リアル

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「さっき、僕が犯人じゃないと言いましたよね。俺が追う犯人って、どういう意味ですか?他に同じような事件があったんですか?」

「随分と質問が多いな」

富澤は、うーんと迷うように顎に手を当て思案している。

「犯人逮捕に役立ちたいんです」

「そうは見えないがな」

腹の奥の探り合いのような沈黙に、俺は唇を噛み根を上げた。

「全然記憶がないんです。でも、記憶がないとマズイと感じるんです」

正直に伝えると、僅かだが富澤の姿勢が緩んだ。

「ま、お前には知る権利がある。だが一つ条件がある」

「呑みます」

「まだ言ってねぇよ」

フッと口角を上げる富澤は、柔らかい表情になった。

「お前は退院しても、しばらく俺と一緒にいる事。いいな?勝手な行動は許さん」

「それだけですか?」

まあな、と頷き、椅子に座ると眉間に皺を寄せる。

「いい話ではない。前置きするが」

「どうでもいいです」

「お前さ、もーちょっと取り乱したり慌てたり、緊張感とかないのか?」

「取り乱しても結果は同じでしょう」

可愛くねーなーと言いながらも、悪い印象ではないようだ。

「九重も、別の殺人事件現場にいた人物だ」

「つまり?」

「3日前に富士八満治ふじやみつはるという男が殺された現場にいたのが九重だ」

なぜ富澤が俺と一緒にいたいのか、理由は理解出来た。

「その富士八さんも、九重さんと同じように殺されたんですか?」

「まあな。そしてお前と同じように記憶障害になっていた」

つまり、俺が次の九重になる可能性があるのか。

姉が言っていた、後5日とは何だろう。

「5日後って、何かありますか?」

「5日後、何かあるなら俺に教えてくれ」

「そうですか」

俺が殺されるまでのタイムリミットだろうか?

となると、姉は何かを知っているのか。

「あの、姉は家に帰ったんですよね?」

「姉?」

「はい。今来てた姉です」

富澤は目を丸くした。

「今?俺以外に誰も来てないぞ」

「え?」

俺に顔を近づけると、瞳を覗き込む。

「お前、ホントに大丈夫か?」

「大丈夫ですが、近すぎます」

すまんと言いながら富澤は椅子に座り直す。

さっき来たはずの姉の事を富澤は覚えていない。

「お前、姉がいるのか?」

「・・・」

「さっきご家族に電話した時は、姉が来るとか言われなかったぞ」

どう言う事だ?まだ頬に姉の甘い匂いも微かに残っているのに。

「なぁ、一ノ瀬」

「はい?」

「お姉さんは美人か?」

「え?」

聞き返すと、富澤はポリポリと頭をかきながら視線を逸らした。

「お前、鼻筋も通って目もでかいし、世間的に言えば、イケメンの部類だからさ。お姉さんも美人かな・・と」

「緊張感がないのは、お互い様ですね」

「大人をからかうな」

チッと残念そうに舌打ちをした富澤に、俺は話しかける。

「退院したら、九重さんの所に行ってみたいのですが」

「あの世か?」

「・・・」

「冗談だよ。考えとく」

後は何をすべきだろう。

お腹が一杯になったせいか、俺はいつの間にか、眠りについていた。









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