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第三章
閑話1 桃季壊れるの段4
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「桃季、テメーまじで覚えてろよ」
「・・・・・・・一年分食事代払わないからな」
二人はお冠で、それでも着々と準備を整えている。
昔の忍び装束は正直、布擦れの音がして現代では不向きだ。俺たちが普段使用する装束は黒に近い緑のラバー製だ。ラバーは擦れる音を軽減するが身体にまじで超フィットするため、体型が綺麗に出てしまう。
それで、自分の身を引き締めているのは確かなのだが。
あと、忍びとしては「黒」は絶対にあってはならない。『黒』は逆に闇夜では浮いてしまい目立つのだ。深緑がベストなのだ。
だが、今着ている装束は真っ黒で布の擦れる音がする。
ノーだ!
現代人(・・・)ならば実際の忍びを真似ることなどできはしないのだ。本当に普通の人間ならばな。
「つか、動きにくいな、この衣装」
「ですね。口元も苦しいですし」
「昔の忍びって本当にこんなの着てたのか?」
と、疑問に思いながらも本当にご先祖様を尊敬する。
俺たちはちょっと台本を読んで、進行を確認していると
「出番です!!気負わないでやっちゃってください!」
と、スタッフから声がかけられたので、仰々しく、そして忍びらしく宙返りで登場したのだった。
その途端、
「凄い!!!」
「凄すぎだろっ!!!」
「何だよあのアクロバティック!!」
と、かなりの賞賛の声が俺たちの耳に届けられた。
「すげーーーーーっ!!!」
「こんなのイベントで見られるなんて!」
「舞台でも見たことねーよっ!」
キンキン
シュバッ!
金属音がぶつかる音、素早い身のこなし、臨場感溢れる会場はいつの間にか、観客で溢れかえっている。
「あの蹴りを見事に躱すしなやかさ!」
「咄嗟に避けられる身のこなし!」
「アクション俳優やスタントマンでも見られないぞ!!」
わーーと熱狂する会場には、どこから嗅ぎつけたのか、たまたまこの施設に訪れていたテレビクルーに撮影されることになり、一躍桃季たちは全国に顔を映されるが、もちろん顔ばれされるようなヘマはしない。
微妙な角度でカメラから外れ、徹底的に3人は顔を映さないよう心がけ、テレビクルーも必死になって彼らを撮影しようとするが無駄な努力で。
しかも、そのテレビクルーを邪魔するかのように、
「ね~貴方たち、彼らに撮影して良いかちゃんと聞いたの?」
「へ?」
と、菖蒲が問いかけるが、
「そんなもんいるかよっ!テレビに映るんだ!ありがてーと思えっ!」
だと、宣うので、
「あら、もし彼らが『映りたくなかった』と言ったら賠償金貰えるんでしょうね?」
「は!テレビに出られるんだ!喜ばしいことだろうが!」
と、何とも厚かましく傲慢な考えに菖蒲はカチンときて、
「そう・・・・・・・・。じゃ、私も参加してくるわね」
「は?」
一瞬でその場から消えた気配にテレビクルーは驚いたのだった。何故気配か?
それは彼らは菖蒲の姿を見ることもなく、罵倒し、傲慢な態度で一途に桃季たちを撮影していたからだ。
そ~と気配があった後ろを見ても、そこには何もなくて。あるのは壁のみ。
どこから一体声がしていたのか。
彼らと壁の隙間は、観客が溢れかえっているためなかったのに。
背筋を這うような寒さを感じた途端、会場から「わーーーーーーーーーーー」という歓声が轟いた。
舞台には忍びの衣装を着た俳優が2人も増えていたのだ。
その事実をテレビクルーは受け入れた途端、カメラを降ろし、撮影を止めた。
何故なら、首筋にひやりと冷たい水滴が止めどなくこぼれ落ちるからだ。
絶対的な恐怖が身を包んだのだ。
撮影を止めなければ、「消される」と・・・・・・・・・。
本能が身体に伝えたのだった。
脱力してしまったテレビクルーの姿を不思議に思う観客もいたが、だが、それだけだ。
桃季たちの素晴らしい演技を見るために、テレビクルーへの興味は素早く失せたのだった。
「ありがとうございました!!!素晴らしい舞台でした!!!」
開演が終わり、更衣室で着替えを済ませると、イベントの主催者が俺に頭を下げていた。
あ、ちなみに俺ら少し変装しているからな!
後々、めんどいことになりたくねーからな。
翠蓮と竜胆はカツラをつけ、俺は色を変えている。
菖蒲と葵はいつの間にか姿を消していた。
さすが忍び!!!
「謝礼を本来はすべきなのでしょうが・・・「いや、いい。俺たちが勝手に手伝っただけだ」
言葉を遮られた主催者はホッとした表情を浮かべ、そして、俺にチケットらしい物を渡してくる。
「そう言って戴けると助かりますが、『なし』とはいきませんので、こちら提携するホテルのディナー券になります。本日から1年の有効期限を設けさせて戴きましたので、是非お時間のあるときにご利用くださいませ」
「・・・・・・・・・・・・・・・まじでっ!?」
それを受け取り、チケットに書かれている内容を確認すると、季節によって内容が異なるらしい。イタリアンだったりフレンチだったり。中華だったり、南米料理だったり。
すんげ~~~ご褒美じゃねーーーかっ!
「俺にとってこれが一番有り難い!出た甲斐あったわ!!」
「そ、そうでしたか!!!1枚で4人までですが、どうぞお使いくださいませ」
丁寧に俺たち3人に1枚ずつくれたのだった。
3枚だから12人か・・・・・・・・・。
有効期限も1年あるし。
再びフィルハートの者たちがこちらに来たときに、行ってもいいな。と思っている自分がいる。
つまり、彼らを俺は受け入れた証拠だ。
大切な翠蓮を泣かしたあいつらを受け入れたのだ。
自分でも気付かないうちに彼らを信用してしまっていたのだ。
『翠蓮が愛した人たちだから』というたったそれだけの理由で。
「は!俺も甘くなったもんだな」
「・・・・・・・一年分食事代払わないからな」
二人はお冠で、それでも着々と準備を整えている。
昔の忍び装束は正直、布擦れの音がして現代では不向きだ。俺たちが普段使用する装束は黒に近い緑のラバー製だ。ラバーは擦れる音を軽減するが身体にまじで超フィットするため、体型が綺麗に出てしまう。
それで、自分の身を引き締めているのは確かなのだが。
あと、忍びとしては「黒」は絶対にあってはならない。『黒』は逆に闇夜では浮いてしまい目立つのだ。深緑がベストなのだ。
だが、今着ている装束は真っ黒で布の擦れる音がする。
ノーだ!
現代人(・・・)ならば実際の忍びを真似ることなどできはしないのだ。本当に普通の人間ならばな。
「つか、動きにくいな、この衣装」
「ですね。口元も苦しいですし」
「昔の忍びって本当にこんなの着てたのか?」
と、疑問に思いながらも本当にご先祖様を尊敬する。
俺たちはちょっと台本を読んで、進行を確認していると
「出番です!!気負わないでやっちゃってください!」
と、スタッフから声がかけられたので、仰々しく、そして忍びらしく宙返りで登場したのだった。
その途端、
「凄い!!!」
「凄すぎだろっ!!!」
「何だよあのアクロバティック!!」
と、かなりの賞賛の声が俺たちの耳に届けられた。
「すげーーーーーっ!!!」
「こんなのイベントで見られるなんて!」
「舞台でも見たことねーよっ!」
キンキン
シュバッ!
金属音がぶつかる音、素早い身のこなし、臨場感溢れる会場はいつの間にか、観客で溢れかえっている。
「あの蹴りを見事に躱すしなやかさ!」
「咄嗟に避けられる身のこなし!」
「アクション俳優やスタントマンでも見られないぞ!!」
わーーと熱狂する会場には、どこから嗅ぎつけたのか、たまたまこの施設に訪れていたテレビクルーに撮影されることになり、一躍桃季たちは全国に顔を映されるが、もちろん顔ばれされるようなヘマはしない。
微妙な角度でカメラから外れ、徹底的に3人は顔を映さないよう心がけ、テレビクルーも必死になって彼らを撮影しようとするが無駄な努力で。
しかも、そのテレビクルーを邪魔するかのように、
「ね~貴方たち、彼らに撮影して良いかちゃんと聞いたの?」
「へ?」
と、菖蒲が問いかけるが、
「そんなもんいるかよっ!テレビに映るんだ!ありがてーと思えっ!」
だと、宣うので、
「あら、もし彼らが『映りたくなかった』と言ったら賠償金貰えるんでしょうね?」
「は!テレビに出られるんだ!喜ばしいことだろうが!」
と、何とも厚かましく傲慢な考えに菖蒲はカチンときて、
「そう・・・・・・・・。じゃ、私も参加してくるわね」
「は?」
一瞬でその場から消えた気配にテレビクルーは驚いたのだった。何故気配か?
それは彼らは菖蒲の姿を見ることもなく、罵倒し、傲慢な態度で一途に桃季たちを撮影していたからだ。
そ~と気配があった後ろを見ても、そこには何もなくて。あるのは壁のみ。
どこから一体声がしていたのか。
彼らと壁の隙間は、観客が溢れかえっているためなかったのに。
背筋を這うような寒さを感じた途端、会場から「わーーーーーーーーーーー」という歓声が轟いた。
舞台には忍びの衣装を着た俳優が2人も増えていたのだ。
その事実をテレビクルーは受け入れた途端、カメラを降ろし、撮影を止めた。
何故なら、首筋にひやりと冷たい水滴が止めどなくこぼれ落ちるからだ。
絶対的な恐怖が身を包んだのだ。
撮影を止めなければ、「消される」と・・・・・・・・・。
本能が身体に伝えたのだった。
脱力してしまったテレビクルーの姿を不思議に思う観客もいたが、だが、それだけだ。
桃季たちの素晴らしい演技を見るために、テレビクルーへの興味は素早く失せたのだった。
「ありがとうございました!!!素晴らしい舞台でした!!!」
開演が終わり、更衣室で着替えを済ませると、イベントの主催者が俺に頭を下げていた。
あ、ちなみに俺ら少し変装しているからな!
後々、めんどいことになりたくねーからな。
翠蓮と竜胆はカツラをつけ、俺は色を変えている。
菖蒲と葵はいつの間にか姿を消していた。
さすが忍び!!!
「謝礼を本来はすべきなのでしょうが・・・「いや、いい。俺たちが勝手に手伝っただけだ」
言葉を遮られた主催者はホッとした表情を浮かべ、そして、俺にチケットらしい物を渡してくる。
「そう言って戴けると助かりますが、『なし』とはいきませんので、こちら提携するホテルのディナー券になります。本日から1年の有効期限を設けさせて戴きましたので、是非お時間のあるときにご利用くださいませ」
「・・・・・・・・・・・・・・・まじでっ!?」
それを受け取り、チケットに書かれている内容を確認すると、季節によって内容が異なるらしい。イタリアンだったりフレンチだったり。中華だったり、南米料理だったり。
すんげ~~~ご褒美じゃねーーーかっ!
「俺にとってこれが一番有り難い!出た甲斐あったわ!!」
「そ、そうでしたか!!!1枚で4人までですが、どうぞお使いくださいませ」
丁寧に俺たち3人に1枚ずつくれたのだった。
3枚だから12人か・・・・・・・・・。
有効期限も1年あるし。
再びフィルハートの者たちがこちらに来たときに、行ってもいいな。と思っている自分がいる。
つまり、彼らを俺は受け入れた証拠だ。
大切な翠蓮を泣かしたあいつらを受け入れたのだ。
自分でも気付かないうちに彼らを信用してしまっていたのだ。
『翠蓮が愛した人たちだから』というたったそれだけの理由で。
「は!俺も甘くなったもんだな」
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