極東奪還闘争

又吉秋香

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第2話 世界中で勃発するランドラッシュ

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 わたしがウラジオストクを訪れた頃は、リーマン・ショックによる、世界金融の低迷による影響から、穀物価格を押し上げる要因のひとつである投機マネーは一気に縮小していた。



 すでに未曾有の高騰を記録した穀物価格も、落ち着きを取り戻していた。



 ところが、外国企業によるウラジオストクにおける農地の囲い込みは、それでも止まるところを知らず、発展途上国を中心に世界各地で活発に動いていた。



 冒頭で取り上げたリーマン・ショックの翌月(十月)に、貧しい農家を支援する国際的NGO「グレイン」(本部・スペイン)が発表したリポートが興味深い。



「二〇〇八年 食料・金融安全保障のための土地争奪」


 グレインでは、各国メディアの報道に加えて独自の調査を行ない、世界で進行する農地争奪の実例を百件以上も紹介している。



 冒頭に、こう記されている。



「食料危機と金融危機が同時に発生することによって、新しいグローバルな土地争奪が始まった。 食料を輸入に頼る国の政府が、食料生産のために海外の広大な農地を手に入れようとしているのだ。一方では、深刻化する金融危機のなかで、企業や投資家が海外農地への投資を重要な収入源と見ている。その結果として、肥沃な農地の私有化と集約化が進んでいる。このグローバルな土 地争奪によって、世界各地で、小規模農業と農村の暮らしが姿を消してしまうかも知れない。」



 この食糧危機に備える動きに対応する需要により、儲かると踏んだ企業が農地を獲得していく裏でどんな問題があるのだろうか?



 数百万のアフリカ人が将来、水にアクセスできなくなる。



 外国企業による土地収奪が続いているためで、このままだとアフリカの水資源は枯渇するだろう。



 先ほどもご紹介した国際NGO「グレイン」は二〇一二年六月一一日に発表したレポートで、開発が急ピッチで進むアフリカでは、一体何が起こっているのか?貧しい農民らが直面する実態を明らかにした。



「アフリカを乾かす、土地収奪の背後にある水資源の収奪」

 報告書によると、アフリカにある肥沃な土地が次々に外国企業に売られており、これには水資源も含まれており、手に入れた土地で外国企業は大規模な工業的農業を営むことが多く、そこでは大量の水を使うのだ。



 そういった土地は秘密裏に取引されるため、外国企業にどんな資源が渡っているのかを正確に知ることは難しい。



 ただオープンになった契約をみる限り、水利権についてあえて触れないようにしているのは明らかであり、このため外国企業はダムや灌漑用水路を自らの裁量で建設できる。



 グレインの報告書には、こうある。



「二一世紀型の工業的農業は水資源を枯渇させる。このままだとアフリカでも、中国やインドのように農地が荒廃し、塩害が起きかねない」



 ただアフリカ諸国の政府の多くが水利権の問題を放置してきた経緯もあり、事態の改善は容易ではない。



 貧困層のニーズを満たし、環境を守るためにも、国際社会の音頭のもと、アフリカの水と土地の管理体制を転換させることが不可欠であるのだがラッシュは続く。



 土地や水が不足し、しかも資金が豊富な食料輸入国、たとえば湾岸諸国は海外農地への投資にもっとも積極的で、多くの人口を抱え、食料安全保障の面で懸念を抱える国々も、海外での食料生産のチャンスを欲しがっている。



 サウジアラビア、カタール、リビア、中国、韓国、インドなどの二〇カ国が食料確保のために広大な農地を海外で入手しはじめていたのだ。



 こうした国々の投資の矛先は、生産コストがはるかに安く、土地と水が抱負な途上国に向けられており、スーダン、エチオピア、パキスタン、フィリピン、カンボジア、 トルコ、ウクライナなど二四カ国が挙げられる。



 日本とウラジオストクの関係はこの農地取得とは流れが異なり、現地の農業技術指導や物流改革支援という側面が大きく、この食料システム崩壊ともいえる流れとは全くの別物だ。



 しかし私たちはこの「暴走」が抱える問題について知っていなければならない。



 なぜ、通常の輸入によって食料を手に入れるのではなく、わざわざ海外の農地を囲い込むのか?ノンフィクションの小説として生の部分にも触れながら次回は、この点について言及したい。
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