帝国復活を志す熱意にもまた同じく頭が下がります。がしかし母上同様、結果的に多くの者を苦しめた元凶であることもお忘れなき様にお願いいたします。』

血を分けた息子かも知れないハインリッヒからの重い言葉を真摯に受け止め丁寧に答える。

『承知しております。』

少しの沈黙の後、ハインリッヒは西国王妃であるデイジーにゆっくりと視線を移した。

『私は今回誰よりも貴女にお話したいと思っておりました。』

目を軽く見開いたデイジーは軽く微笑み頭を下げる。

『貴女もまたこの御三方同様、オリビア帝国復活を志として持っておいでであったのでしょう。そして誰よりも苦しまれた事と存じます。

それこそ初めはお飾りの様に西国に入られた貴女を待っていたのは、他の女性を想う国王。それでもオリビア帝国復活の為に王子を産んだ。

本来ならばそれに続き多く子どもを設けるのが王族。正妃に出来なければ側妃なども考慮される中それを許さなかった聞きます。

それは国王の独占ではなくただただオリビア帝国復活の際、継承権で揉める事を危惧されたのでしょう。

私はこうして今日をむかえた今、貴女のそのお考えが間違いなく功を奏したと思っております。

こうしてアルフレッドは今やオリビア帝国の宰相として帝国を支える立場となります。誰よりも私は貴女に感謝しておりますよ。

それは今に始まった事ではありません。兼ねてより感謝申し上げたく思っておりましたが、私も東国王太子。今まで口にすることなど許されません。

貴女の息子であるアルフレッドは既に西国王太子。ならば貴女と血を分けた妹君の息子に思いを託しました。それが我妻の側近、カイン・パーカーでございます。優秀な男でございますよ。』

ハインリッヒは深く頭を下げた。デイジーは美しい大きな瞳より大粒の涙を流していた。今まで誰にも打ち明けていなかった心内をすっかり理解し思いやるハインリッヒから向けられた言葉、自然に涙が流れ出る。

『‥ありがとうございます』

絞り出した言葉はこれ以上続かなかった。

そしてハインリッヒはデイジーの言葉とその後の余韻をしっかり受け止め、隣に座るアルフレッドに視線を向けた。

『アルフレッド、貴方と私は皮肉にもこの帝国復活に振り回された同じく王太子として生きてきた。

血を分けた兄弟か否か。それは誰にも分からぬ。がそんなことはどうでも良い。貴方の強みも弱みを知った今、私の強みも弱みも知ってもらいたいと思っている。

‥力を貸してくれ、アルフレッド』


強い視線をしっかり受け止めアルフレッドは真っ直ぐハインリッヒを見据え大きく頷いた。

『勿体ないお言葉。』

誰よりも嬉しそうに見つめるのは母親であるデイジーであった。

次にハインリッヒは、奥に座る東国王子たちに視線を向けた。先程までの重い空気感が一気に軽くなるのを誰もが感じる。

手前から第1王子であるテオドールから順に並んでいる。敢えて1番奥の第8王子に視線を送る。ハインリッヒは第6王子である。正妃の唯一の息子である。その後に生まれた第7王子と第8王子に対して重い言葉が告げられた。

『まずはお前たちには罪は無い。しかしお前たちに流れる血は王族であるか否かが定かではない。色々な事情を加味された上での王子となる。

父上はそれを了承していたので何の問題もないが、帝国となり私が皇帝となるこれからは了承できない。

よって準皇族となり帝国を支えてもらうかどうかと考えているが、お前たちの考えを聞きたい。』

ゆっくり語るハインリッヒにまず口を開いたのは第8王子。

『承知しております。私は既に母を亡くしております。恐らく私の父親は絵描きであったと‥それ故私も幼き頃より絵を好んでおります。これからは世界中をまわり絵を描きたく存じます。』

ハインリッヒは頷きながら言う。

『承知した。これまでご苦労であった。功績としてお前が死ぬまで絵を描き続けられる様に取り計らう事を約束する。立派な絵描きとなりいつか私の姿絵を頼む。』

ハインリッヒはそっと隣に視線を移す。

『わ、私は‥』
吃る王子を急かす事なく待つハインリッヒ。

『あの、出来ましたら王宮雅楽団に所属出来れば‥』

優しく笑みを零すハインリッヒ。

『よい、そちらも私が取り計らう故案ずるな』

まだ幼い王子に皆、優しく視線を向ける。俯く王子は真っ赤になり汗をかいている。王子の母親に関しては王宮においておく訳にはいかないがそれ相応の計らいをする事になるだろう。






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