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第二章

38.属国

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優しく身体を滑る生地が肌をくすぐる。
ゆっくりと目を開くと外は既に明るく、日が昇りきっているのが室内に零れ輝く光でわかる。
「・・・・・・・寝過ぎた・・・・・・」
隣にはすでにジオルドもジルもおらず、広いベッドに一人取り残された状態だった。
そして、広いスイートの為、室外の喧噪など聞こえるはずもなく、今の状態をきちんと把握はできないが、気配で人の行き来が盛んである事が察知できる。
ベッドから足を降ろすと、ツーと股を流れ出る精液。

「・・・・・・・えっ?」

いつもなら俺が気を失っている間に二人が後始末してくれているのに。
身体の表面を拭かれただけで、中はまだたっぷりと二人の精が残っている。
プチュリという少々下品な音をたてて流れ落ちる量は、尋常ではない。
それほど愛されたことはわかるのだが、如何せん・・・・・・・。
「とりあえず、腹下す前に処理しなければ」
風呂場に向かうと、そこには脱ぎ散らかしたであろう殿下たちの下着類が散乱している。
これは『何かがあった』と結論づけて良いだろう。
俺は手早くシャワーを浴びて、躊躇いながらも中を綺麗に洗って、そして、騎士服に着替える。

「よし、行くかっ!」


バンと扉を開けると、そこは怒鳴り声で溢れていたのだった。


「スイ、起きたのか!?」
「あ、ああ。どしたん、これ?」
「焔の人たちが押し寄せてきたんだ!スイを出せって!」
「はあ???俺?」
ひょこりとそっちに顔を出すと、
「ああっ!!翠蓮様!!」
いきなり焔の人たちは膝を突き、頭を俺に下げてくる。
「おい、何してんだ?」
「どうか、どうか!翠蓮様!我らが主とおなりくださいませ!!」
「我々に貴方様の加護をどうかっ!!」

「俺はお前らの『主』にはならん。俺にはお仕えしている方々がいるからな」
「なっ!そんなっ!」
「我ら焔をお見捨てにならないでください!!!」
平に平にと深く深く床に頭が擦れてしまっている。
何でそんなに必死なのか?
「我らの國は『瘴気』で護られていた部分があります。あれがなくなってしまえば、他国の侵入を許してしまいます!」
「ああ、そういうことか!」
「それなら大丈夫だ。もう手は打った」
「我らフィルハート帝国の属国となることが今朝方決定した」
「「「はっ?」」」
もちろんこの「は?」には俺のも含まれる。
同盟国じゃなかったのかよっ!
「昨日スイが意識を失った後、すぐに兄上に報告したら、一にも二にもなく『属国』となったんだ」
「その決定後、君の身体を綺麗にしようと思ったらこの騒ぎ」
「ははははは・・・・・・・」
「すでに焔へ第一騎士団が出向した」
「おおっ!早いな」
ただ、帝都からだと幾日かかるのだろう?
「第一が到着するまでの間に何かあったら嫌だから、焔にその間いるわ」
「「スイっ!?」」
「それでお前らも満足だろう?」
「「「「「はっ!翠蓮様のお心に従います」」」」」
彼らの顔の下にある絨毯は色が濃くなるくらい、涙が流れていた。
それ程、他国の侵略が怖く、恐ろしく、そして、『鎖国』していた國の外に出てきたことも不安でしかたなかったのだろう。
他国を知らないから恐怖が勝る。
恐怖が勝るから『鎖国』をした。
という、構図にも見えてしまう。
どのみち、この世界の在り方がおかしいのだ。
「殿下、昔の聖女の件に関しては、すぐにでも他国と示し合わせ、真実を世に知らせる準備をしてください。これは、我が一族の悲願でもあるのですから」
「スイ・・・・・・わかっている。既に兄上が父上に報告し、各国の首脳会議を開催することが決定された」
「迅速な対応感謝致します、殿下」
「いや、元はと言えば君たちを無理矢理連れてきたこの世界のやり方が間違っていたのだから、そこは迅速に糾さないといけないからね」
「スイ、俺たちはここの対応をしなければならないから焔へは行けない」
「うん、大丈夫だって!俺一人で「団長!!!」
そう言えば暫く会っていなかったな、アシュレイ兄弟に。
「私も行きます!私を置いていかないでください!!」
「はは、大げさだなレインは」
俺の服の袖を子供のようにギュッと握りしめ、何かを堪えている。
もしかして・・・・・・
そっと彼の目元を拭うと、やはり冷たい水がこぼれ落ちていたのだ。
「レイン?」
「心配で・・・・・・心配でっ!!!無事で良かったです・・・・・・」
「あ~~~悪い。心配してくれたのか。ありがとうな」
俺よりも背が高い年上の子供の頭を優しく撫でると、ぎゅ~~と抱きしめられる。
ポンポンと子供をあやす様に軽く叩くと、少し落ち着いたらしく、腕の力を緩めてくれた。
「よしっ!じゃ、アシュレイ兄弟を連れて行くわ」
ビクッと身体を震わせて、俺の顔を涙で濡れた目で見つめてくる。
「ああ、もう、せっかくの綺麗な顔が台無しじゃんか」
エリアスがハンカチで優しく拭う。
「大きな子供だな」
「うるさいです」
と、小さく文句を垂れても、大人しく拭かれているのを見ると、ま、俺にべったりなのはこの際どうでもよくて、とても仲の良い夫婦であること間違いない。
「ということで、焔の民は今日はこのホテルで休んで、明日以降國に戻れ」
「「「はっ!!!」」」
「さてと、朱雀に乗せてもらおうか」
既に外でスタンバイしてくれている朱雀の背に乗って、俺たちは焔へと向かった。
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