49 / 214
第一章
48.ジルフォード
しおりを挟む
ジルフォードは二人に気付かれない位置で、彼らをそっと見ていた。
やはりスイにはジオルドが相応しくて、俺は不要だ。
俺はスイから身を引くべきなのだろうが、愛おしくて、離れがたい。
だが、二人の幸せを考えると、やはり俺は二人に必要ない人物で。
ジオルドにとってはただの『弟』で、スイにとってはただの『義弟』だったのだろう。今目の当たりにしている光景から、そう考えるのが当たり前だ。
しかし、その思考は一瞬にして崩れ去る。
「ジルフォード殿下、入ってきて良いですよ?」
「ジル、いるのだろう?入っておいで」
気付かれていたのだ、二人に。
俺の存在を『無き者』にしてくれはしないのか?
覗き見がバレた事への罪悪感で、行動がどうしてもゆっくりになってしまう。
「ジル、早く入っておいで。あまり時間がないのだから」
「あ、ああ・・・・・・」
ジオルドは弟に諭すような口調で、俺を諫める。
スイがいる前で恥ずかしいが、既に情けないことをしてしまった俺だ。恥も何もないだろう。
「スイ、ジルも随分心を傷めたんだよ?そのことわかってあげてよ?」
「ぐっ!ごめんなさいジルフォード殿下」
ジオルドに言われて、スイは俺に謝りながら、優しく抱きついてくるのだ。
一体何で?お前は兄上の大事な人なのだろ?
「心配かけてごめんな。俺言われて考えたよ。もし俺が殿下たちの立場だったら、俺だって殿下たちと考えは同じだと」
「『たち』?」
「へ?『たち』だろう?ん?もしかして、俺が好きでもない奴に股を自ら開いているとでも思ってたの?それこそ心外なんだけど!!!」
「え、いや、そんなことは・・・・・」
「そりゃ~初めて会った殿下たちに無理矢理身体を触られたけど、挿入されることになったら俺はさすがに本気で抵抗したと・・・・・・うん、思う?」
「おい、なんでそこは疑問系なんだよ」
顎に手をかけてコテンと首をかしげるスイは、非情に可愛い。
「うん、抵抗した!うんうん!」
「・・・・・・・・そういうことにしといてやるよ」
スイのツンツンとした黒髪を撫でつける。
「んっ!俺にとってジオルドは甘えたい人、ジルフォードは甘えられたい人なんだよね。外見からは逆だけど」
「おい、俺だって甘えられたいんだが?」
「充分甘えてるでしょ、俺?あれ?足りないの?」
「足りる足りないじゃなくて、お前のいったいどこが俺たちに甘えてるんだ?」
「全身で!!本来の俺は素直に頭撫でさせないよ?」
「っ!!そっか・・・・・・」
「ん・・・・・・」
温かい何かが身体の中を巡る感覚。これが
安心
という言葉なのだろうか。
スイの身体を引き寄せる。
すんなりと俺に身体を預けるスイ。その身体は俺たちから比べて頼りないほど細い。
だが、この身体には俺たちが絶対に敵うことのできない実力とそして責任を一身に受けている事実がある。
責任を俺に少しでも分けてくれたら良いと思うのに。
「大丈夫・・・。こうやって傍にいてくれるだけで、頑張れるから」
どこまで見抜かれているのだろうか。
聖母のような優しい眼差しで微笑む彼は、俺にとって本当の意味での『神』だ。
その大切で仕方がない『神』を支える役目、しかと承ろう。
「はいはい、そのくらいで!元々こんなところでスイを拘束するつもりはなかったんだけどね」
「ジオルド殿下がいきなり注目を浴びるような変な笑い声あげるからでしょう?」
「あのね!スイが私たちに心配さえかけなければよいことなんだけど?」
「ぐぬぬぬぬっ!!それじゃ、俺の身体が鈍る!」
「確かにな。あの時のスイは、俺たちの実力ではどうにもならん。俺たち瞬殺されて終わりだったろうな」
先ほどジオルドがスイに言った言葉は、本当だった。
あの光景は二度と見たくない、血だらけで、身体が歪にねじ曲がったスイを。
ただ、俺たちではスイを満足させられないことは確かで。
「結界内で行うと死にはしないから、安心してよ」
「「そういう問題ではないっ!!」」
どこからスイの考えを糾したら良いのか、それを考える方が先なのか?
やはりスイにはジオルドが相応しくて、俺は不要だ。
俺はスイから身を引くべきなのだろうが、愛おしくて、離れがたい。
だが、二人の幸せを考えると、やはり俺は二人に必要ない人物で。
ジオルドにとってはただの『弟』で、スイにとってはただの『義弟』だったのだろう。今目の当たりにしている光景から、そう考えるのが当たり前だ。
しかし、その思考は一瞬にして崩れ去る。
「ジルフォード殿下、入ってきて良いですよ?」
「ジル、いるのだろう?入っておいで」
気付かれていたのだ、二人に。
俺の存在を『無き者』にしてくれはしないのか?
覗き見がバレた事への罪悪感で、行動がどうしてもゆっくりになってしまう。
「ジル、早く入っておいで。あまり時間がないのだから」
「あ、ああ・・・・・・」
ジオルドは弟に諭すような口調で、俺を諫める。
スイがいる前で恥ずかしいが、既に情けないことをしてしまった俺だ。恥も何もないだろう。
「スイ、ジルも随分心を傷めたんだよ?そのことわかってあげてよ?」
「ぐっ!ごめんなさいジルフォード殿下」
ジオルドに言われて、スイは俺に謝りながら、優しく抱きついてくるのだ。
一体何で?お前は兄上の大事な人なのだろ?
「心配かけてごめんな。俺言われて考えたよ。もし俺が殿下たちの立場だったら、俺だって殿下たちと考えは同じだと」
「『たち』?」
「へ?『たち』だろう?ん?もしかして、俺が好きでもない奴に股を自ら開いているとでも思ってたの?それこそ心外なんだけど!!!」
「え、いや、そんなことは・・・・・」
「そりゃ~初めて会った殿下たちに無理矢理身体を触られたけど、挿入されることになったら俺はさすがに本気で抵抗したと・・・・・・うん、思う?」
「おい、なんでそこは疑問系なんだよ」
顎に手をかけてコテンと首をかしげるスイは、非情に可愛い。
「うん、抵抗した!うんうん!」
「・・・・・・・・そういうことにしといてやるよ」
スイのツンツンとした黒髪を撫でつける。
「んっ!俺にとってジオルドは甘えたい人、ジルフォードは甘えられたい人なんだよね。外見からは逆だけど」
「おい、俺だって甘えられたいんだが?」
「充分甘えてるでしょ、俺?あれ?足りないの?」
「足りる足りないじゃなくて、お前のいったいどこが俺たちに甘えてるんだ?」
「全身で!!本来の俺は素直に頭撫でさせないよ?」
「っ!!そっか・・・・・・」
「ん・・・・・・」
温かい何かが身体の中を巡る感覚。これが
安心
という言葉なのだろうか。
スイの身体を引き寄せる。
すんなりと俺に身体を預けるスイ。その身体は俺たちから比べて頼りないほど細い。
だが、この身体には俺たちが絶対に敵うことのできない実力とそして責任を一身に受けている事実がある。
責任を俺に少しでも分けてくれたら良いと思うのに。
「大丈夫・・・。こうやって傍にいてくれるだけで、頑張れるから」
どこまで見抜かれているのだろうか。
聖母のような優しい眼差しで微笑む彼は、俺にとって本当の意味での『神』だ。
その大切で仕方がない『神』を支える役目、しかと承ろう。
「はいはい、そのくらいで!元々こんなところでスイを拘束するつもりはなかったんだけどね」
「ジオルド殿下がいきなり注目を浴びるような変な笑い声あげるからでしょう?」
「あのね!スイが私たちに心配さえかけなければよいことなんだけど?」
「ぐぬぬぬぬっ!!それじゃ、俺の身体が鈍る!」
「確かにな。あの時のスイは、俺たちの実力ではどうにもならん。俺たち瞬殺されて終わりだったろうな」
先ほどジオルドがスイに言った言葉は、本当だった。
あの光景は二度と見たくない、血だらけで、身体が歪にねじ曲がったスイを。
ただ、俺たちではスイを満足させられないことは確かで。
「結界内で行うと死にはしないから、安心してよ」
「「そういう問題ではないっ!!」」
どこからスイの考えを糾したら良いのか、それを考える方が先なのか?
0
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!
Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥
財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。
”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。
財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。
財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!!
青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!!
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』
『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
※表紙イラスト Bu-cha作
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる