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素直な気持ち

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広いバスルームに大きなバスタブ。ヴィクトリアは侍女らを伴わず一人で入浴する。入浴だけでなく一人で出来る事は可能な限り一人で熟す。それはいつまでこの王太子妃という立場でいるかどうが未定だからである。


この日も夜会を終え一人バスタブに沈む。


…疲れた。この先どうなっちゃうんだろう。


ヴィクトリアは元来仕事に追われるなどやるべき事に追われる時間が好きだった。それは達成感だけではなくその過程が何とも言えないのである。だからこの時のヴィクトリアは体力的な疲れではなく心労からであったのだ。

バスタブでぼぉ~としていると余計な事を考えるから疲れる。別にこの世界にやって来て敵対されていたアレクセイとようやく普通になっただけの事である。それが最近自分が変になったのが分かるのだ。

心は乱れ、涙腺はゆるくなり何より欲張りになりつつある自分が嫌であった。

大丈夫、何も変わらない。と言い聞かせても暴走しつつある気持ちに蓋をするのにはもはや限界なのかもしれない。


それに何より2人は子作りをしていない。この状況が良いわけがない。側妃が召し上げられるのも時間の問題なのも分かっている。


側妃とアレクセイの子どもを受け入れらるであろうか。逆に政略結婚ならば当たり前ではあるが心も通じ合えないままに子作りする事もまた憚れる。なぜならヴィクトリアは生まれながらの貴族令嬢ではないからだ。


ヴィクトリアは同じ事を毎晩考えながらのぼせるまでバスタブに浸かっている。この日も手足がシワシワになるまで浸かって頭がクラクラするのを覚えてバスルームを出た。



『お疲れ、ヴィクトリア。』


アレクセイが夫婦の寝室のベッドに腰を下ろしている。


…。



瞬きするもヴィクトリアはのぼせている為、思考回路が停止中である。真っ直ぐに見つめるアレクセイの視線を受け段々現実が受け入れられるようになってきたヴィクトリアは慌ててバスルームに戻ろうとするもアレクセイはヴィクトリアの腕を掴んで引き寄せた。


『申し訳ありません。殿下がいらっしゃるとは知らず…失礼しました。すぐに、すぐに着替えてまいります。』


バスローブの紐をしっかりしめアレクセイから離れようとするもアレクセイはヴィクトリアを離さなかった。


アレクセイはなぜだか苦しそうにヴィクトリアをみつめている。


…なに?


ヴィクトリアは不安そうにアレクセイを覗き込むと


『ヴィー。』


…え?これは『はい』か?


『何でしょう?』


『私は混乱しているよ。』


…それを言うなら私も…。


アレクセイはヴィクトリアから手を離すと再びベッドに腰を下ろし静かに語りだした。


『私はね、これでも与えられた使命は果たしてきたつもりであった。幼い頃から…。私には兄弟が居ない。だから私に何かあったら重大だと言い聞かせられ育ってきたんだ。だからね?従順な子どもだったよ。』


…そうですか。


ヴィクトリアは黙って耳を傾ける。

『その反動からかな?私と同じように従順なお人形のようなステファニーを見ると辛かった。だからその時に出会った君がとても眩しく私には写ったんだ。』


…苦情?

以前のようにまた…ヴィクトリアは不安そうに見つめていた。


『だから君の魂胆を見抜けなかった…』


…魂胆って。やはり苦情だわ。私じゃないけど私なのよね?


『だけどね私には責任がある。例え自由奔放な君でも受け入れるつもりであった。だけど君の行動を見ていてようやく目が覚めた。時既に遅しだけどね?だからアナスタージアに側妃をお願いする事になった。』


…今更だわ。知ってるし。


ヴィクトリアは段々不機嫌になりつつあった。


『だけど君が病に倒れて記憶を失った君は私の知るヴィクトリアではなかった。それでもまともになったのならばそれで良いと思っていたんだ。』

…それはどうも。


ヴィクトリアは感情コントロールが出来なくなりそうにならながらも黙ってアレクセイの次の言葉を待った。


長い沈黙の後


『ヴィ、私は君との真実の愛は無かったと思っている。』


…知りませんが?


『だけどね記憶を無くした後のヴィには…』


…?なに?


『私は二人のヴィと出会ったのだ。』

流石のヴィクトリアもわけがわからず


『殿下、お話しが見えませんわ。』

ヴィクトリアはアレクセイの隣から立ち上がろうとした時アレクセイはヴィクトリアを抱き込んだ。


『ちょっと!』


もはや地のままの返しにアレクセイは驚きもせず抱き込んだヴィクトリアに


『すまない、思考回路がどうかしてる。ただ私は君を手放す事は出来そうにないんだ。何だかよくわからないんだけど胸が痛いし頭の中もグチャグチャだし、どうしていいのか分からないんだ。』



『殿下…それ私も同じです。』


アレクセイはヴィクトリアを胸から解放するとヴィクトリアの肩に両手を置き

『君も?これの正体はなに?』


『それは私が聞きたいです。記憶を無くし目が覚めたら敵対心丸出しの殿下がいらして、混乱したのは殿下だけではありませんわ。私とてどうやっていきていこうかと悩みましたもの。ですが過去を聞き悔やんでいても何も変わらない。ならばせめて今出来る事をと必至に取り組んで参りました。殿下の、王宮の、この国のご迷惑にならないようにと。それだけでしたわ。なのになぜだか変なのです!』



『何が?』


『目が覚めた私にとって元々殿下との真実の愛など存在しません。だから失うものも無いはずなのに…』


『なのに?』



『胸が痛くて、頭がグチャグチャで、涙腺もゆるくなるし、自分が自分でなくなりそうなのです!』


抑えていた感情が吹き出しヴィクトリアは大粒の涙で頬を濡らした。アレクセイはその涙をじっと見つめているとボソッと呟いた。


『これこそが真実の愛かもしれない…』


ヴィクトリアは驚いたように顔を上げるとアレクセイは優しく微笑み


『ヴィ、またやり直そう。いや違う。君はヴィとは別人という事でいまから二人で真実の愛を育んでまいろう。』


頭が追いつかないヴィクトリアは真剣に離すアレクセイに思わず素直に呟いた。


『ヴィは嫌です。』


『…うん?』


『殿下の呼ぶヴィは私じゃないみたいなのです。まるで他の方みたいで…』



…。



アレクセイはじっとヴィクトリアを見つめているとヴィクトリア堪らず

『そんなに見ないで!とにかくヴィは私は知らない。自分なのだろうけれど自分に嫉妬するみたいで嫌なのです!』


はっとしたアレクセイはすぐに破顔させヴィクトリアを抱きしめた。


『ならば…ヴィッキーは。駄目駄目。』


頭に浮かぶハロルドをブンブンと抹消し


『ヴィクトリア、ヴィクトリア、トリアだ。うん、ヴィクトリア、トリアでどう?』


ヴィクトリアは嬉しそうに呟いた。


『トリア…♡』

嬉しそうに微笑むヴィクトリアの笑顔がこの上なくアレクセイはいきなりヴィクトリアへ軽いキスを落とした。


真っ赤になるヴィクトリアの表情は今のアレクセイを自制させるには高いハードルであった。


『ごめん、無理。トリアが悪いんだからね?』


そう言うとヴィクトリアを組み敷き驚いたヴィクトリアを見つめた。

声にもならないヴィクトリアの驚きを楽しむように眺めながら仕事の早いアレクセイはヴィクトリアのバスローブを手早くはだけさせていた。



『そんなに驚かないで。私はヴィクトリアの夫だよ?いけない?』


…いけことはないんでしょうけど。

返す言葉が見つからないヴィクトリアに

『反論なしね?』


アレクセイはヴィクトリアに優しく唇を重ね二人の夜は明け方まで続いたのである。



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