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第二章

21.公爵令嬢エレノア

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一方第三騎士団執務室では、
「エレノア、君はスイが誰かわかっていないのか?君はあの場所にいなかったのか?」
「『あの場所』?。エリアス様の叙勲式ですか?申し訳ございません。令嬢のお茶会に参加しておりまして」
「「「「「「「はっ?」」」」」」」
一同唖然とした。
この国の叙勲式とは『王家』並びに『公爵』『侯爵』が全て揃って行われる重大な式典なのだ。それに参加せず、茶会に参加だと?
「貴方には国の礼節、秩序などはどうでも良いことなのか?」
「いいえ、そんなことはありませんわ」
「では、何故叙勲式を優先しなかった?父君にも言われただろう?」
「ええ、口うるさく言われましたので、父より先にお茶会に行きましたわ」
「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」
あの時のバッチェリー家の顔色が悪かったことを思い出した。
「君はやはり王族の『妻』にはなれない。常識がなさすぎる」
「え?叙勲式に出なかったことで?」
「『叙勲式は侯爵・公爵・王族が全て揃って行うこととする』という決まりがこのフィルハート帝国には存在する。父君は教えてくださらなかったのか?いや、教えているはずだ。ただ、君が聞かなかっただけだな」
「そんなっ!私を疑うのですか!?お父様がっ!「私がなんだっ!!エレノアっ!!」
衛兵が開けている扉から、火が出そうなくらい顔を真っ赤に染めたロミリオ『宰相』が入室してきた。
「お父様!何故教えてくださらなかったのです!『叙勲式』がどれほど重要なものか!」
「教えた!教えたが、お前は私だけでなくエミリアの話も聞かなかった!執事やメイドが止めても、無駄だった!お前はどれだけ我が公爵家に泥を塗れば気が済む?」
「泥だなんてっ!私が重要性を知ってさえいればっ!」
「『知ってさえ』?私たちは教えたし、これは常識的な知識だ!その年になって知らない方が笑われる!!」
「そんなっ!!」
「それと、お前はスイ殿に何を言った?事と次第によっては、お前を修道院に送る!」
「っ!!!酷いですわ!!たかが一塊の騎士がこの部屋に留まるのがおかしいと申し上げたまでのこと!」
と、それだけのようにエレノアは言うが、私は黙っていられない。親子げんかに割って入ってやる。
「それだけではないでしょう?スイに『貧相なチンクシャ』と言ったでしょう?」
私のその言葉にロミリオ宰相は顔色を真っ赤から真っ青に変化させ、ワナワナと震え、そして、
バシリッ!!!
「きゃっ!!」
娘を殴っていたのだ。
「お前は何てことをしてくれたのだっ!彼は!あの方はっ!!」
「娘を殴るなんてっ!お父様でも許しませんわっ!」
「許さなくて結構だっ!お前はもう我が子ではない!除籍とし、平民とする!援助も何も行わない!勝手にするがいい!」
「お父様!!何故、あの様な者の味方をするのですっ!!!あんな貧相な者のことなど!」
「っ!まだわからぬかっ!あのお方はっ!」
「宰相、私が説明する。貴殿は少し落ち着かれよ」
「申し訳ございません。お見苦しいところをお見せ致しまして」
「よい。エレノア、貴様が先ほど追い出したかの者はジルフォードの第四騎士団団長で、私とジルフォードの伴侶、スイレン・フウマだ」
「っ!!!」
漸く自分がしでかしたことの大きさを理解しだしたようだが、まだまだだ。私の大切な大切な大切な!スイを貶したのだからなっ!
「スイは、こちらの世界に召喚され始めに『精霊の住まう森』の浄化をした。死を待つだけだったジルフォードを助けてくれた。バーミリアを属国と出来た。そして、今調査中の『ホルシオ』の件にしたって、スイの力がなければ、何もできないままだった。また、エリアスとレインを救い、再び騎士団に復帰させたのも、スイだ。それほどに素晴らしい人物を君はなんと貶した?スイが許しても、私は許さない」
バッチェリー宰相は、娘の首根っこを引っつかみ、引きずるように部屋を後にする。
その前に、
「両殿下、娘が大変失礼なことをしてしまい、誠に申し訳ございません!この者は自ら頭を下げるということができない出来損ないの娘でございます故、この娘の除籍手続き及び平民への落籍が終わり次第、スイ殿に私が謝罪に伺います」
「ああ、そうしてやってくれ。あいつは気にしてはいないだろうが、貴殿の娘がこれ以上不作法を働くと貴殿の恥となるばかりだからな」
「私の家庭の事情でお見苦しい所をお見せして「ん?まだ取り込み中?」
間が悪いと言うか、バッチェリー家がもう少しで退出する時にスイは戻ってきた。



「スイ殿!誠に今回の事は申し訳なく!」
「ん?あ~~宰相に謝ってもらう必要はないだろう。な、そこの娘?」
「なっ!誰が『娘』ですって!?」
牙を剥きながら俺に掴み掛かろうとするところを、宰相が止めた。
「何をするのです、お父様!私を侮辱したのですよっ!」
「お前が先にスイ殿を侮辱したではないかっ!その謝罪はないのか!?」
「私を誰だと思っておりますの!公爵令嬢で『宰相』の娘ですのよ!簡単に頭を下げることなどあってはなりません!」
尊大な態度で言ってのけるとは、宰相の心子知らずだな。
「君が誰かって言われても、ただの『宰相の娘』だろう?君の価値は一片たりとも存在しないだろう?君は国の為に何かした?動いている?ナルミア様は王族でありながら、自ら率先して国の為に動いている。君は?俺は、初めて君に会った。『公爵令嬢』と名乗るならば、それ相応の行動を起こせ。何もしない君が『公爵令嬢』を語るなど烏滸がましい」
「なんですってぇぇぇぇっ!」
髪を振り乱し、宰相の手を振り切り、俺に平手打ちを食らわせる。
「で、満足?」
「っ!!!」
「エレノアッ!何てことを・・・・・」
宰相は真っ青になり、その場に崩れ落ちた。
「アルバート、レイフォード!エレノア・バッチェリーを拘束、牢へ!王族への反逆行為である!」
「「はっ!!」」
エレノアは自分が何故、このような事になっているのかまだわからないようで、
「君は王族の伴侶である俺に危害を加えた。ただの『娘』がだ。君の行動で君の父君の立場がどうなるか考えなかったのかい?君の家族がどうなるのかと考えなかったのかい?俺は君が反省をし、父君を思いやる気持ちがあったなら『許そう』と思っていたのだけど、君は自分のことしか考えず、宰相のことを慮りもしないね?それでは『公爵令嬢』としての立場は相応しくない」
「君は牢で猛省するといい。いつ許されるかわからないが。ただ、私たちは許さないよ。連れて行けっ!」
「「はっ!」」
ジオルドの命でエレノアは投獄された。
俺に危害を与えたという理由で。『王族』の伴侶に手を上げたから。
自分の立ち位置を理解できない娘を、宰相はどのように思っていただろうか。
「宰相、今回は俺への危害なので、彼女が反省を示すようならすぐに連れ出しましょう。貴方にとってとても大切な娘でしょう?俺としてもこのくらいのことで投獄はやり過ぎだと思いますからね」
「いえっ!スイ殿に反逆したのです!当然の罰です!ですから、もう娘のことは気になさらないでください」
「いえいえ、彼女一人の問題ではありません、今回は。ジオルド殿下っ!元はと言えば、あなたがはっきりしないからでしょうっ!どうせ『女性には優しく』とか理由をつけて、やんわりと断り続けたことが、今回に繋がったのではないのですかっ!?」
「・・・・・君の言うとおりです・・・・・・・。反省しています」
「反省で足りるかっ!三食野菜だらけにしてやる!ジルフォード殿下はそのような方はいらっしゃらないですよね!?」
「え、あ、俺は、元々身体が弱かったから、そういう相手の話は全くなかったよ」
「よかった~~~~。あれば、離婚でした」
「「っ!!!」」
殿下たちはお互い顔を見合わせて、俺の方に寄ってくるが、それを躱して、
「ナルミア様、一つお願いがございます」
「あらあら、スイのお願いは本当に多いわね」
「ぐっ!」
「冗談よ?何かしら?」
「エレノア様のあのセンス、どうにかしていただけませんか?折角の美貌があのセンスで台無しです!」
「「「「「それなっ!」」」」」
俺の言葉に皆同意。同じ事を思っていたんだな~~~~。
父である宰相を見ると、何故か少し嬉しげだった。
「娘の事に気を配ってくださり、ありがとうございます。こちらが意見を言っても全く意に介さなく、似合わない物ばかりを着ていたもので。アクセサリーはこちらで用意致します。かかったドレスの費用もこちらで全て負担致しますので、どうか娘を本当の『貴族令嬢』に仕立て上げてくださいませ!!」
「ふふふふふふふふふ。宰相に頭を下げられたら手を抜くわけにはいかないわね!エレノアを今日一日牢に入れて反省の意を示したら、私の部屋に寄越しなさい!立派な淑女に格好からでも仕立てて差し上げますわ!おーーーーーほほほほほ!!!」
意気揚々と部屋を出て行くナルミア様のあのお姿は、どこからどうみても神々しいほどの『悪役令嬢』です。
「スイ、本当にエレノアを牢から出して良いのか?」
「ん、いいんじゃない?反省するかは知らんけど。それに多分、牢より辛いナルミア様の淑女教育が始ると思うから」
「「あ~~~なるほど」」
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