『婚約破棄から始まる物語』へ転生したってか？

３人の時間

エドワードが出ていくとしばらくの静寂が流れていた。1つ息を吐くとアレクセイは徐ろに立ち上がるとソファへと移り背中を預けた。


『レイモンド、我が国に於いて金は外交において大きな武器であるな？』


レイモンドは背筋を伸ばし

『もちろんです。』

間髪入れずにアレクセイは更に

『王宮に計上される前に抜くなど言語道断だよな？』


『はい。』

とだけ答えアレクセイの前までくると最上級の礼を取る。

『如何なる罰も覚悟の上です。』


驚いたヴィクトリアは咄嗟に口を挟んだ。


『待って！違うわ！違います！レイモンドは止めました。間違いなく私へ金を手渡すようにと手を差し出しましたわ！それを私が勝手にマリアの小さな手に戻したのです。ですから罰せられるのはこの私です。』

興奮するヴィクトリアと毅然と頭を垂れるレイモンドを交互に眺めながら


『だれもそんな事言ってないよ。レイモンド。お前がトンプソン領へ同行する前のお前であれば此度の件、同じようになったと思うか？』



…。


…？。


黙りこくる２人にアレクセイは自ら答える。




『なってないよ、ならないよ！お前ならば女狐の尻尾を取ったかのように奮起して誰よりも先に金を片手に王宮に戻ってるさ。』



…め、女狐？って。殿下まで…もう少しどうにかならないかしら？愛称ならもっとあるでしょうに…。


ヴィクトリアは心の中で不貞腐れながらアレクセイの話を聞いていた。



『…。そうかもしれませんね。』


『そうかもしれませんね、じゃなくてそうなの！だいたいね新婚ごっこなんてやってるからだよ！』



…？


…またそこ？



仲良く押し黙る２人にアレクセイは


『で？進捗は？私としてはそちらの方が気になるよ。』



ヴィクトリアは思い出したかのように頭を垂れると


『殿下、ありがとうございました。私がトンプソン領へ行けない間に王宮から多くの者を派遣頂き、今回トンプソン領に入って驚きましたわ、ほとんど道筋が立ちましたの。』


アレクセイは1つ頷くと


『トンプソン領は我が国の領地だからね。発展を止めるわけにはいかないか。王太子として当然の事をしたまでだよ。』



穏やかに語るアレクセイは何度も頷き安堵していた。