上 下
39 / 214
第一章

38.スラム

しおりを挟む
「ここは・・・・・・・・」
「騎士様、こっち!!」
兄弟が俺の手を引いて、案内をする。
道は瓦礫やゴミが散乱し、そして、子供が見て良い光景ではない多くの『腐乱死体』があちこちに存在している。
「君たち、ここは・・・・・・・」
「スラムだよっ!僕たちはこの国に捨てられたゴミなんだ」
「っ!!!!」
子供が自分たちを『ゴミ』だと言う。そんなことあって言い訳がない。
「こんな国、クソ食らえだ」
俺はとことんこの国を滅ぼしてやろうと決心した。
行く道中で息が辛うじてある者には軽くだが『治癒』を施していく。俺がこれから使用する術を考えると、体力的に『軽い治癒』でないと瘴気を払えないのだ。それくらいこのスラムは死んでいる。
軽い『治癒』でも、レインたちが到着すれば、治癒師が引き継いでくれるだろうし、腹が減っているだけの者もいるから、食べるだけで回復する者もいるだろう。
正直泣きたい、こんな光景を子供が平気で見ている事に。
慈善を続けていると、子供たちにせっつかれるので、仕方なしに子供が誘導する家、否、荒(あば)ら家(や)に入ると異臭と屍臭が充満している。
しかし、小さな呼吸音が辛うじて聞こえる。この屍臭は『死に神の鎌に捕まってしまった』ためだろう。そこから逃げ出させれば助け出せる。
「ご両親の様な方はこのスラムには多いのかい?」
「うん・・・・・・ほとんどだよ・・・・・友達の父ちゃん死んじゃった・・・ひぅ・・・」
「ああ、泣かないで!君たちのご両親はまだ間に合うから!」
「うぅ・・・・・兄ちゃんっ!うわぁぁぁっん」
俺に縋り付いてくる二人の小さな身体をギュッと抱きしめて、俺は決める。
「俺はここを少し離れるよ。空を見ておいて。俺がすることを目に焼き付けて。その光景を二度と見ない世界を望んで」
「「・・・??うん」」
俺は、外に出て、
「朱雀っ!力を貸してくれ!!!」

『何だ、スイ?我に用か?』
「ああ、悪いけど、俺を連れて飛んでくれないか?空から結界を四方に張る」
『ああ、わかった。この汚れた場所を囲うのか?』
「そうだ。あっちで俺を馬鹿にした奴らは今は助けない。自らの愚かな思考を変えない限り」
『了解した』
朱雀は、他の鳥たちと共に飛ぶために小さくしていた身体を俺を乗せるため巨大な姿へと変える。
子供たちから「格好いい!」と賞賛され、朱雀は満更でもないようで、羽でその兄弟の頭を優しく一撫でし、俺を背に乗せ飛び上がる。
『スイ、このくらいの高さからなら、結界張れるか?』
「ああ、大丈夫だ!」
懐から5本の苦無を取りだし、スラムの周りに投げて突き刺す。

五(ご)星(しょう)結界

苦無からバリバリという音と共に金の光、否、雷の様な光が線を成していく。全てを描き終わると、陰陽道で使用される五芒星が現われ、そして、苦無で示した空間を白の帳(とばり)が覆った。
これで、俺が認める者以外は中に入れないし、出ることもできない。
つまり邪魔が入らないということだ。
そして、もう一つこの技には利点がある。
清浄化するのだ、囲んだ中を。
この汚れたスラムを少しでも呼吸のしやすい場所に変えてやりたかったのだ。
「ありがとう朱雀。俺はこのまま飛び降りるから、後は遊んでていいよ」
『怪我はするなよ、我らが愛し子よ』
「平気だって!でも、ありがとうな」
朱雀の背から俺は身を投げ出した。


兄弟たちの前に着地すると、腰を抜かしてへたり込んでしまった。
「騎士様、け、けがは・・・・・」
「ないよ?俺は超強いからね。へっちゃらさ!さ、皆を助けるよ!!ちょっと離れててな」
俺は集中し、『瘴気』がどこまで広がっているか把握して、

浄霊清流

結界を張った場所から、一気に瘴気が綺麗になくなる。
子供たちは目を瞬かせ、呆然としているが、兄の方が「はっ!」と何かに気付いて、家に入っていく。
「父ちゃんっ!母ちゃんっ!!!」
そして、喜びの声が聞こえてきたから、彼らは大丈夫なのだろう。
そして、この結界がある限り、清浄が続けられる。
身体の中に溜まった悪の塊は、徐々になくなるだろう。
このスラムにいる人々からはだが。
漸く、俺に追いついたレインたちが結界の外に見えるので、彼らが結界内に入ることを許可する。
「団長っ!!勝手に行動しないでください!!」
「いや~~優秀な副官がいると楽だわ~~~」
「ス・イ・団・長!!!」
「あ、はい、ごめんなさい。説教は後で聞くから、治癒が使える者は民の具合を見てくれ!力仕事が得意な者は、瓦礫などを一箇所に集めてくれ!あと、炊き出しの準備をっ!腹一杯食わせてやってくれ!」
「「「はっ!!!」」」
とりあえず、スラムについての『瘴気』は一件落着だ。
あとは、城と城下町だな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

召喚された聖女の兄は、どうやら只者ではないらしい

荷稲 まこと
BL
国にほど近い魔境に現れた魔王に対抗するため、国に古くから伝わる"聖女召喚の儀"が行われた。 聖女の召喚は無事成功した--が、聖女の兄だと言う男も一緒に召喚されてしまった。 しかもその男、大事な妹だけを戦場に送る訳にはいかない、自分も同行するから鍛えてくれ、などと言い出した。 戦いの経験があるのかと問えば、喧嘩を少々したことがある程度だと言う。 危険だと止めても断固として聞かない。 仕方がないので過酷な訓練を受けさせて、自ら諦めるように仕向けることにした。 その憎まれ役に選ばれたのは、王国騎士団第3隊、通称『対魔物隊』隊長レオナルド・ランテ。 レオナルドは不承不承ながら、どうせすぐに音を上げると隊員と同じ訓練を課すが、予想外にその男は食いついてくる。 しかもレオナルドはその男にどんどん調子を狂わされていきーーー? 喧嘩無敗の元裏番長(24) × 超鈍感初心嫌われ?隊長(27) 初投稿です!温かい目で見守ってやってください。 Bたちは初めからLし始めていますが、くっつくまでかなり長いです。 物語の都合上、NL表現を含みます。 脇カプもいますが匂わせる程度です。 2/19追記 完結まで書き終わっているので毎日コンスタントに投稿していこうと思っています。 思ってたよりずっと多くの人に読んでもらえていて嬉しいです!引き続きどうぞよろしくお願いいたします。 2/25 追記 誤字報告ありがとうございました!承認不要とのことで、この場でお礼申し上げます。 ちょっと目を離した隙にエラいことになっててひっくり返りました。大感謝!

処理中です...