リアル

文字の大きさ
上 下
8 / 11

7

しおりを挟む
街に入ると、富澤はスピードを緩めた。

「話して分かった事は、富士八は何かを止めようとしていたって事だ」

「何ですか?」

すっかり日も暮れ、街には灯りが灯り始めている。

「知らんが、後3回と言っていた。詳しくは話をしてくれなかったが、モーセを止めるファラオになるようだった」

「ファラオって」

「俺には分からん。酔っぱらっては、俺の役目はファラオだと言っていた」

静かに車が止まり、富澤が俺の方を向いた。

「お前なら分かるはずだ。好きにやれ」

「な、何をしたらいいですか?」

「まずは記憶をどうにかしろよ。行くぞ」

富澤に連れて行かれたのは、昭和の匂い漂う2階建てアパートの103号室だった。

ガチャリと音を立て開いた扉は、うるさいくらいにギギィと鳴った。

パチリと電気がつくと、俺は目を丸くする。

「クレイジーだろ」

6畳ほどの部屋の壁一面に、新聞記事やメモ、写真が貼り付けられている。

「ここは?」

机の上は山のような書類にまみれ、崩れ落ちた一部は床に散乱していた。

「富士八の家だ」

床の上の紙を足でどかしながら、辛うじてあるスペースーーベッドの上に富澤は腰を下ろす。

「お前の答えは、多分ここにある」

俺は靴を脱ぎ、恐る恐る部屋へ上がる。

古いものから新しいものまで、無作為に壁に貼られているのかと思ったが、よく見ると関連性があるようだ。

「どうして僕の答えがあると思うんですか?」

「そりゃ、お前が富士八だと思ったからだ」

ベッドに座った富澤は、タバコに火をつける。

「病院で、何か考えている時、お前は唇を噛んでいた」

言われてみれば、癖になっている。

「それだけ?」

「九重の家に連れて行った時、お前は九重のPCを見てただろう?」

確かにフォルダなどチェックをした。

「PCの中を見たら富士八さんなんですか?」

「お前、どうやってPCを開いた?」

言っている真意が分からない。

「電源入れましたよ」

「で?」

ふぅと煙を吐き出しながら、ポケットから携帯灰皿を取り出した。

「フォルダ開きました」

「その前に何した?」

「IDとパスワードを入れましたよ」

「それ、どうして分かった?」

「どうしてって・・・あれ?」

確かに。俺はどうしてIDやパスワードが分かったのだろう。

「ここからは俺の推測だが、かなりトリッキーな話になる」

前置きをした富澤は、顎を撫でた。

「九重には富士八の記憶があった。恐らくお前には九重と富士八の記憶があるはずだ」

「ど、どうして?!」

「それは俺が知りたい。ちなみに富士八には七嶋しちしまの記憶もあったから、お前にもあるんじゃねぇか?」

情報が多くてパニックになりそうだ。

「その人誰です?」

「富士八の側で死んでた男だ」

胃の奥から酸っぱいものが込み上げてきそうになり、俺は思わず飲み込んだ。

「俺に出来ることは、お前に協力することだけだ」

富澤が俺を引き取った意味も理解した。

「それが富士八の望みなんだろうし。時間も無いんだろう?」

この人は、どこまで知っているのだろう。

俺はこの部屋と富澤の情報を紐解いていかなければならない気がした。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

悪い冗談

鷲野ユキ
ミステリー
「いい加減目を覚ませ。お前だってわかってるんだろう?」

真正なる道のり

etoshiyamakan
ミステリー
神奈川県に出向の刑事と彼を取り巻く警察仲間 のストーリー

ファクト ~真実~

華ノ月
ミステリー
 主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。  そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。  その事件がなぜ起こったのか?  本当の「悪」は誰なのか?  そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。  こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!  よろしくお願いいたしますm(__)m

クオリアの呪い

鷲野ユキ
ミステリー
「この世で最も強い呪い?そんなの、お前が一番良く知ってるじゃないか」

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

処理中です...